「それと、柚香ちゃんの気の鍛錬法だけど、今のように気を巡らすイメージを持ちながら、村雨丸を実際に持ってみるといいと思う」
「村雨丸を?」
急に真剣な顔になって金沢さんは頷く。テーブルに置かれた私の村雨丸に左手をかざしながら。
「蓮くんのロータスロッドは、もちろん蓮くん自身と強い縁を持っている。もう名前からしてそうだしね。
だけど、岡田切を好きなゆ~かちゃんの気持ちを反映したとしても、そこで『岡田切吉房写し』ではなく『村雨丸』である理由がきっとあるんだよ。今まで結構な数の武器を作ってきたけども、これ程までに強い繋がりを武器と持ち主の間に感じたことはないんだ。
さっき、『太刀を落としても戦闘継続しなきゃいけなくなったら』ってシチュエーションを想定したよね。けれど、この武器は絶対に君の手元から離れない。戦闘中に弾かれたりして落っことすことはあっても、ロストすることはあり得ない。
――そこで、柚香ちゃんと深く繋がっている村雨丸の特性である『魔力に反応して露を出す』ことを訓練に使えばいいと思う」
ひえええええ、なんかスピリチュアルな人に凄いこと言われてる! 私の手元から離れないって、例えば呪いの人形的にどっかに置いてきてもいつの間にか戻ってるってこと!?
いや、そもそも私から手放すことがあり得ないけどね!
「ぐ、具体的にはどうしたらいいんでしょうか」
手がかりが欲しくて食い下がったら、金沢さんは蓮くんに問いかけた。
「蓮くんは魔法を使うとき、気をどうやって流してる?」
「えっ……無意識に……」
「相変わらず役に立たない、この天然魔法使いめ……」
いい加減私やさぐれそうだよ……。私が斜め下を向いてケッ! って思わず呟いたら、蓮くんは肩を落とし、金沢さんはまた爆笑した。
「あー、だめだ。天性の才能の前では努力の仕方を訊いても無理って奴だね。いや、蓮くん、落ち込むことはないよ。魔法の才能は生まれつきのものだから、努力して出来るようになる人と、ナチュラルに出来ちゃう人とでは全くやり方が違うみたいなんだよね。
ちなみに僕は霊感はあるし気を操れるのに、何故かMAGが上がらなくて魔法は得意じゃないんだ。中級魔法を取るのが精一杯だったよ」
中級魔法を取るのが「精一杯」って……。
初級魔法も取れない私、立場が全くないんですが。
「……ふたりとも、私の参考にはならないみたいです」
「ごめんごめん。村雨丸を持ったままさっきの気を巡らす訓練をしてね、その時に刀を自分の体の延長だと思ってそっちまで気を流すんだ。これ自体はただの気を巡らす訓練でしかないけど、村雨丸を使う理由がひとつある。
それはね『気を通せたとき、証拠として露が出る』ことなんだよ」
「そっか! 確かに、成功してるか失敗してるか判断に難しいですけど、村雨丸だったらそれがわかるんだ!」
うわあ、震えた! 鳥肌立った! ただ切れ味がよくて美しいだけじゃなくて、私の低いMPとMAGでも魔力を鍛えることが出来る!
村雨丸、本当に凄い! ――あ、大事なこと忘れてた。ステータス補正確認しなきゃ!
ゆ~か LV6
HP 55/55(+180)
MP 6/6(+50)
STR 14(+100)
VIT 20(+80)
MAG 4(+30)
RST 5(+30)
DEX 17(+90)
AGI 21(+70)
ジョブ 【テイマー】
装備 【村雨丸】
従魔 【ヤマト】
「はいぃぃぃぃ!?」
え、えげつない程のステータス補正が付いている!!
「ここここここれ、これ見て」
「うわっ!? なんだその補正! やべえ、俺も装備して見てみよう!」
手を出してくる蓮くんにロータスロッドを渡して、横からスマホを覗き込む。
ロータスロッドの補正は――。
安永蓮 LV8
HP 30/30(+30)
MP 25/25(+200)
STR 6(+10)
VIT 7(+15)
MAG 15(+150)
RST 17(+90)
DEX 13(+55)
AGI 10(+80)
スキル 【初級ヒール】
装備 【ロータスロッド】
「えぐい偏り……これを装備してやっと、素のゆ~かのSTRに近いとか」
「うわっ、これ装備したらどんだけの威力のヒールが出せるの? 一発で全快じゃない?」
「能力値補正の総合計が、HPとMPは230で、それ以外のステータスで400か。アポイタカラやっぱり凄いなあ。確かヒヒイロカネだとHPとMPの補正は合計200で、それ以外のステータスは合計350だったよ」
「ひえっ……」
「ひいいい」
金沢さんの言葉に思わず怯える私たち。
どえらい武器を持ってしまった……。