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第34話 サカバンバスピスの顔に腹立つ方

「改めて、臨時ユニットSE-REN(仮)《カツコカリ》のサカバンバスピスの顔に腹立つ方、安永蓮です」

「同じく、サカバンバスピスの顔に腹立つ方のゆ~かでーす!」


 私が自己紹介をした途端、ピキッと怒りモードに入った蓮くんがツッコミを入れてくる。


「待て、同じだろ!! なんで合わせてくるんだよ」

「なんでも何も、私だってあれ腹立つ顔なんだもん! この話前にもしたじゃん!

 あっ、サカバンバスピス見たら多分追いかけ回しちゃう方のヤマトで~す」

「サカバンバスピスって絶滅してるんだぞ?」

「そうだったの!? じゃあさすがのヤマトも追いかけられないじゃん」


『コントかw』

『蓮くんの新しい面発見』

『おかしいな、蓮くんがちゃんと15歳に見える』

『それだ!』

『ゆ~かちゃん、聞きしに勝る天然』


 クールを売りにしてるのにお笑いコンビのツッコミ担当になってしまった蓮くんが、目を泳がせてからコメントを読んでない振りをした。


「配信は基本的にゆ~かのチャンネルとこっちのチャンネル両方で見られるようにするから。……でも、こっちで応援してくれると嬉しいな」


 うおっ、蓮くんがスマホに向かってちょっと悪い笑顔を見せた! やれば出来る子なんだね……。同接数100くらいしかないのにコメントが湧く!


『ゆ~かちゃんは蓮くんとどういう関係?』


 微妙なコメント来た。思わず顔を見合わせる私たち。


「ダンジョンで俺と聖弥がゆ~かに助けられたのはだいたいみんな知ってるよな?」


『それは見たよ』

『呼び捨て、気安すぎじゃ?』


「ゆ~かさんって言ったら、さっきまでおまえ呼ばわりされてたのに気持ち悪いって言われたんだよ。同い年だし、それで呼び捨てになった」


 ヤマトを抱えたまま私もうんうんと頷く。だって本当に気持ち悪かったもんね。


『なんかわかるw』

『おまえ呼ばわりからはねえ……』

『仲良くなるの早いね』

『蓮くんにさん付けで呼ばれるよりは呼び捨てにされたい』

『まさか、前から付き合ってたり?』

『聖弥くんにはちゃん付けで呼ばれたい!』


 おっと、私にとっては見過ごせないコメが入ってるな。ちゃんと否定しておかないと。……と思ったら、蓮くんも真顔で私のことを指さしている。


「仲良くなるの早い……って、こいつ異様に気安いんだよ。クラスの男子ともこんな感じらしい」

「イエーイ! 人見知りしないのが最強スキルでーす! 誰かを応援出来る人って凄いよね。うちのママも若俳沼の住人なんだけど、ほんと応援してくれる視聴者さんって推せます! 今日からみんな私の推しだよ! ラヴ!」


 芋ジャーで指ハート作ってウインクしたら、コメント欄に溢れる『ぎゃー!』『ファンサエグい!』『芋ジャージなのに可愛い!』『ゆ~かちゃんに落ちた……』『アイドルよりアイドルしてる……』『ありがとう、ゆ~かちゃんも推しだよ!』の数々……。


 よし、これで仲良しの輪を増やして最終的には「ヤマト可愛いね教」で世界征服でもするかな! そしたら世界は平和になるよ。


「関係としては、言葉のやいばで殴り合う犬好きの会みたいな感じです。

 いるかどうかわからないけどガチ恋の方、自分の安全のためにも絶対私に危害加えようとか思わないでね。

 ヤマトという凄まじい番犬がいるし、うちのママが恐ろしいから、社会的に抹殺される可能性もあるから。マジで、マジで! 自分を大切にね!」


 私自身も一般人に比べたら凄い強いんだけど、それは一応伏せておく。

 本当に、ガチ恋の人いたら不憫すぎる。女が近くにいるだけで嫌な気分になるだろうしなあ。


『ガチ恋の身を心配するとかw』

『言葉の刃で殴り合う犬好きの会……わかるようなわからんような』

『蓮くんのガチ恋の存在見たことない』

『そもそもSE-RENは年齢が恋愛対象外だし』


 流れてきたコメントに蓮くんが微妙極まりない顔になった。


「別にガチ恋いなくていいけど……応援してくれるならそれで」


 拗ね拗ねモードだ。口尖らせて横向いちゃったよ。途端にコメント欄には『可愛い~』って流れまくる。

 可愛いか? これ。大人から見たら可愛いのかもしれないけど。


「で、アイドル的な活動はできないのでしばらくは今まで通りダン配……」

「ダン配しません、しばらくは!」


『えっ?』

『ダン配しない?』

『じゃあ何をするの?』


 蓮くんの言葉を遮って私がした宣言に困惑するコメント欄と、頭を抱える蓮くん。そこで私はビシッと片手を上げた。


「アンケート取りまーす。

 蓮くんのステータスのあまりのダメさに、冒険者科に通ってる私は危機感を憶えました。だから、助っ人を引き受けました。

 聖弥さんが復帰してきて私が抜けても、今のままダン配してたら、ふたりとも危険だと思いました。

 そこで、蓮くんを鍛えるためにユズーズブートキャンプ・ラグジュアリーデラックスという特訓メニューを考えているんですが、ひたすら特訓に励む蓮くんって需要ありますか? あるなら配信します!」

「おい、打ち合わせにないこと言うなよ! ダン配しないのマジか!?」

「あと1LV上がったら危ないって思い知ってるでしょ!? 経験値取得一切禁止だよ!」


『見たーい』

『ユズーズブートキャンプ……なんて不穏な響き』

『見たい!』

『冒険者科在籍っていうブレーンが付いた!』


「こいつがブレーンってガラかよ!?」

「私はダンジョンの素人じゃないもん、れっきとしたブレーンです! 特訓メニューは既に組んだし、それ聞いた蓮くんは真っ青になってました。うん、見たいって意見が多いので、配信しまーす。初回は明日ね」

「勝手に決めるな! ……ほんと収拾付かなくなってきたから、聖弥に電話で話してみたいと思います。元々電話はするつもりだったので、病院にも了承済みです」


 おお、蓮くん意外に手回しいいぞ。確かに、入院してる人と電話って難しいもんね。


 蓮くんはスピーカーモードで聖弥さんに電話をかけた。すぐに通話が繋がって、聖弥さんの声が流れてくる。


『電話ありがとう、蓮。配信見てたよ』

「だよな、ありがと。具合どうだ?」

『骨折した日より今日の方が痛い……あと、仰向けから体勢変えられないし、くしゃみすると死にそうになるね』

「そりゃそうだよな……風邪引くなよ。湿気てるからな」


『相変わらず仲良し~』

『聖弥くんお大事にね』

『尊い』


 なんだ、民度が高いなSE-RENチャンネルの人たち……。

 みんな優しいしふたりのことを本当に心配してる。『他人事最高ww』っていう私の視聴者さんとは違う人種に見えてくる。


『ありがとう。1日でも早く復帰出来るように安静にしてるよ』

「安静期間終わったら、聖弥にもユズーズブートキャンプを受けてもらうからな」

「えっ!? 僕もユズーズブートキャンプ!? ……いたたたた」

「じゃ、マジでお大事に!」


 聖弥さんの質問を封じて蓮くんが電話を切った。うわあ、これは巻き込む気満々だ。こいつ、相方を売りやがった……!

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