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第45話 おそるべし【なまくらの剣】

 予告もしてないし蓮くんにもまだ連絡してないしってことで、寧々ちゃんとのレベリングは金曜日の放課後になった。今のうちに連絡と告知、っと。

 寧々ちゃんはLV1でまだクラフトスキルも取れてないそうなので、あいちゃんに頼んで【なまくらの剣】を作って貰うことにした。


 夕方はヤマトとお散歩を兼ねてランニング。たーのしー! ランニングハイってあるよね! あれで止まれなくなっちゃった人がいるっていうのは驚いたけど。


 そういえば、国分寺ダンジョンでコマンドに魔力が乗ってヤマトが「ステイ」を聞いてくれてから、普段のお散歩でも脚側きやくそく行進が当たり前にできるようになった! なんて、なんてお利口なんだヤマト!


 少しずつ日が延びているので、途中の公園でフライングディスクでちょっとだけ遊ぶ。

 私が高めに投げたディスクに向かってかなりの高さをジャンプしたヤマトは、ディスクをくわえて華麗に着地した。


 なんだ今の……動画撮っておけば良かった!

 じゃなくて、どう見ても犬のジャンプ力じゃないね。

 というか、そもそもヤマトはどう見ても柴犬だけど従魔だし【柴犬?】だから、柴犬型モンスターって可能性が高いんだけど。


「グッド! 凄ーい、凄ーい、ヤマト!」


 ディスクをくわえて「褒めて!」って顔で走ってきたヤマトを捕まえて、わっしわっしと撫でる。柴犬の笑顔、キュート!

 もう、モンスかもしれないとかどうでもいいや! 見た目が柴犬でこんなに可愛いんだもん。ヤマトが普通の柴犬と違うところは、身体能力だけだし。


 ……そういえば、魔石食べちゃうとかそういうこともあるっけ。まあ、そんなの些細なことだよね! 人間でも実際に魔石食べて、有害性を調べたって変人がいたらしいし。



 さて帰ろうかな、と思ったところでスマホがLIMEのメッセージ着信を知らせた。なんだろ? と思ったらあいちゃんだ。


『今湘南ダンジョンのダンジョンハウスにいるから来て。なまくらの剣作るよ』


 今からかーい! 明日一緒に行ってくれるのかと思ってたよ。

 でもそうするとあいちゃんが余計に時間食っちゃうのは確かだ。よし、これから行くか……。


 ダンジョンは相変わらず混んでるけど、ダンジョンハウスはそんなでもないね。

 着いた途端にあいちゃんが手を振っている。


「あっ、生ヤマト! かーわいいー!」


 あいちゃんがヤマトを見つけてしゃがんで「カモン!」してる。

 リードを放したらヤマトは「遊んでくれそうな人だ!」って気づいてあいちゃんのところへまっしぐら。で、ドーン!


「うわっ、力つよ! 砂付いたぁ」


 ヤマトの親愛体当たりを食らってあいちゃんは砂浜で思いっきり後ろに倒れた。そのあいちゃんをヤマトが尻尾振りながらべろんべろんと……メイク、してないよね?


「あいちゃん、メイクは!?」

「してなくてよかったよ! ちょっ、この子フレンドリーすぎじゃない? 可愛いけどさ!」


 うん……「柴犬は飼い主にしか懐かない武士のような性格」って言われてるんだけど、完全に個体差あるんだよね……。ましてヤマトはまだこどもだから。


「ひゃーははは、愛い奴め愛い奴め。今度また遊ぼうね。今日はお姉ちゃんお仕事があるからおしまい!」


 ヤマトが力強くても所詮は4キロ。あいちゃんはヤマトをひょいっと抱えて自分から引き剥がした。


「ダンジョンハウスでタングステンインゴット売ってるから、それ買って。そしたら私がクラフトで【なまくらの剣】にするから、制作費だけくれればいいよ。ゆーちゃんの分1振りだけ作れば良いんだよね?」


 友達の依頼でも容赦なく制作費を取るプロ意識、さすがあいちゃん。


「うん。蓮くんは初心者の武器でもモンス一撃では倒せないからね。てか、ダンジョンハウスでタングステンなんて売ってるんだ……」

「クラフトに使いそうなものは一通り売ってるよ。謎の品揃えだよね。タングステンは強度もあるし鉄より重いから、ゆーちゃんが訓練に使うなら絶対こっちの方がいいよ。クラフト質問板で調べておいた」


 ヤマトのリードを拾ってあいちゃんの服に付いた砂を払って、私たちはダンジョンハウスの中へ。そのままあいちゃんはまっすぐカウンターに向かう。


「タングステンインゴットの中をひとつお願いします」

「タングステンインゴットの中ですね。少々お待ちください」


 店員さんは合成音声みたいな感情を感じられない声で淡々としゃべると、カウンターの下に屈み込んで、割とすぐに銀灰色のインゴットを取り出した。カウンターに置くとドスン、って音がする。


「3万円です」

「あーーー、ちょっと待ってください。はい」


 電子マネーの残高が足りなかったから慌てて銀行口座からチャージして、それでお支払い。ピロリン。


「袋にお入れいたしますか?」

「いえ、このままでいいです」

「すみませんー、このままクラフトしたいので奥の部屋お借りしていいですか?」


 あいちゃんが店員さんにお願いしてるけど、奥の部屋ってそういうことにも使えるのか。


「どうぞ、お使いください」

「ありがとうございます」


 さっさと中に入っていくあいちゃん。インゴットを持ってついて行く私。てか、インゴット重っ! 見た目より重い!


 テーブルの上にインゴットを置くと、あいちゃんはダンジョンアプリでちゃちゃっと何かを選択した。


「よし、【なまくらの剣】選択っと。いくよー」


 インゴットの上に両手をかざし、あいちゃんがぐっと口元を引き締めた。インゴットが淡く輝き始める。

 そのままどのくらい経ったかな……多分2.3分だと思うんだけど、妙に長く感じた。あいちゃんがだらだらと顔に汗を掻いて、輝きが最高潮になった時、インゴットがぐにゃんと変形して1振りの剣がそこに現れていた。


「ふー、疲れたー。これだからメイク出来ないんだよね」


 ハンカチを取り出して汗を拭うあいちゃん……なんか、目の前でクラフト見るの初めてで、凄い物見たって感動しかない。


「スキルデフォルトレシピの【なまくらの剣】でこんなに大変なの!?」

「まだ熟練度が低いからだよ。慣れれば一瞬らしいし、MP消費は変わらなくてもその頃には最大MPがあがってるから疲労度も違って感じるはずだしね」

「おおおおおおおいくら万円お支払いすれば……」

「相場は5000円だね。そこで多く入れちゃ駄目だよ、今の私は修行中で、熟練度稼ぎを兼ねてるからね」

「わ、わかった……」


 また電子マネーチャージして、あいちゃんのスマホとアプリ同士でピロリン。


「わーい、クラフトでの初収入だ!」

「これが……なまくらの剣か……うん、見事なまでのなまくらだね」


 手に取って眺めようとしたら、これがまたかなりの重さ! これはダンジョンダンベルって異名が付くのもわかるわ!

 というか、『なまくら』どころか刃がないね。これはもはや殴る剣だ!


 これでモンスと戦いまくったら、そりゃあステも上がるわ……。期待しかない。


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