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第44話 柚香のトラウマ

「女子限定ー、私がダンジョンでモンスを瀕死にするので、とどめ刺してLV上げたい人ー」


 木曜日の昼、教室にみんながいるときに立ち上がって大声で呼びかけてみたら、数人がガタッと立ち上がった。というか、女子は全員私を見てるね。

 教室にいないのは彩花ちゃんだけだ。別名スナフキンといわれてる彩花ちゃんは、仲は良いけど休み時間はふらふらどっか行っちゃう。


「俺もLV上げたいが!? なんで女子限定なんだよー」


 文句を言ってきたのは浦和くん。てか、君は戦闘系だろうが。自分で上げなさいよ。


「戦闘系は……自分で上げようよ。女子限定って言ったのは、クラフトが多いからだよ」

「あー、なんだ、そういうことか」


 彼はあっさり着席した。なんだろう、学校の授業でいっぱいいっぱいになって、自主練する余裕がないのかな。


 いや、その理論で行くと学校の授業以外に鍛えてる私はおかしいと言うことに……。おかしくない、おかしくないよ!!


「LV上げたい!」

「私、多分あと1LV上げればクラフトスキル取れると思うの」


 ちらほらと上がる女子の手。それと、しつこく上がる男子の手。


「僕もクラフトなんだけどダメ?」


 ああ、須藤くんか……クラスの中でも、特にブートキャンプ辛がってる男子だね。ううーん。


「えーとねえ、なんでこんな募集を掛けてるかから説明しまーす。

 例のダメステアイドルと一緒に私も特訓したいんだけど、あっちの事務所の社長と配信するって約束した関係上ダンジョンじゃないと厳しいのね。

 効率良いダンジョンでのステ上げについて昨日相談して貰った結果、【なまくらの剣】で攻撃力下げて叩きまくって、とどめだけパーティー組んでない人に刺させて経験値取得しないのがいいってわかってね。

 ……つまり、あの顔だけは良いアイドルと同じ画面に映っても良いかってところなんだけど。これは各自の判断にお任せします」


 説明しきったら、上がってた手がどんどん下がる! なんてこった!


「あ、ダン配するのか……。じゃあやめとく」


 須藤くんだけじゃなくて、顔出しになっちゃうってことで、女子も引いてしまったみたいだ。


「柳川、放課後まで特訓してるのか」

「どんだけ体力あるんだ?」

「そうだよな……7時間授業の後にあの50万再生動画で3時間走ってた奴だったな……」

「僕なんか家に帰ったら夕飯まで寝落ちしてるのに」


 男子たち、真顔でざわつくのやめい! クラフトの女の子たちまで私のことを化け物を見る目で見ちゃってるよ。あちゃー!


「私生まれたときから水泳やらされて、ダンスとかスポーツ切らしたことないの! 多分スタミナだけなら誰にも負けないと思うんだ!」


 朝活ランニングは常に1位ゴールしてるわけじゃないけど、必ず3位までには入ってるし。そもそも学校来る前に5キロ走ってから来てるし。


 ……あれ? もしかして私、感覚おかしい? いや、かれんちゃんと彩花ちゃんも放課後一緒に何回かダンジョン行ったし……。

 そういえば、戦闘系女子ってふたりとも私と同じ中学だ……ってことは、中学がおかしかったんだ! きっとそうだ!


「柚香ちゃん、私やってもいいよ」


 私が思考の沼に落ちていたら、そんな控えめな声がかかった。

 寧々ちゃん! 我が救世主よ!


「いいの!? 顔映るよ? 服はあの芋ジャージだよ?」

「う、うん……顔出すのは恥ずかしいなって前は絶対無理だったんだけど、いろいろ見てたらダンジョン配信自体が当たり前なんだなって思うようになって。

 私クラフト志望でしょ? だからあんまり戦うのは得意じゃなくて、一緒にパーティー組む相手も思いつかないし、ちょっと困ってたの」

「寧々ちゃん、ありがとー! うん、クラフトの人たちいつも体育辛そうにしてるもんね。でもきつい辛いって言いながら頑張ってるの知ってるから! 一緒に卒業しようね! 約束だよ!」


 寧々ちゃんの手を取って思わず涙ぐんだよ。

 クラフトの女子がふたりリタイヤしてしまった件については、彼女たちの顔が日に日に暗くなって、学校休みがちになるの見て心配してたから、どうも思った以上に私の心の傷になってるみたい。


 家庭の事情による転校以外で、同じクラスの人がそうやっていなくなったことなかったから。


「柳川さん、配信じゃないときに一緒にLV上げして! 私も鍛えて、乗り切りたいの」

「わ、私も!」

「僕も配信じゃないときに、頼むよ!」

「だから泣かないでー、一緒に卒業しよう」


 え、私泣いてる?

 誰かに背中さすられてると思ったら、本当にボロボロ涙こぼしてた。


「だってぇー、大村さんと山本さんがどんどんボロボロになって学校やめちゃったのが凄い辛かったのー。悲しくて寂しくて、でもどうにもできなくて。一緒に鍛えよ? とか言ったらランニングでも辛そうな彼女たちを余計苦しくさせるってわかってたし……」


 だから、だから私は蓮くんを手遅れにならないうちにどうにかしたいんだ。

 あのステータスを見たときから、「なんでこんなに使命感感じちゃってるんだろう」と思ってたんだけど、私は蓮くんにいなくなってしまったふたりのクラスメイトを重ねてた。


「ゆーちゃん、あんたそういうとこ優しすぎだよ。他人の心配しすぎだってば」

「あいちゃんー、あいちゃん凄い、戦闘系じゃないのにバリバリ戦ってるし放課後ダンジョンも一緒に行けるし、ほんと凄いよ。大好きだよ」


 泣き出しちゃった私の頭を抱えてあいちゃんがよしよししてくれた。うえーん、あいちゃん優しいー。


「だって私、モデル体型のためにこれでもすっごい努力して運動してきたもん。クラフトの根性甘く見ないでよね。物作りする人は粘着型が多いんだから」

「いつも体育トップの柳川さんが、私たちのことまで見ててくれたの驚いたよ」


 私がかれんちゃんやあいちゃんと一緒にいることが多いせいで、今まであんまり話したことがなかったクラフトの女子たちが集まってきてくれた。


「クラフト集合ー、みんなー、手を出してー」


 柴田さんが声を掛けると須藤くんや他のクラフト志望男子も集まってきた。自然と全員で円陣を組んで、真ん中に向かって手を伸ばしてる。


「2ヶ月、地獄のブートキャンプを耐えてきました! 2ヶ月も耐えられたんだよ、私たち。柳川さんが言うとおり、やめちゃった子がいたのは私も辛かった。

 だから、全員一緒に卒業するぞー、オー!」

「オー!」


 最初の2ヶ月を耐え抜いたクラスメイトたちの、気合い入った声が教室に響き渡った。


「須藤ー、今度一緒にダンジョン行こうぜー。パーティー組んでLV上げすんぞ」


 戦闘系男子の中森くんが須藤くんの肩に腕を回してる。

 他のクラフトの子たちも、戦闘系の子たちと話し始めた。パーティー割りどうするかとか相談してる。

 もう、男子とか女子とか関係なく、今までお互い戦闘授業で知ってきた特性がうまく噛み合うように調節しながら。


 よかった……よかったよぅ。

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