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第24話 オタクの高スペックを思い知りました

 配信を終えたら予定の30分をちょっと過ぎていた。

 時間足りなかったかな? でも1時間持たせられる自信は無いんだよね。私には配信者としてその辺のスキルがまだ足りない。


 そして、浮上してきた疑惑にスパッと切り込んでみます。


「ねー、ママってもしかして冒険者してたの?」


 こういう時はストレートに行くのがいいんだよね。ダイニングの方に引っ込んでたママはサンバの仮面を外して、それを壁に掛けていたところだった。


 ええええ、それインテリアにするのー? やめて欲しいなあ。


「ユズ、ママが冒険者してる暇があったと思う?」

「……確かに」


 少なくとも私の記憶の中では、ママが冒険者の装備的な物を持ってたり、ダンジョンに行ったりしてたことはなかった。

 幼稚園の時は毎日送り迎えされてたし、小学校に上がってからは土日はママさんバレーやってたし。


「でも、コブダイの喧嘩に対抗してるってのは」

「あのね、冒険者ってステータスが上がるでしょ? ユズはまだそんなにLV自体高くないから『一般人の鍛えてる人』の枠を出てないけど、上級冒険者なんかはとんでもないことになるらしいわよ。


 そういう人たちが日常生活を普通に送れるのは、無意識もしくは意識的にに力をセーブしてるからなの。これ、冒険者に興味ある人の中では割と常識な話よ。

 コブダイの喧嘩はユズが小さい頃からやってたから、『これをするにはこのくらいの力』ってリミットがユズにはかかってるんじゃないの?」

「詳しくない!? やっぱり冒険者してたんでしょ?」

「あんたが『高校は北峰の冒険者科に入りたい』って言い出してから2年経ってんのよ!? オタクの情報収集能力なめんなよ!」

「そうかー! ヤマトだってうちの中ではステータスフル活用してないもんね!」


 ダンジョンで走るときのヤマトと、猫たちと追いかけっこしてるときのヤマトは全然違う。あれって自分でリミットかけてるのか。

 多分私を噛んじゃったことで、ヤマトは自分の力が強すぎるって気づいたんだろうなあ。


 ……などと考えていたら、LIMEのメッセージが入った通知サウンド。

 かれんちゃんたちからダンジョンへのお誘いかなと思ったら、蓮くんからだった。


『こんばんは』


 スタンプもなく、ベタ打ちの文字!

 うわあ、蓮くんSNSだと丁寧になるタイプ? 調子崩れるなー。

 とりあえず、同じテンションで返してみる。


「こんばんは」

『今日は本当に助かった。ありがとう。

 あの後社長に話聞いたら、ゆ~かの50万再生を知った社長が、サザンビーチダンジョンなら一山当たるかもと思って、ボス倒せって言ったことがわかった』

「うっは、殴って良し!」

『いや、自分の所属事務所の社長を殴らねえよ。どんだけ血の気多いんだよ柳川家』


 あ、昼間の調子に戻ってきたね。キャラ作ってるって言ってたけど、これは8割以上素だと思われるなあ。


『じゃなくて』

「じゃないんかーい」

『社長がゆ~かの母の脅しにマジで怯えてて、明日謝罪に行きたいから都合を聞いてくれって言われて』

「わかった。ちょっとママに聞いてみる」


 ママのところへ行ってスマホ見せようかと思ったけど、私のお膝ではサツキとヤマトがおねんね中である。合計8キロで身動き取れない。


「ママ~、蓮くんからLIME来てて、なんか社長がママの脅しに怯えてて明日謝罪に来たいんだって。都合聞いてくれって言われてるんだけど」

「はァン?」


 ひっ、もう既に最低クラスに音程の下がった声! 怒られてるの私じゃないのに怖くなるよ。


「うちの敷地に入ったら命の保証はないと伝え……いや、ちょっと待って。そうだなー、この際だから蓮くんたちのためにもシメとくか。明日の午後なら空いてますって伝えてくれる?」

「イエスマム!」


 ママ、隠しきれない殺意が滲んでる気がするんだけども、社長さんうちに来て大丈夫かな……。


「午後なら平気だって」

『サンキュー☆』


 おっ、初めてスタンプが来たぞ。私も持ってる犬のアニメスタンプだ。

 その後、何回かのやりとりがあって明日の午後2時に社長さんと蓮くんがうちに来ることになった。



 翌朝、学校がある平日と同じ6時に起きて私とヤマトはランニングに行ってきた。

 昨日リード壊れたんだけど、新しいリードは昨日のうちにママから連絡を受けたパパが用意してくれてた。娘ガチ勢の配信チェック、こういうときに便利だよね。

 土曜日はお弁当がないから、さすがに朝7時でもママはキッチンにいない。

 ……と思ってたら。


「いただきまーす」

「いただきます」

「おはようございます」


 いつもより30分遅く家族3人で囲んだ朝食のテーブル、手を合わせたままひとりだけ間違ったセリフを言った人がいるよ……。


「ママ……それはご飯の時に言う言葉じゃないよ」

「ぐふっ」


 ママが食器を上手く避けて沈没してた。なんだかお疲れオーラが漂ってる。


「いや、ね……。昨日の配信を見返したり、SE-RENとアルバトロスオフィスの情報集めたりしてたのよ。そしたら朝4時になってて」

「おやすみなさいじゃなくて良かったな」


 パパが追い打ちを入れている。ママは更に沈んだ。


「今日のママはダメ~、アホウドリ社長が来たら洞爺湖の木刀で天然理心流の三段突き入れちゃうかもしれない~」

「朝ご飯食べたら寝なよ、食器は俺が洗っておくから。ユズは洗濯物頼むな」

「イエッサー!」

「パパ優しいー。お言葉に甘えて寝るー。来客があるからリビングの掃除もお願い」


 さらっと追加で家事をオーダーするママ。ちゃっかりしてる……でも掃除機掛けてたらうるさくて寝られないんじゃないかな?


「やっとくよ。妻が人殺しになるよりマシだし」


 それに対して平然と答えるパパ。

 器が大きいなあ……。ママの奇行に何も動じないもんね。これが、長年連れ添ってきた夫婦力か。


 とりあえず、傷害事件にならないようにママを寝かせて、リビングは恥ずかしくない程度に掃除します。あ、ママが武器にしそうな物も念のためにしまっておこう。


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