私の目に飛び込んできたのは、まるで最高級のサファイアのような美しい青色で、パールのような鈍い輝きを放つ六角錐の鉱石だった。
それが、こう、ゴロッゴロと転がっててね。とっても綺麗!
『まさか、アポイタカラ?』
『えっ、幻の?』
『しかし、幻想的な光景だ』
『赤箱もあるぞ! 大当たりじゃねーか』
「えーと、この鉱石、アポイタカラ……って言うの? あんまり聞いたことないですね」
『ヒヒイロカネの色違いだよ』
『沖縄のニライカナイダンジョンで前に見つかったことがあるけど、それ以来発見例がない』
ひ、ひええええ、凄い物を見つけてしまった! ヒヒイロカネといったら、オリハルコン、ミスリルと並ぶ伝説金属!
そのアポイタカラの鉱石が、ゴロゴロと落ちているんですよ。思わず綺麗! って言っちゃうほどに。大事なことだから2回言いたくなるよ!
「おい、何やってんだよ、拾わないのか? 配信見てるヤバい奴が横取りしようと考えて降りてくるには十分な時間があったぞ」
言葉の後半はスマホが拾わないように私の耳元で小声で、蓮くんが忠告をくれる。
そうだ、ダンジョン前に輩が待機してたくらいなんだから、少しでも腕に覚えがあってダンジョン内で待機しながら横取りをしようと思ってる悪い奴がいたら、ここまで降りてきてもおかしくない。
「でも、持ち帰れる量には限りがあるし……」
私は背中のリュックを示した。
『ゆ~かちゃん、宝箱!』
『宝箱を見つけてすぐに開けない冒険者初めて見た!』
「あ、そうか、まず宝箱を開けよう! それから優先度を付けて持ち帰ろう!」
内心、アポイタカラがさっきのシーサーペントの魔石とちょっと似てたので、いつヤマトがかじり出すかと気が気じゃない。
「赤箱です! これはさすがに私も期待します!」
宝箱には種類があって、リスポーンしないけどいい物が入ってるのが確定の青に金の縁取りが入った通称青箱、リスポーンするけど、中身は開けられなかった時間分豪華になっていく赤に金の縁取りの赤箱、それとリスポーンする一般宝箱の黒箱がある。
そして、これは15年間開けられなかった赤箱……! とんでもない物が入ってるはず。
「あ、私が開けていいかな?」
隣にいる蓮くんに一応確認したら、凄い驚かれた。
「いや、俺はお情けで撮影させて貰ってる駆け出しDアイドルだから? 宝箱の権利はないし」
「卑屈な感じがしたけど、じゃあ開けますね」
私はえいやっと宝箱を開けた。途端に流れる怒濤のコメント。
『罠の警戒しないんかい!』
『ゆ~かちゃん、もっと慎重に!』
『罠、罠あったら危ないよ!』
「あ、大丈夫ですよ。隠し部屋の宝箱には罠はないって学校で習いました」
『知らなかった……』
『冒険者科凄いな』
『ゆ~かちゃんの配信、なにげに勉強になるな』
そう、ダンジョンの普通のエリアにある宝箱は罠の危険があるんだけど、隠し部屋の中の宝箱は罠の心配が無い。授業で習った。
とはいえ、隠し部屋の存在自体が少ないから、「今まで罠があった前例がない」というくらいの信頼度でしかないんだけど。
じゃあ失礼して中身を……って、宝箱の中身はすっごいシックなショルダーバッグだ。シンプルで、でもどっかのブランドで見たような感じでお高そうな……。
って、ただのショルダーバッグが宝箱に入ってるわけはないから、ダンジョンアプリで撮影して鑑定してみたら【アイテムバッグ(大)】だった。
あ、あの伝説のアイテムバッグ!! 正直、アポイタカラより私はこっちの方が嬉しい。
これは大きさを問わず500個のアイテムが入るそうだ。試しにそこら辺のアポイタカラに触ったら、バッグよりはるかに大きいのにするっと入った。
『【アイテムバッグ(大)】の所有権を柳川柚香に設定しますか?』
あっ、ヤマトが従魔になった時と同じ声のアナウンス。
「アイテムバックです! しかも触った途端頭の中に声が響いてきて、所有権を私に設定するかって聞かれてます。これはもちろん、『はい』で」
『続いて、使用権設定です。柳川柚香以外の人間に使用権を付与しますか? 後から変更する場合はアプリの設定画面から選択することが出来ます』
「おおー、便利~。使用権設定もできるそうです。とりあえず今は私以外に使用権設定はしない。これでいいかな」
システムの返事はなかった。あとはアプリでやれって事なんだろう。
密かに、ダンジョン入るときにいた
「アイテムバッグを手に入れたので、アポイタカラをありったけ持ち帰ります! うわー、どうしよう、ウハウハだ!」
『本当になんという豪運』
『これで芋ジャーから卒業出来るね』
『JKの芋ジャーもおもむきがあったのだが……』
「好きで着てるんじゃないですよ、初心者シリーズ。今度買い換えようと思ってたところですし! 芋ジャー愛好家の方、ごめんなさい」
隠し部屋の壁の一部も青くきらきら光ってるから、あそこも鉱床なのかもしれない。
でも掘り返す道具は持ってないから、地面に落ちてる、既に精製済みっぽくも見えるアポイタカラを全部拾った。
「じゃあ戻ろうか」
「ワン」
「しかし、凄いもん見たな……俺の方のビューワーも増えてるし、コメント増えてる。……喜んでもらえて良かった」
「それは良かったね!」
私たちの後に来る人も、アポイタカラを掘れるだろう。
サザンビーチダンジョンは不人気だったのにこれはもう、当分人が絶えないね。