安永蓮 LV8
HP 30/30
MP 25/25
STR 6
VIT 7
MAG 15
RST 17
DEX 13
AGI 10
スキル 【初級ヒール】
装備 【――】
蓮くんの育成計画については、実は昨日から構想済みなのだ。昨日ダンジョンでちらっと見ただけだったから「とにかくヤバい」が先に立っちゃったんだけど。
「まず、STRは捨てよう。魔法使いでもMP切れ起こしたときのためにサブ武器でナイフとか持つ人もいるけど、ヒーラー一本で行って『口の悪いリアル癒やし系ヒーラーアイドル』の方がギャップ萌えするでしょ?」
「待て待て待て、一体おまえは俺をどの方向に育成しようとしてるんだ!? アイドルとしてか? それとも冒険者としてか?」
真剣に心配してる蓮くん。彼にとってはそこ大事なのか。
それは「俳優を目指してるからダンジョン配信は腰掛け」という前提で考えてたよ。
でも、必ずしも望んだ道に進めるとは限らないから、ある程度稼げる程度にステータス上げはしておいた方がいいのかな?
「どうしたい? 蓮くん次第だよ。
ちなみに私は『俳優を目指してるから本気で冒険者を今後ずっとやるわけじゃない。でもとりあえずダンジョン配信で困らない程度』というラインで考えてたけど」
「時々おまえすっごい的を射てくるから怖いんだよな……」
蓮くんはどんよりとした空気を背負ってうつむいた。
うわあ、悩んでるなあ。あのアホウドリ社長の下にいたら、確かに将来的にちゃんと俳優の仕事できるか不安にもなるだろうし、もう少し稼げる路線に行きたいのかな。
やがて彼はばっと顔を上げると、キリッとしたアイドルフェイスを作っていい角度で私に向けた。
「ヒーラーのくせにいざというときは剣でモンスターを一刀両断にしたりしたら、凄えかっこいいと思うだろ? ギャップ萌えってそういうもんじゃねえ?」
「ハイ、寝言は寝てから言おうねー」
「ダメなのかよ!」
思わず立ち上がって叫ぶ蓮くん。誰だよ、「柳川家血の気多すぎ」とか言った奴。あんたも十分血の気多いわ。
「それを狙うなら『ユズーズブートキャンプ・デラックスコース』を受けてもらうことになるけど?」
「ぐ、具体的に何をするか教えてくれ」
「教えを請う態度じゃない」
「教えてくださいゆ~かさん! ちくしょー!」
私がダメ出しして蓮くんが叫んだとき、バタバタバタとスリッパで慌ただしく階段を降りてくる足音が聞こえた。
「あんたたち声でかすぎ! ちょっとセーブしなさいよ。……じゃなくて、大変よ!」
いや、そういうママの声が一番でかいよ!? それにしても、ママがこんなに慌ててるって何だろう?
「調べたらアポイタカラ1グラムが今77980円よ! 鉱床も見つかったしこの先は確実に下がるから、必要な分だけ残して売っちゃいなさい!」
リビングのガラス震えるかと思うほど大きい声でママが言ったことが理解出来るまで、実に3秒くらいかかった。
人間は、想定外の事態の前にフリーズするんですね。
「……はいいいいいいいい!? 1グラム? 1キロじゃなくて? なんか980円が付いてる時点でスーパーの品物みたいなんだけど!」
「グラム! 金より価値があるのに1キロ77980円のわけないでしょ!」
耳を疑うとはこの事だわ。昨日リビング中に立てて「キレーイ」って遊んでたあのアポイタカラがそんなお値段しちゃうなんて。
「1グラム77980円……昨日拾ったの一体いくらになるんだよ」
ビビりながら蓮くんが口元を引きつらせる。うん、これはさすがに私もビビるけど。
「ちょっと待って、アイテムバッグ持ってくる。あの中に入れっぱなしだから」
私は一度席を立ち、自分の部屋へ行ってアイテムバッグを持ってきた。
アポイタカラをひとつ取り出して床に置くと、ママがそれを持ち上げた。
「米袋と同じくらいの重さだから、多分10キロあるんじゃない?」
「わー、主婦の計測法! 体重計持ってくるね」
洗面所から体重計を持ってきて、スイッチを入れてその上にアポイタカラを載せる。おおおお、ぴったり10キロだよ。ママ凄い。
「てことは、これ1個でいくらになるんだ?」
「1gで77980円でしょ? 10キロだと……桁が多すぎて0の数がわかりません!」
「しっかりしなさいよ現役高校生!」
リビングはプチパニックだ、全員が叫んでる。その中で唯一他人事でパニック状態が軽度の蓮くんがスマホの電卓で計算をしていた。そして――。
「やべえ、桁が多すぎてよくわかんねえ」
あああー、こいつもポンコツだー!