「さて、蓮くん。現状はダンジョン配信を続けるしかSE-RENには方策がないわ。ユズと一緒のダンジョン配信でお金を稼ぎつつ知名度を上げて、かつステータスもアップする。
この先何をするにもお金はかかるし、事務所の状態からして何か他のことをするための資金がなさそうだから。
そのダンジョン配信についてはユズと相談してちょうだい。あとこれ、胸くそ悪くて食べたくないから蓮くんの家と聖弥くんの家に1本ずつどうぞ」
ママが杉箱から出した辰屋の羊羹を酷い言いざまで蓮くんに渡してるー!! なんてこったー!
「えーっ、私食べたかったのに!! 食べたかったの・にーーーーーー!」
「アポイタカラ売ったらいくらでも買って食べられるわよ。ネットショップもあるし、食べきりサイズの詰め合わせとかも売ってるから」
「あ、じゃあいいや」
「待って……そんな理由で辰屋の羊羹持って帰らされるの、親にどうやって説明したらいいんだよ、俺は……」
出た、陰キャアイドル。ママはけろりとした顔でスマホを取り出しながら適当に答えている。
「社長のお詫びってそのまま言えばいいんじゃない?
あの社長がバカやってあなたたちを危険にさらしたあげく、聖弥くんが怪我をした事実は変わらないんだから」
「そ、そう言われるとそれで行ける気が」
まるっと言いくるめられている蓮くん。結構チョロいな。
「ところで蓮くん、そちらの親御さんとLIMEで繋がりたいんだけど、いいかしら。これからの活動についてとか保護者も確認が必要でしょ?」
「わかりました。じゃQRコード貰っていきます。ゆ~かの……」
「おばさんって言ったら腹パンするわよ。私は柳川
アイドルの命である顔を傷つけない無駄な気遣い……そしてさらっと名前で呼ばせてるよ。そこに見えない圧を感じたのかびくりと蓮くんの肩がはねた。
「わかりました、果穂さん。これからよろしくお願いします」
昨日の口の悪いキャラを封印して頭を下げる蓮くん。というか、よく考えてみると終始ママには敬語だったな。さすがアイドル、上下関係に厳しい。
「じゃあユズ、後はよろしく」
「イエスマム! 蓮くん育成計画ね。任せて」
「育成計画!?」
目に見えて蓮くんが怯えている。いや、彼は私たちにどんな印象持ってるんだろう。
蓮くんに昨日見せて貰ったステータス、かなりヤバかったからなんとかしないといけないんだけど。
学校で習ったけど、ダンジョンについての基礎知識も無く「なんとかなるだろ」で冒険者やる人が9割陥る失敗だそうだ。
「ステータス上げの方法について説明するよ。私の方がLV低いのにステータスは高かったでしょ? あれにはちゃんとした理由があるの。
蓮くんのステータスは今低いから、このままうかつにダンジョン配信を続けてLV10になるととてもまずいことになる」
「まずいこと?」
蓮くんは真剣な顔で私の話を聞いてる。よしよし、ずっとこのくらい素直でいてくれると楽なんだけどなあ。
「ステータスはね、LV10になった時点の数値を元にその後の伸び率が決定するの。LV10になるまでは、それまでにやったことが反映される。
私はMAGが低いんだけど、元が低かったせいでLVが3上がっても1しか上がらなかったくらい。一番習得難易度が低い魔法も習得出来ないから、そっちに関しては今詰んでる状態。
でもRSTは魔法攻撃を食らうことで上がりやすくできるの。これは実は敵でも味方でも良くて、蓮くんが初級魔法のファイアーボールを憶えたら私にぶつけまくってくれると私のRSTが上がり、蓮くんのMAGが上がるってわけ」
「やべえ……俺LV8だぞ、全然猶予ねえじゃん」
蓮くんが顔を青ざめさせた。そこで私は胸を張ってみせる。
「だから、あえて低層で経験値があまり入らないようにしながら、戦いまくるの。味方同士で攻撃し合うのもアリ。倒さなければ経験値は入らないからね。
私のLVが低かったのはそのせいだよ。ヤマトの暴走でLV上がっちゃったけどね。
つーまーりー、蓮くんはこれからユズーズブートキャンプに参加して貰います!」
「なんだその恐ろしさしか感じねえネーミング! 何をやらされるんだよ」
「蓮くんはもう魔法使い路線でヒーラー一直線で構わないと思うから、それに沿ったステータスを上げるようにトレーニングします! うろ覚えだからもう1回ステータス見せて」
「お、おう」
蓮くんがダンジョンアプリを立ち上げてステータス画面を私に示した。
安永蓮 LV8
HP 30/30
MP 25/25
STR 6
VIT 7
MAG 15
RST 17
DEX 13
AGI 10
スキル 【初級ヒール】
装備 【――】
「なんでこんなにMAG高いの!? ずるい!」
低い点の補い方を教えようと思ったんだけど、思わず愚痴が出たよね、羨ましすぎて。
ステータスの中ではMAGの初期値だけが完全に本人の素質依存なのだ。これが低いと頑張りようがなくてその後上がりにくい。例えば私とか。
「知らねえよ! 初期値が既に8とかあったぞ」
「なにそれ寺の息子? それとも陰陽師?」
「一般家庭だよ。そういえば、うちのばあちゃんが凄え霊感強かったな。話せる触れる祓えるで、なんか近所の人の相談とかにも乗ってた」
「やっぱり遺伝か……ぐう。ステータスを見るに、
「マジか、そんなことまでわかるのかよ」
「この近辺の初級ダンジョンの比較的低層階で魔法を使ってくるの、あそこしかないもん」
私の指摘が図星だったらしく、蓮くんは頬を引きつらせた。
はーっはっはっは! これが冒険者科の実力なのだよ!