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第21話 雑談配信をしたいです!

 車で南部総合病院に着くと、ママは私たちを連れて救急受付の方へ向かった。聖弥さんの名前を出して、同行者であることを説明している。


「社長、こっちに来るそうです」


 スマホにメッセージが入ったらしく、蓮くんがママと看護師さんに向かって話していた。


「むしろ来なかったら洞爺湖の木刀持って事務所に殴り込みするところだったわ。そういえば、蓮くんと聖弥くんの親御さんは?」

「俺たちは藤沢市民で実家住みだから、家にちゃんといますよ。でもさすがに聖弥の親の連絡先は俺も知らなくて」

「それもそうね、聖弥くんも意識はあるし、むしろそういうのは社長の方から連絡すべきよ……」


 ママ、言葉の最後の方がホラー映画の怨霊みたいな声になってたよ……。


 私は救急待合の長椅子の上に、預かっていた蓮くんと聖弥さんの装備を出す。

 一旦受け取り拒否されたカーボンナイフも、人から見えないように聖弥さんの盾の下にこっそり置いた。


「それじゃあ、私たちはここで。社長と鉢合わせるのも気まずいし、理性が飛んでぶん殴っちゃうかもしれないから失礼するわね」


 わー、ママがさらっと不穏なこと言ってるよ。病院で怪我人出すつもりか。


「聖弥さんにお大事にって伝えてね。蓮くんも今日はお疲れ様。なんか困ったことがあったらLIMEして。ママが相談に乗ってくれると思うから」

「丸投げかーい」

「そうじゃーい」


 病院の廊下でまたコブダイの喧嘩を始めた私とママを見て、蓮くんがクッと笑った。

 あ、蓮くんって笑えるんだ。いや、当たり前か。

 でも、しかめっ面のイメージが強すぎてちょっと驚いちゃった。


「たまには笑った方がいいよ」

「唐突に何だよ」

「蓮くんのこと。おでこの皺が消えなくなるよ」

「……今のおまえの言葉でそのおでこの皺が出来そうになったんだが」

「怒りんぼ系アイドルってむしろ斬新~」

「うるせえ、その何も考えてなさそうな腹立つ笑顔はなんだよ! サカバンバスピスって呼ぶぞ!」

「病院よ、静かにしなさい」


 私と蓮くんの頭に、ママの拳がコツンコツンと当たった。そうだ、病院でしたね……。


「今日は本当にいろいろありがとうございました。ゆ~かも、あの時助けてくれてありがとな。もしあの時声かけてくれなかったら、俺たち本気で命危なかったと思う。ヤマトのことも俺の分までうんと褒めてやってくれ」

「いや、それ多分時効だよ。褒めるならその場で褒めないと」

「おまえ……本当に余計なこと言うよな。俺はお礼を言ってるつもりだったのによ」


 蓮くんがこめかみに青筋立てた。うーん、短い間に妙に見慣れた感じの顔。


「それじゃあ、帰りましょ。蓮くん、またね」


 ママがまたねと言ったので、私も釣られてまたねと言って、手を振ってその場を去った。――それがまさか再会フラグを立てたことに気づかずに。



「あー、もう今日はなんか夕飯買って帰ろ。ユズは何が食べたい?」


 病院の駐車場から車を出しながら、ママが私に尋ねた。

 え、そんなこと言われたら言うことはひとつなんですけど!


「スーシー」

「あんた本当にお寿司好きよね……。ユズのおごりならいいわよ、相当稼いだでしょ。チャンネル登録も増えてるから収益化してるし、今日のドロップも……って、やだ、忘れてたわ。サザンビーチダンジョン当分行けないじゃない! どっか別のダンジョンハウスで換金したりしないと!」

「あーっ! そうだよ、あそこ近くて良かったのにー! 治安が悪くて近づけなくなったよ!」

「でもそれ、あんたが実況で『いつものサザンビーチダンジョンに来てます』とか言ったせいだからね。どっか近場で行けそうなダンジョンはピックアップするけど、私が送り迎えしないと無理ね……」

「え? 海老名の国分寺ダンジョンくらいなら自転車で行けるよ?」

「ヤマトをカゴに入れてかーい! いや、確かにあんたやかれんちゃんたちは行けるだろうけど!」


 うんうん、私たちは体力バカだから、自転車があれば横浜辺りまで余裕で行けるのだ。時間は確かにかかるけど。


 その日の夕飯はお寿司をテイクアウトすることになった。やったー。

 私は開設したばかりのX‘sのアカウントをあうつべourtubeのチャンネル概要に記載して、今日の21時から雑談配信をしますとX‘sの方に書き込んだ。


 おおおお、見ている間にフォロワーがどんどん増えていく。「雑談配信楽しみにしてます!」とかのコメントも山盛りだあ。

 これどこまでフォロバすべき? むしろしなくていいのかな? あとで蓮くんに聞いてみよう。


「ママ、今日の夜9時から雑談配信やっていい?」


 私の画像フォルダにあるヤマトの写真を次々にアップしながら、ママに一応確認を取る。部屋は映したくないからリビング使いたいんだよね。


「えー、ちょっと時間遅くない? 明日土曜日だからって夜更かしするのやめてよ」

「もうX‘sに書き込んじゃった。てへぺろ☆」

「この確信犯め! じゃあ撤回出来ないじゃない! あとでフォローさせなさい!」

「許可出さなくても勝手にフォローするんでしょ? ママのアカウント知らないし!」

「巧妙に隠してるもーん。てへぺろ☆」


 ママのステルススキル、本当に凄いんだよね……。実況配信にも絶対コメント入れてると思うのに、どれかわかんないんだもん。


「動画とか7chのスレとか、絶対ママが書き込みしてると思うのに、これだって思えるのがみつからないんだよねー。スネークなの? 段ボール被って移動してるの? それとも忍者?」

「一般人に擬態するオタクスキルをなめんなよ」


 アッ、ハイ、そうでした!

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