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第17話 行きが本番とは限らない

 聖弥さんの外せる装備は外して、蓮くんの武器もまとめてアイテムバッグへ。

 そして、この中で一番頼りない蓮くんが聖弥さんを背負うことになった。


「大丈夫? その状態で砂浜歩ける? 私が背負った方がいいんじゃない?」

「やめろ、それだけは絶対やめてくれ! 俺のプライドが死ぬ!」


 蓮くんが頑なに遠慮するので、私とヤマトが彼らの護衛をしながら地上へ戻ることにした。


 というか、担架があればよかったな。肋骨折ってる疑惑がある人を背負って運ぶっていうのは、見てる方も心臓に悪い。


 蓮くんはゆっくり砂浜を歩いた。きっとあれは聖弥さんに衝撃を与えないためだよね。体力無くてサクサク歩けないんじゃないよね……。


 途中、カニの形のモンスターのミニカルキノスとか出て来たけど、私の盾での裏拳一発かヤマトの噛みつきで倒していく。出た魔石はヤマトが美味しくいただき、ドロップがあったらぽいっとアイテムバッグへ。


 最初、カニが出て来たときヤマトが反復横跳びをしながらじゃれつこうとして、ハサミで鼻を挟まれてキャイン! って鳴いてたのはいい思い出です……。次からは敵認定したらしくてしっかり戦ってた。


 6層の森林エリアへの階段を上ったとき、蓮くんがはーはーと息を切らしながら立ち止まった。


「5分、休ませてくれ……」


 そう言いながらも聖弥さんを下ろさないのは偉い。


「そうだ! 聖弥さんをアイテムバッグに」

「絶対入れるな! スプラッタだ!! おまえ、学校で習わなかったのか!?」


 むう……怒鳴る元気あるじゃん。

 というか、アイテムバッグなんておいそれと手に入るアイテムじゃないから、情報はそんなに出回ってないんだよね。学校でもまだ習ってない。


「生体はアイテムバッグに入らないんだよ。あと、同じ種類のアイテムは複数入れても1スロットしか消費しないから、小のアイテムバッグでも思ったより物が入るんだ」


 柔らかい声で聖弥さんが補足してくれる。知らなかった……。

 ダンジョンアプリを開いてみたらアイテムバッグの項目が出来てて、確かにアポイタカラはまとめて1スロットの扱いになってる。数は32って表示されてるね。

 ポーションとか複数持つとかさばるから、この仕様は助かる。


「ポーションがあと2本あったら、ふたりに1本ずつ飲ませられたのにね。不測の事態に備えて多めに持ち歩くべきだったよ」


 聖弥さんの場合は体内の損傷部分の回復で、蓮くんは疲労回復だ。

 骨折は治るのに時間がかかるけど、ポーションを飲めば痛みを抑えられるし、少しだけ治りも早くなる。


「気にすんな。1本も持たないで来た俺たちが準備不足だったんだよ」

『ポーションは2本は持っとけ』

『いや、できれば3本。最低1本だな』

『駆け出しアイドル、金がないのか』

『でも芋ジャ……初期装備シリーズじゃないんだな』


 私の方で流れるコメントを見て、蓮くんのこめかみにピキッと青筋が立った。


「どうせ駆け出しで金がねえよ! あと、さすがにアイドル名乗るからにはあれは着られなかった! それで装備買ったから資金が尽きた!」

「なーるほど」


 休んでいる間に飛んできたジャイアントバットは、ヤマトが飛びかかって撃退する。あーん、なんて優秀な護衛!


 5分が経ってそろそろ出発しようかというとき、階段に向かってきた集団が私たちを囲んだ。


「へいへい、お嬢ちゃん、いい物持ってるじゃーん。それ、ちょっと手に取って見たいなあ」


 ナイフをちらつかせながら、アロハ姿のいかにもな輩が4人組で絡んでくる。


「アロハは市役所職員だけでごちそうさまです。おととい来やがれ」

「おまっ! 挑発すんなよ、俺動けないぞ!?」

「大丈夫、私とヤマトがいるから」


 男たちは私からすると強そうには見えない。今日は人がたくさんいるから6層まで降りてこられたんだろう。


「ふーん、自信満々じゃん。50万再生したからってイキッてんじゃねえよ! このメスガキが!」


 いや、別にイキッてませんけど……。こういう人たちって、痛い目見ないとダメなのかな。


 舌打ちをしたひとりが、ナイフを振りかざしてこちらに襲いかかってきた。私に向かって手を伸ばすけど、私は半身でかわす。

 哀れ、男の手はバッグをかすっただけで……いや、かすってない! バッグが半実体化して男の手をすり抜けた!


 凄い凄い! 所有権と使用権が私にしかないってこういう事なんだ! こーれーは便利。


 そして、男はヤマトにガッツリ脚を噛まれて悲鳴を上げながら地面を転がった。

 その間、僅か10秒程度で……。


 この人たち、私が貴重なアイテムを持ってることは知ってても、動画は見てないのかな? ヤマトが常識外れに強いって知らないの? 所有権設定もしたって間違いなく実況でさっき言ったよね?

 命知らずのバカって怖いねー。こういう大人にはなりたくないな。


「今の配信されてたから、こっちの正当防衛だって証拠残ってるよ。同接3000人が証人だよ。それと、治療費はびた一文たりとも払いません! これ以上文句があるなら、ヤマトよりは弱い私がガチで相手するけど?」

『そうだそうだ!』

『通報しました。リアルに』

『ぶちかませ、ゆ~かちゃん!』

『ゆ~かがガチで戦う、だと?』

『ステはそれなりだけど、カニ相手以外にどれだけ強いか未知数だな。これは見物みもの


 右足を一歩引いて、左腕にある初心者の盾を男たちに向ける。こっちに来たら盾でぶちかますぞ、って構え。腰を落とした私の隙のない構えに、男たちは顔を青くしてお互いに目配せし、「憶えてろよ!」という古典的な捨て台詞を残して逃げていった。


「ヤマト、グッド! 偉ーい! さすが強いでしゅね~♡」

「むしろおまえ、何者なんだよ……」


 蓮くんの顔が青い。怖い思いをしちゃったのかな。私はヤマトが全員瞬殺してくれるって信じてたから、何も怖くなかったけど。


「私は偶然ヤマトをテイムしてバズっただけの、ダンジョン初心者だよ。まあ、格闘術とか武器戦闘とかは学校で習ってるけど」

「冒険者科……恐ろしいところだぜ」


 ぽつりと蓮くんが呟く。恐ろしいところというのは認める。通ってて時々学校の正気を疑うもん。

 そこで本当に休憩は終わりになって、後は私とヤマトがモンスターを片付けているだけで地上に辿り着けた。そこで配信は終了。


 ダンジョンから出た途端、また囲まれる。今度は良識ある大人の人たちに。

 救急車を呼んでくれる人、ダンジョンハウスで買ったらしいポーションを蓮くんに飲ませてくれる人、ヤマトをモフる人……。


 そして、私のスマホがブルブル震えて着信を知らせた。


『ユズ! 大変なことになってたね! 車で迎えに来てるから、今車駐めてそっち行くわ!』


 うわー、ママが来た……。

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