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第30話 ユズーズブートキャンプ

 結局、武器防具を作るのにはそれぞれ10キロの塊が1個ずつあればいいよねというどんぶり勘定をして、武器・上半身防具・下半身防具・靴用に4つずつ、念のためあと4つを予備+柳川家家宝として残すことにした。


 つまり、売るのは200キロのアポイタカラ……もういくらお金が入ってくるかは考えないことにした。税金ややこしいし、そもそもまだ売却してないんだし。

 なんか、拾ったアポイタカラは後で調べてみたら律儀に全部10キロだったんだよね。そこはばらけるのが普通だし、私が最初見たときには小さい欠片とかもあったはずなんだけどなあ。


 聞いた話、オリハルコンなんか金と同じ感じで、肉眼でギリ見えるかどうかって凄いちっちゃいのも出るって言うし、隠し部屋の壁の一部が青く光ってたから「あ、鉱床だ」ってわかったけど、あそこを掘ったってこんな結晶は出ないよね。


 ……もしかしたら、アイテムバッグに入れたときにストックされて、大きさが均一化された? そんな疑惑が湧いてきた。


「ヤマトの首輪をアポイタカラで作ろう!」


 ひらめいた! みたいな顔をしてパパが言うけど、即ママの脳天チョップが入る。


「そんな、誘拐してくださいと言わんばかりの事をしてどうするの」

「ヤマトを誘拐出来る人間がいるかな?」

「高LV冒険者を複数雇われたら怖いわよ。1グラム77980円よ? そのくらいやる人いる。ヤマト自体狙われたことがあるんだし」

「それもそうか……ああ、ユズ、パパも動画見たんだが、ダンジョン内でヤマトにリードを付ける意味はあるのか? リードのせいでヤマトの機動が制限される上にユズが転ぶ原因になってるだけに見えたんだけども」


 ……パパ賢い!! 脊髄反射で生きてる私やママと違う! なんでこの遺伝子を色濃く引かなかったんだろう。


「そうかー! テイマーなんだからコマンドでヤマトをリードすればいいんだよね」

「昨日見てた限り全然コマンド効いてなかったぞ。おまえテイマーの才能ないんじゃね?」


 何故かうちの家族の中になじんでる蓮くん、相変わらず口が悪いな。


きやくそくこう行進しんの訓練とかちゃんとしたのか? あれやっとかないとダンジョンで好き勝手走り回られるんじゃねえの?」

「や、やってない……でも朝晩のランニングの時はヤマトは暴走しないもん。ちゃんとダンジョン以外では言うこと聞くよ。

 ダンジョンでは猟犬の本能的な物なのか、私の命令より自分の欲求優先になっちゃうみたいで」


 必死に言い訳をしてみたけど、私に向けられた蓮くんの視線には明らかに呆れが混じっていた。おのれ。


「それ、なめられてるんだぞ? だから、ちゃんと訓練して常に自分の側に置いておくように躾けるんだよ。それが当たり前になればダンジョンでも暴走防げるだろ」

「蓮くん詳しくない!? 昨日のスタンプも犬だったし、もしかして物凄い犬好きなの?」

「……悪いかよ」


 ぷいっと横を向いたイケメンヒーラー、これは絶対かなりの犬好きですわ。

 普通の人は脚側行進なんて言葉知らないもん。私だっておとといヤマトの躾について調べたときに知ったくらいで。


「じゃあ、ユズーズブートキャンプ・ラグジュアリーバージョンを説明するけど」

「さっきと名前変わってるぞ! デラックスコースじゃなかったのか!?」

「そんなのどっちでもいいよ。要は全ステータス鍛える特訓コースって事だよ。

 まずは走り込みね。HPとVITとAGIに関係してくるから。生き残ろうと思ったらこれ必須。私は学校と合わせると多分1日20キロくらい走ってる。

 蓮くんはどのくらい走れる? 5キロから始めてランニングで15キロを目指すよ。ジョギングじゃなくてランニングだからね。息が切れる速さで走るの。もちろん走る前と後にストレッチ入念にね。

 それと筋肉付けるために朝起きたときにEAA飲んで、トレーニング後はプロテイン飲むこと。役割が多少違うから、それは後で自分で調べて。

 タンパク質だけ摂っても効率よく吸収されないから、亜鉛とか他の栄養素もきちんと摂ること」


 さーっと蓮くんの顔から血の気が引いた。想定してたより内容がきついんだよね、その反応はわかるわ。高校入ってすぐのカリキュラムの詳しい説明の時、クラスの半分くらいこんな顔してたもん。


