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第26話 配信者として!!

「ママ、ちょっといいかな、私の意見」

「ごめん、ゆ~かの意思を無視してたわね。どうぞ」

「私は蓮くんとユニットを組んでダンジョン配信してもいいです」

「ええっ!!」


 社長さんがガバッと身を起こした。いいリアクションだね。

 そりゃ、ここにきて逆転ホームランみたいなもんだもんね。


 実は、私も昨日の夜ちょっとSE-RENについて調べたんだよね。だって、関わっちゃったし、彼らがいい状態とは思えないのを知っちゃったから。

 戦闘訓練も受けたことなさそうな人をぽいっとダンジョンに放り込むのは無責任が過ぎる。自分が潜るって言うなら止めないけどさ。


 それで、SE-RENの情報の少なさに驚いたし、あうつべourtubeのSE-RENチャンネルの最初の頃の動画と最近の動画を見比べたら、明らかに質が落ちてるのに気づいちゃった。


 最初の頃は編集もちゃんとされてる企画物でふたりでへったくそな料理作ったり、MVミユージツクビデオも1本あったりしたのに、あるときからダンジョン配信だけになってるの。

 多分そこが、他の人が事務所抜けてマネージャー引き抜いてったっていうタイミングなんだろう。動画編集はそれまでマネージャーさんがやってた可能性が高いね。


 これは、私が考えた結果の決断。


「ただし、私は事務所に所属するつもりはありません。配信料は半々にしてもいいですが、蓮くん側の配信料のうち、蓮くんと事務所の取り分も半々にしてください。

 それと、ドロップ品の売却とか現場収入があった場合は事務所に納める必要は無しということで。何故なら基本的にはそれはヤマトが倒した物ですから。蓮くんに戦闘能力が無いのは昨日十分わかりました」

「……戦闘能力が無くて悪かったな」


 私に聞こえるギリギリの声で蓮くんが拗ねる。いや、本当のことでしょ。


「戦闘能力、無くていいんじゃない? 蓮くんはヒーラーなんだから。聖弥さんの怪我の原因も、適性があまりない前衛で無理矢理戦ってたせいみたいですし。

 逆に私とヤマトはどっちも前衛適正なので、後衛ヒーラーの蓮くんがいると心強いんです。これが私側のメリット」

「ありがとう! ありがとうございます!!」


 一度体を起こした社長さんが、またうちの床にめり込んで土下座する。


「あとひとつ、マネージャーを付けるつもりがないなら、活動内容に口出しはしないことを約束してください。配信は定期的に必ずやりますので、その点は安心してください」

「ゆ~か……なんでそんな条件出してまで受けてくれるんだよ」


 泣きそうに顔を歪めた蓮くんが私を見て尋ねるから、私は思いっきり胸を張って答えた。


「私も配信者だからです! 新しい動画を定期的に出さないと、見てくれる人はどんどん離れちゃうの知ってるから。

 私は一山当てたしそれでもいいかもしれないけど、アイドルの蓮くんと聖弥さんには致命的でしょう? それはね、さすがに見過ごせないよ」

「ユズゥー!! あんたいい子に育ってー! ママ嬉しいよぉー!」


 ママ呼び方! 元に戻ってるしヘッドロックきつい!

 社長さんは取り出したハンカチで頭の方まで汗を拭きながら、ぺこぺこと頭を下げた。


「誠に……ありがとうございます。お恥ずかしながら昨年末から在籍タレントの移籍や社員の退職などが続いて、SE-RENのプロデュースもまともにできていない状況で、事務所存続の危機でして」

「だからそれは、そちらの事務所の都合でしょう? 本当に恥ずかしい話ですよ。なんで離れられたかとか考えました? 在籍してるよりフリーを選ぶほど、状況が酷いって事ですよ?」

「ママ、ダウンしてる相手に追い打ちコンボやめてあげて」

「おっと、つい格ゲーマーの魂がうずいて」


 そんな魂のうずかせ方はやめて欲しい……ほら、また社長さん沈んじゃったじゃん。


「とにかく、これで一応話はまとまりました。

 最初から録音しておきましたから、後ほど誓約書にしてこちらが捺印した物を2部そちらの事務所宛にお送りしますね。そちらも捺印していただいて、1部はこちらの控えとして返送してください」


 にっこりと笑顔になるママ。こういうときだけ笑顔になるの酷い。あと、録音してたのは私も気づかなかったよ。用意周到すぎる。

 私の向かいに座っている蓮くんが、口をパクパクさせて私に何かを訴えようとしている。ああ、大体わかるよ。「おまえの母怖すぎだろ」とか言いたいんだね。


「それでは、蓮くんとは打ち合わせたいことがありますので残っていただいて、社長さんはお帰りください。本日はお疲れ様でした」


 立ち上がってママは優雅にお辞儀する。私も並んでお辞儀をした。うん、社長さんに関しては「おととい来やがれ」って奴だった。


 社長さんはしばし呆然として何か凄く言いたげな顔をしていたけど、無言で笑顔の圧を掛ける私とママに負けて背中を丸めて帰って行った。

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