『はい、スパチャ^^』
チャリーンと音がして100円のスパチャが入る。これ、多分さっきの人だよね。100円はスパチャでは一番低い金額だけど、私が転ぶ度に入れてたら……いや、確かに今日は転んでも平気な装備で来たけど、そもそも転ぶつもりはないんだ!
「スパチャありがとう! さっきのおじ……お兄さん!」
『忖度ありw』
立ち上がって土を払っている間も、ヤマトは一方向を見つめたまま。そっちに何かあるのは間違いない。
「何かあるんだね? 行こうか、ヤマト」
「ウワン!」
ヤマトは目を輝かせて走り始めた。――勢いよすぎてリードをぶっちぎって。
しまった! 朝のランニングで何も起きなかったから油断してた! ここはダンジョン、ヤマトのホームグラウンドだ。
「んがっ! ナスカン壊れたぁぁぁ~!」
リード自体がちぎれたんじゃなくて、首輪にリードを繋げていた部分のパーツが壊れている。やっぱりハーネスじゃないとダメか!
「ヤマト、ステイ! ステイだよ! ええええ、さっきは聞いてくれたのにー!」
『2回目にして既にお約束の展開』
『やっぱり言うこと聞いてくれないのかw』
「今日ステイを習得したと思ったのに! とりあえず、ヤマトを追いかけます!」
もうコメント欄を見ている余裕がない。今日のヤマトはちらほらいるモンスターに目もくれず、一直線に走っている。
第5層、第6層と最短距離で階段を降りて行きながら、もしかしてヤマトは最下層を目指してるんじゃないかと思った。
走る。走る。今日もひたすら走る。でもなんとなくヤマトの意図を理解出来たから、ヤマトを信じて走る。
「どうしよう、今気づいたんだけど、今モンスに襲われると私すっごい危ないです! ヤマトとは50メートルくらい離れてます!」
『さっきから襲おうとしてるモンスを振り切って走ってるのに気づいてなかった……だと?』
マジか! 私そんな速さで走ってたんだ! AGI18は伊達じゃないって事か。ここはLV10でクリア出来るダンジョンの第6層だもんなあ。
「とにかく今はヤマトを追いかけます!」
7層8層9層……足下が砂で本当に走りにくい。中学の時マラソン大会は砂浜走らされたんだけど、それを思い出す。
時々砂に足を取られて転ぶ。そのたびに響くチャリーンという音。
「スパチャありがとうっ! でも転びたくなーい!」
『頑張れ、ど根性JK』
『損して得取れ^^』
ついにヤマトは最下層への階段を駆け下りていった。私も数秒遅れて走り抜ける。
……って! なんか海があって、海の中から半身を出したでっかいモンスターと、砂浜からそのモンスターと戦ってるふたり組がいる!
「ヤマト、ステイ! それはダメなの!」
ダンジョンにはいくつかマナーがある。誰かが先に攻撃していたモンスターに後から攻撃して横取りしてはいけないというのもそのひとつ。今ヤマトはそれをやろうとしちゃってる!
ああ、どうしよう、従魔が言うことを聞いてくれないのはテイマーとしての私の力不足のせいだ。今戦ってる人に怒られる……。
と思ったら、でっかいギャラ○スみたいなモンスターの吐き出した水球を受けて、ひとりが倒れた! 結構距離跳ね飛ばされてる。すぐに起き上がらない所を見ると、ダメージでっかいのかも。
「
戦っているもうひとりの声は男性で、案外若かった。もしかしたら私とそんなに違わないかもしれない。そして、聖弥と呼ばれた倒れた人は動かない。
こ、これはルール特例、「誰かが先に攻撃していたモンスターは横取りするべからず。ただし、相手が助けを求めていた場合は除く」ってやつだ!
「くそっ! 【ライトヒール】! 目を覚ませよ聖弥!」
青年の構えた杖の先端から小さな光が聖弥という人の体に吸い込まれていく。ヒーラーか! 【ライトヒール】は一番初級の魔法だけど。
聖弥という人の指先がピクリと動いた。
でも、防戦一方なのは何も変わらない。私は思いきって声を張った。
「ねえっ! 手助け必要? だったら今すぐ助ける!」
青みがかった髪の青年は、突然掛けられた声に驚いたんだろう。振り向いて私とヤマトを見て目を見開き――次の瞬間、「頼む!」と叫んだ。