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第40話 あいちゃんの配信のためにみなとみらいへ

 結局、魔力を流す方法はわからないまま。

 蓮くんに聞いてみたけど、こやつは選ばれし天然の魔法使いだから「わからねえ」と言われた。くっそー。


 ダンジョン1層なら広くて安全だしと思ってたんだけど、ヤマトが完全に私の命令を聞いてくれないと2層に行く危険があって良くないなあ。次回から場所は考え直そう。


 ポーション1本飲んでも蓮くんが再度バテたので、そこで配信は終了して私たちはダンジョンの外に出た。

 着替える前にヤマトを預けようと車に行ったら、ママが興奮気味にスマホを振り回している。


「速報! 知り合いの紹介で武器クラフトの職人さんと連絡取れたわ! 今度の土日にユズと蓮くんの武器を作って貰えるように頼んだから! 場所は鎌倉だからふたりで行けるわね?」

「えっ? 今度の土日? そんなに早くやって貰えるの? あっさり取れたね。てか、ママ送ってくれないの?」

「その日歩夢あゆむくんの朗読劇のマチネ取れてるの!! 無理! 日曜は融流とおるくんのバーイベよ! 配信昼夜買ってあるから家から動かないから! 

 ……クラフト職人は依頼料が高額だけど、そんなにみんながぱかぱか伝説金属で武器を作れるわけじゃないから、スケジュールは余裕があることが多いらしいわよ、さっき聞いた話けど」


 ああ、ママの最優先はやはりそっちか……。オタクの推し俳には誰も敵わない。

 あっさりスケジュール押さえられたのは驚いたけど、確かに伝説金属の武器なんて、普通はホイホイ持てる物じゃない。初心者ならなおさら。


 普通は市販の武器か、ドロップ武器で地道にいい物へ切り替えて行きつつLVも上げるものだしね。


 ちなみに、銃刀法という大変な法律があるんだけど、ダンジョンアプリを入れて冒険者であることを示せば、持ち歩くだけならクリア出来る。

 街中で抜いたらアウトだし、アプリで「冒険者登録」してから長期間LV1のままでも、銃刀法逃れと見なされて逮捕されるけどね。


 うん、ちょっと頭が切り替わって前向きになったかな! 武器作って貰えるの楽しみ!

 MAG上げについては今度の配信の時に視聴者さんに相談してみるのもアリだ。冒険者がいるってわかってるし。


 私は武器がまだ決まってないんだけど、今使ってるのはショートソードで、不便は感じてない。――でもこれだ、っていう確証も持ててない。そこら辺は職人さんに相談させて貰おうっと。


 ダンジョンハウスで着替えて戻ってきて、蓮くんを家まで送りながら明日の特訓はないことと、当分は自分でまず走り込みで体力を付けることを指示してその日は解散。


 そして、次の日の放課後はあいちゃんの配信にゲスト参加だ。今回は私の方のチャンネルでは流さない。なので、誘導は念入りにしておいたつもり。――それで。


「やる気が見られない」


 茅ヶ崎駅で合流した瞬間に、あいちゃんにいきなり言われた言葉がそれだよ!


「どの辺? ファッションコーディネートの配信で見せるやる気ってどう表現すればいいの?」

「ナチュラルメイクのひとつもしてない。眉もいじってない。髪の毛も学校のまんま。結い直しすらしてない」


 流れるようなダメ出しいただきましたー……。確かに、帰宅して顔は洗ったけど普段着に着替えてそのまま来ました。アイテムバッグの中にお財布とハンカチとのど飴を入れて。


「まあ、ゆーちゃんのことですからァ!? こんなことだろうと思ってましたしィ!? 全部私準備してきたけどね!!!!」

「やたら荷物が多いのはそれか! さすがはあいちゃん、激おこしてる割に面倒見がいい」

「しょうがない。先にドレッサーがある化粧室寄って、顔作ってから行くよ。私の配信で芋ジャーコールはさせないからね。芋ジャーなんて連想させない女の子に仕立て上げるよ」


 そういうあいちゃんは学校が終わった後、ナチュラルメイクまでして髪の毛も巻いて来てる。これが、女子力! 私が持ってない攻撃力だ!



 桜木町の駅で降りてから、動く歩道でお目当ての商業施設へ。

 この動く歩道の上で歩くと、ちょっとぽよんぽよん反発があって楽しいんだけど、「動く歩道は歩くもんじゃない」ってあいちゃんにママみたいに怒られた。


 あいちゃんは手回しが良いので、今日回る予定の店舗は撮影許可とってるんだって。あと、歩き回るから、商業施設自体にも連絡済みだそうで。そういう段取り立てる行動力凄いんだよね。


 まずは化粧室で普段入らない方のエリアへ。そっちは定員3人の区切られて椅子が置いてある本当の意味での「化粧室」。鏡があって、コンセントがあって、お化粧直しに使うスペースだね。


「ゆーちゃんはポニテがトレードマークだから、髪は結い直してツヤ出しするだけにする。毛先だけ巻いても良いけど、どっちがいい?」


 ほどいた私の髪をちゃっちゃとブラッシングしながら聞かれるけども……どっちがいいと言われましても。


「あいちゃんのお好きなように」

「わかった。毛先だけクルンと巻こう。いつものゆーちゃんとは違うんだぜってのを見せよう」


 ブラッシングの途中でツヤ出しスプレーをプシャーッとされて、またブラッシング。おお……ヤマトに私がするような丁寧なブラッシングだ。



 結局、あいちゃんに何度かお叱りの言葉をいただきながら、髪を結われ、巻かれ、眉毛抜かれて、「ナチュラルに見える手の込んだメイク」をされ……。


「ゆーちゃんって、毎日あれだけ走り込みしてる割に日焼けしないよねー。心肺機能を凄い鍛えてると日焼けの仕方違うらしいって聞いたことあるけど、それなのかな? でも紫外線ダメージは蓄積するんだから、日焼け止めはちゃんと塗りなよ。

 一応3色持ってきたのに、私と同じ下地とファンデでいけるのが納得いかない」

「ソーイワレマシテモ……」


 ……もしかして、私にMAGについて文句言われてる時の蓮くんの気持ちってこんなだろうか。

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