ダンジョンで拾ったアイテムは全部ダンジョンハウスで買い取って貰ったんだけど、【神々の果実・復活】が5万円で買い取られ、私たちはちょっと大騒ぎになった。
このクズアイテムが5万円!? 査定理由が全くもってわからない!
ダンジョンハウス、なんでも買い取ってくれるのは良いけど、謎すぎる……。
オークションで調べてみたら、数年前に1万円で売りに出された奴が落札者いないまま終わってたもん。
素直にダンジョンハウスで売ればよかったのに、オークションなんて欲をかくから……。
なんだかんだで58000円ほどの収入があったけど、3
人でわけようと言ったら「上級ポーションでお釣りが来るから」と寧々ちゃんには断られ、蓮くんが「解せぬ」って顔で1万円だけ受け取った。
確かに、上級ポーションのお値段見ちゃったら、ねえ……。
SE-RENの活動資金にもなるんだから、せめて蓮くんにはちゃんと受け取って欲しかったんだけど。
装備を作る予定もあるし、それも私の持ち出しだから、どうしても遠慮しちゃうみたいだね。
しょうがないから、蓮くんが受け取った以外のお金は鉄インゴットを買って、寧々ちゃんを家に送ったときにその場で押しつけた。クラフトスキルの熟練度上げに絶対使うからね。
先行投資! って言ったら納得してたのでヨシ。
翌土曜日、武器クラフトの職人さんである金沢さんの工房へ行くために、私と蓮くんは鎌倉駅前で待ち合わせをすることにした。
東海道線に乗ってまずは大船へ。そこから横須賀線に乗り換えて鎌倉へ。……と思ってたら、藤沢駅でドアが開いた瞬間、目の前に蓮くんが立ってるし。
「なんでいんの?」
「それは俺のセリフだよ……」
おかしい、鎌倉駅で待ち合わせのはずが、藤沢駅で早々に合流してしまった……。
そりゃ、待ち合わせ時間から逆算したらこの電車になるだろうけど、車両どころかドアまで一緒になる!?
「なんなんだ? 俺、こいつと思考回路が一緒なのか? いや、そんな……」
「なにげに失礼な言葉が聞こえましたが」
「いや、気のせいですゆ~か様。今日はよろしくお願いします」
武器を全部持ち出しで作って貰うという負い目からか、低姿勢の蓮くん。君は視聴者さんにもそんな丁寧語使ったことないよね……。
「まあいいや、武器クラフトのプロ職人さんに会うのは初めてだから、私は楽しみなのだ。実はまだ何の武器を作って貰うかすら決めてないんだけど」
「マジ? 武器決まってないのかよ。どうすんだ?」
「んー、その場で相談させて貰おうと思ってる」
「行き当たりばったりにも程があるだろ……」
私たちがドア近くで吊革につかまって立ったまましゃべっていたら、ちらちらとこちらを見ている人が何人か。
「うっそ、あれ、ゆ~かちゃんと蓮くんだよね?」
「うわ、この辺に住んでるって本当だったんだ……」
「ダンジョン行く格好じゃないよね? デートかな」
声潜めてるつもりかもしれないけど、聞こえてる、聞こえてるよ!
「わー、デートと間違えられてるー。草生えるー」
「あまりにも不本意そうに言われて俺が傷つくわ」
「ちょっとあの人たちのところ行ってくる」
「えっ!? おい、待てよゆ~か!」
慌てる蓮くんを置き去りにして、私は噂話をしてた人たちが座っている席の前に立った。
「こんにちはー。ゆ~かでーす。動画見てくれてるんですか? ありがとうございまーす」
聞こえてましたーってにっこり笑って言えば、慌てるのは向こうの方。そりゃな!
私の服もこの前あいちゃんに選んでもらったワンピだし、おしゃれしてるように見えてもしかたないもんね。
「ゆ~かちゃん、本物……!」
「本物だよ!? 今日はデートじゃなくて、鎌倉まで武器を作って貰いに行くんです。今度武器のお披露目配信もするから見てくださいねっ。てか、私この顔だけアイドルとデートする趣味はありませんよっ」
「ア、アイドルスマイル! 眩しいっ」
「俺じゃなくてゆ~かが?」
蓮くんまで来てしまった。噂をしてたお姉さんたちは口を押さえて「ひゃっ!」って悲鳴を堪えてる。
うん、芋ジャーじゃない蓮くんは見た目はイケメンだからね……。動画越しに見てたイケメンが生で目の前にいる衝撃がでっかかったんだろうな。
「蓮くん、スマイルするタイプのアイドルじゃないじゃん」
「そもそもおまえアイドルじゃないだろ」
「でもカメラの前に立ってる時間は私の方が圧倒的に長いんだよ。配信歴5年をなめんなよ」
「どーせ、レッスンもまともにしてないアイドルだよ、悪かったな!」
「電車の中で大きい声出さない!」
「おまえの声の方がでかい!」
流れるように言い合いになってしまって、車内の人々の非難の視線がこっちに向く。ああ、やってしまった……。いつもの車の調子でしゃべっちゃったよ。
「ガチ本物……」
「動画まんま……」
「アレ全部素なんだ」
お姉さんたちに呆然と言われて、私と蓮くんは揃って肩を落とした。
すみません、いつも素です。
「いきなりすみませんでしたー。デートとか言われてあまりに不本意だったのでつい」
「だからその言い方、俺が傷つくからやめろって言ってんだよ」
「もー、豆腐メンタルだなあ」
「うるせえな、アポイタカラメンタル」
「言い返せるくせに繊細ぶるのやめてくれない?」
「あっあっ、ふたりとも言い争いやめて。ごめんね、ふたり並んで立ってるとゆ~かちゃん可愛いし、蓮くんかっこいいし、お似合いに見えてつい『デートかな』なんて言っちゃって」
私たちの普段どおりのかるーいジャブの応酬に、デートかなって言った人が謝ってくる。誤解さえ解ければいいんだけど、過剰に心配させちゃったかも。
「こいついつもこんなに口悪いんだよ。気にしないで」
蓮くんがここぞとばかりにお姉さんたちにちょい悪スマイル! 今「ヒッ!」って小さい悲鳴聞こえた! ママが声を潜めずによく家で上げてる悲鳴と同じ種類のやつ!
「じゃあ、俺たちここで降りるんで。また応援よろしく」
電車がちょうど大船駅に着いたので、私たちはお姉さんたちに手を振って電車を降りた。お姉さんたちもぼーっとした顔で手を振り替えしてくれてる。
電車が発車したのを確認して、蓮くんがぐっと拳を握る。
「っしゃ! 今のでチャンネル登録3人は確保しただろ!」
「うわー、あざとい」
「草の根活動って言ってくれ。地味な努力してんだよ」
「あ、地味な努力で思い出したよ。蓮くんの家宛てに、木刀とタイヤ打ち込み台買って送りつけたから。ダンジョン行けない日は走り込みとそれでトレーニングして」
「お、おう……冒険者科よりはマシ……冒険者科よりはマシ……」
心を落ち着かせようとしてるのか、何かの呪文をぶつぶつと唱え始める蓮くん。内容は聞かなかったことにしておいてあげよう。
目の前に横須賀線が滑り込んできた。これに乗ったら2駅で鎌倉だね。
いざ、鎌倉!