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第10話 予想外の展開  

「もしかしてゆ~かちゃんとヤマトちゃんですか?」


 黄色い悲鳴が聞こえたと思ったら、私の所にダダダダって走ってきた人がいる。話しかけてきたのは大学生っぽいお姉さん。背が高くて髪の毛ふわふわで女子! って感じの綺麗な人だ。

 ……普段なら、絶対ここ(ダンジョン前)で見かけない人種だあ……。


「あっ、ハイ、そうです」

「動画見ました~。生ヤマトちゃんヤバイ可愛い~♡ 一緒に写真撮って貰ってもいいですか?」

「私とですか!? むしろこんな芋ジャー着てる人と写真撮っていいんですか? えないですよ?」

「いいの! 生ゆ~かちゃんって感じするし! えーとね、じゃあ、『サザンビーチ』で撮るよ。ゆ~かちゃんはヤマトちゃん抱っこして。ハイ、サザンビーチ!」

「サザンビーチ! イェイ!」

「イイ感じ♪ ありがとー。頑張ってね!」


 そうか、チで口元がいい感じに開くんだ。地元民なのに知らなかったご当地ネタを知った気分。


「お姉さんは入らないんですか?」

「近くだから、ちょっとだけ入ってみようかな~って思って来たんだけど、この人の多さを見たらもう……。もしかしたらヤマトちゃんみたいな可愛い従魔をテイム出来るかなーなんて思ったんだけど」

「人の多さはそれかー!」


 お姉さんの言葉でやっと私は気がついた。

 ここで私は昨日ヤマトと出会った。


 てことは、もしかしたらまた【柴犬?】な従魔がここに出るかもしれないって事だ。動画がバズった分、柳の下のドジョウを狙った人がたくさん来たんだ!


 そんなことを考えてたら、ドンって結構な勢いでぶつかられた。

 いや、私よろけませんでしたけどね。


「痛って~……おまえどんな体幹してんだよ。こけろよ」


 今度は知らないお兄さんに話しかけられた……ってか、わざとぶつかってきたな、この人。でも見た感じ一般人だから、VIT17のステータスを持つ私をぶつかっただけで転ばせられるわけがない。


「おまえ、ゆ~かだろ。その犬よこせよ。おまえなんかより俺がもっと上手く使ってやんよ」


 お兄さん改めやからがヤマトに手を伸ばしてきたから、私は片足を引いてヤマトをその男の手から遠ざけた。

 取られると思ってるんじゃなくて、もしヤマトが噛みついたら大怪我必至だし最悪片腕ちぎれたりするだろうし、絶対慰謝料とか大騒ぎされるに決まってるし。


「渡すわけないでしょ。従魔がマスターを選ぶんだよ。私がもしヤマトを手放しても、ヤマトが認めなければあんたはマスターになれないんだから」

「うっせえんだよ! いいからよこせ……あぁん?」


 男の振り上げた右手は、別の男性によって掴まれていた。慌ただしいな……。


「ゆ~かちゃんの邪魔するな。恐喝の現行犯ですって警察呼ぶぞ。ここにどれだけ人がいておまえの今の行動見たと思ってるんだ」

「そうよそうよ!」


 一緒に写真を撮ったお姉さんも声を上げてくれた。そして、ダンジョンの入り口付近にいた人たちの中から、何人かが走ってきて私たちを囲む。


「こんなこったろうと思ったよ! 馬鹿が出るだろうなと思って待機してたらガチヒットとか」

「ゆ~かちゃん、ヤマトを連れて早くダンジョンに入るんだ。輩は俺たちが押さえておくから」

「昨日の動画、凄く良かったよ! 転んでも転んでもめげずにヤマトと走り回るゆ~かちゃん見てたら、くだらないことでくよくよしてるのが馬鹿らしくなった」

「ゆ~かちゃん、転んだらスパチャ100円入れたげるから今日も頑張れよ!」


 知らない人たちが口々に私のことを話している。――なんか、凄く不思議。一夜にして本当に私有名人になったんだなあ……。

 走って転んでヤマトと笑って、時々ゴブリンを盾でぶん殴って――それで笑顔になってくれる人がいるんだ。


「守ってくれてありがとうございます! あと、動画見てくれて本当に嬉しいです。もし昨日スパチャ入れてくれてた人がいたら、それもありがとうございます! でも、今日は転ぶつもりないですよ! 行ってきまーす!」


 私がダンジョンに入れるように、他の人が周りの人を誘導してくれた。

 近くにいた人に、ふと思ったことを聞いてみる。


「なんでみなさん、こんなに良くしてくれるんですか?」

「こどもは大人に守られて当たり前なんだよ」

「それ、かっこいい! ほんとにありがとうございました!」


 よし! 私は今日も楽しい配信をするぞ! 可愛いヤマトをうーんと見せびらかそう。――それを楽しみにしてくれる人がいるって知っちゃったから。

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