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第52話 マニアック? いえ、我が家ではデフォルトです

「ははは、猫の足跡の刃文作ってる人いるねえ。あの人は本職の刀鍛冶だけども。


 さて、久々に魂が震えるような刺激を受けたよ。柚香ちゃんにはこの余っている分でもう一品何か作ってあげよう。もちろん費用はおまけだからタダだよ。そうだ、太刀は一応大物だから200万円になるよ」


「200万でおまけまで作って貰っていいんですか!?」


「本当に凄い物だよ、このアポイタカラは。ヒヒイロカネの色違いって言われてるけど、今まで扱ってきたヒヒイロカネより一段上だね。霊性が違う」




 霊性が違う……それは私には全くの分野だけど、蓮くんは激しく頷いてる。




「わかります。ヒヒイロカネは写真でしか見たことないですけど、あれは物理一辺倒ですよね。やる気はあるけどまっすぐしか行く気は無い、みたいな」


「君もわかる人か! いやあ、今日は凄い日だなあ。


 そうなんだよ、青は霊性の高い色なんだよね。多分その辺が関係してると僕は感じたんだけど、ヒヒイロカネよりアポイタカラの方がおそらく能力修正も高いし魔法使い用の武器としてもミスリルにも負けないものが作れそうだよ」




 青は霊性が高い色? 青と言えば私の中では蓮くんのイメージカラーなんだけど、確かに霊性は高そうだね。




 それにしても、もう一品かあ。メイン武器が太刀だから、小回りの利く、できれば投擲武器……と言ったらやっぱりあれだな。




「棒手裏剣が欲しいです。アポイタカラだったらそれなりに攻撃力が出そうだし、右太ももにベルトで、こう何本か留めておいて、中距離の時はすっと抜いて投げる! 即効性のしびれ薬とか塗っておいてもいいし」




 棒手裏剣を構えて投げるポーズを取って見せたら、金沢さんがフリーズした。あれ? 私何か変なこと言ったかな。




「おじさん、君が何者なのか疑問になってきたよ……棒手裏剣か、渋すぎる」


「何者と言われましても……オタクとオタクの間に生まれたサラブレッドオタク?」


「いや、本当におまえ何者なんだよ。手裏剣なんかあの十字みたいになってるやつしか知らないぞ」


「やーいやーい、一般人~」


「うるせえ、サカバンバスピス!」


「手裏剣は幼稚園の頃に投げてみたいって言ったら、小田原城の体験会に連れて行かれて、楽しくてハマっちゃって、ママが手裏剣何種類かと的にするための畳と段ボール箱を用意してくれたんです。


 最初は嬉しくて一日中打ってたんですけど、そのうち棒手裏剣が威力高いなって気づいて。中学入ってからも、こう、テスト前でストレスが溜まったときとかドスっとやってました。受験前とか毎日めちゃくちゃ打ってたので、もし熟練度があったなら凄いことになってると思いますよ」




 苦笑した顔が固まってる金沢さんと、口が開きっぱなしの蓮くんが目の前にいる。


 なんでやねん。ストレス溜まったら手裏剣打ちたくなるでしょ? ならないの!?




「手裏剣打ちたく……」


「なったことない」




 言葉の途中で否定されましたわ。早い。




「ちなみに金沢さんは今までに手裏剣作ったことは」


「ないなあ」




 あっ、そこで「ほらみろ」みたいな勝ち誇った顔で見下ろしてくるイケメンヒーラー! 腹立つ!




「サブ武器だからナイフ的なものがいいのかと思ったんだけど……一般的にもそのパターンが多いし。投擲武器で本当にいいの?」


「メイン武器が太刀になるって、実はあまり想定してなかったんです。今まで片手剣と盾だったので、両手持ち武器の戦闘術は学校でやってるくらいで」


「学校でやるんだ!? はぁー、冒険者科って凄いねえ」




 凄く驚いてる金沢さん。そうか、一般的には「高校で一通りの武器の扱いを叩き込まれる」ってシチュエーションないもんね。


 冒険者科だって設立7年目とか聞いたし、まだまだ世間一般への浸透度は低い。カリキュラムだって未だに試行錯誤中らしいし。




「なので、もしこの太刀を落としちゃったりしてそれでも戦闘継続しなきゃいけないってことになったら、私多分素手格闘にそのまま移行しちゃうと思うんですよね……」


「素手格闘も学校でやってるんだ!?」


「やってますし、我が家の中では回し蹴りとか正拳突きとか当たり前に飛んできます。それを腕で止めて上段蹴り入れ返すまでがコミニュケーションです」




 なんか心当たりがあるらしく、頭を抱えてるアイドルひとり。察しちゃったね、そう、ゲームやりすぎて動きが体にまで染みついちゃったママですよ!


 あの人凄いんだよね。ミュージカル見続けて殺陣たての完コピとかしたりするの。夜に庭で木刀振り回したりしてる。




「ちょっと待ってね、おじさん頭が混乱してきたから……。えーと……ああ、そうだった、はいはいはい。じゃあ、防具クラフトの方で手甲を作って貰う感じかな」


「そのつもりです。多分癖で左腕で攻撃受け止めようとしたりしちゃうと思うし」


「それならまあ……うん、本人が欲しがっている物が一番いい物だ。手裏剣も剣のうちだし、柚香ちゃんは結局そこに縁があるんだろうな。じゃあ棒手裏剣を5本作ろう」




 私の村雨丸を作った後半分くらいの大きさになったアポイタカラをテーブルの真ん中に据えて、金沢さんはまたあの祝詞を唱え、棒手裏剣をクラフトした。




 おー、これはアポイタカラの色そのままだあ! アポイタカラの鉱石がそのままうんと小さくなったみたいで綺麗。


 持ってみると、長さといい重さといいジャストフィット! 凄い、これは投げやすそう!




「わー、凄い、手にしっくりきます!! マイ手裏剣嬉しいー! ありがとうございます!」


「手裏剣が手にしっくりくる……いろいろな意味で勉強になったよ。ははははは」




 汗を拭きながら、何か悟りを開いたような顔で笑う金沢さん。勉強になったとは? 武器の知識に関してはプロの金沢さんの方が絶対上だと思うんだけど。

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