「説明続ける?」

「い、一応。あと、今のプロテインとかの話は後でLIMEで送ってくれ」

「オッケー。

 初級ダンジョンの一番弱い敵が出てくるところで、盾持ってひたすら攻撃を受け続ける。できるだけ倒さないようにね。これもVIT上げでHPに影響が出る。私が攻撃してもいいんだけど、私よりゴブリンの方が弱いから楽だと思うよ。

 次にSTR鍛えるために、私が盾持ってるところに打ち込み。最初は100本から。スタミナが付いてきたら300本まで増やします。

 ショートソードとナイフと蹴りそれぞれ100本ね。これでSTRとDEXがあがる」


 私の言葉を遮るように、蓮くんがストップ! って感じで手を出してきた。


「おまえは俺を殺す気なのか?」

「生き残らせるためだってば。

 本当に猶予ないんだよ? LV9になる前にできることは全部やっておかないと。私もヤマトが強くて予想外にLV上がっちゃったから、これからは無駄にLV上げないように気をつけないといけないんだ。


 ガチでやればLVアップした途端にステータス跳ね上がるからね。LV10はもうこのやり方では反映しないから、蓮くんに残された機会は1回だけだよ。

 MAGとRSTは既に十分高いから何もしなくてもいいんだけど、初級魔法のスキル取ってファイアーボールを私に打ちまくれば更にMAGとMPが伸びるよ。私のRSTも上がって一石二鳥。

 今でも高いMAGを上げとくと、LV10以降は相当の火力が出ると思う。ヒールも初級ヒールじゃなくて、上級まですぐ取れるようになりそう。中級はもうLV9になったら取れるはず」

「ううう……」


 蓮くん、本気で悩んでるな。というか、デラックスバージョンじゃなくても走り込みだけでも十分きついんだけどね。


「あ、疲労回復に途中でポーション飲んでも大丈夫だよ」

「おまえ、それ先に言えよ! ポーション飲んでいいならラグジュアリーだろうがデラックスだろうがやってやる。どうせ基礎体力付けないと舞台とか無理だからな」

「言質取りましたー。ちなみに疲労回復効果があるのは1日1本だけです。これ冒険者の基礎知識ね」

「本当にそういうことは先に言えよ!! 出来ると思った俺がバカみたいだろ!?」


 キレっぷりが凄いなあ……。切れ芸アイドルって線で行くのもアリなんじゃないかと思っちゃうよ。まあ、もうちょっと希望持たせてあげるか。


「アポイタカラを売却したお金が入ったら、上級ポーション買ってあげるよ。そっち飲めば疲労は完全回復するから、行けるはず」

「ああ……借りがどんどん増えていく……」

「雪だるま式だね。利子はないけど」

「……聖弥肋骨2本折れてたけど、ポーション飲んだおかげで復帰まで2週間くらいらしい。あいつが復帰したら同じ事やらせてくれ」


 んんん? それは思いやりなのかな? それとも巻き添えかな。両方の線もあるね。


「あと、ひとつ頼みがあるんだけど……」


 ちょっと言いにくそうな顔の蓮くん。なんだなんだ、大変なことなのか?


「ヤマトを抱っこさせてくれ……癒やしが欲しい」


 表情と言うことのギャップにこけそうになった。深刻そうな顔して言うことがそれなんだ。完全に犬好き確定だ、これ。


「起きてたらね。待ってて、ケージ見てくる」


 今日はリビングにケージ置いておけなかったから、私の部屋にヤマトのケージがある。ドアが開けっぱなしなのは、猫たちが出入りするから。

 部屋を覗いたらヤマトのケージの中に、何故かサツキもいた。猫のジャンプ力だと簡単に入れちゃうんだよね。


「キュ~ン」

「お待たせヤマト~。寂しかったね、ごめんねえ。サツキ、ヤマトのお守りありがとうね」


 私を見た途端、立ち上がってケージに前脚を掛けるヤマト。

 うわあああああ、反則のポーズじゃん! まずは撮影!


 切ない鳴き声に、撮影終わったら即辛抱たまらずヤマトを抱っこして思いっきり頬ずり。私もべろんべろん舐められた。

 ……ヤマトと私の間には、信頼関係は間違いなくあると思うんだけど、なんでコマンド効かないんだろう。

 蓮くんの言うとおり脚側行進するしかないのかな。


 そんなことを考えながらヤマトを抱っこしてリビングに戻る。待ってましたとばかりに蓮くんが手を伸ばしてきたからヤマトを抱っこさせてあげた。


「ううううう、そうかー、舐めてくれるのかー。俺を慰めてくれるのか。ヤマト、可愛いなあ……可愛い、可愛い……」


 蓮くん、ヤマトにメロメロじゃん。ヤバい、自分を客観的に見ている気分になった……。

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