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第9話 サザンビーチダンジョン、空前の大ブーム

 帰宅した私を待っていたのは、可愛い可愛いヤマトだった。

 足音で判別したのか、玄関のドア開けたら玄関マットの上で足踏みしてたよ。

 くぅ~、知ってたら動画撮りながらドア開けたのに!


「ヤマトー、ただいまー」

「ヒャンヒャン!」


 待ってましたとばかりに私に飛びつき、口の周りをベロベロとなめられる。

 あー、私犬飼ってるって実感! うちに犬いるよ、とびっきり可愛い子が!


「ユズ、お帰り。今日もダンジョン行くの?」

「うん、ヤマトの散歩がてら行くつもり。何かある?」

「今日も動画見返してたんだけどね……」


 何かちょっと考えてる様子のママだけど、うはぁ……どれだけ再生数を回すつもりなんだろう。


「転びまくってたでしょう。あんまり傷にはなってなかったみたいだけど。今日はこれ持って行きなさい」


 ママの指さす先には、ニーパッドとエルボーパッド。……あれは、ボルダリングやってたときのだね。確かに、何も無しで転ぶよりは見てる方も安心だろうな。


「あと、初心者の剣は役に立ってないから、持って行かない方がいいわ。昨日一度も抜いてなかったでしょう? 盾はそこそこ使ってたけど」

「うっ……まあ、確かに。盾は左腕に固定してるからなんとかなるけど、右手が剣で塞がるとどうにもならなくなりそうで」

「今後の戦闘スタイルも考え直した方がいいねえ。本来テイマーは後衛だけど、ユズは魔法系の才能は皆無みたいだから、遠距離武器とかちょっと考えておきなさいよ」


 専業主婦のはずのママのアドバイスが的確な件! これが……いろんなゲームで状況判断を鍛え上げたオタクの力!!


「あとね、スパチャ結構入ってたでしょう? あれが振り込まれたらいい防具を買いなさい。戦闘はヤマトに任せるつもりで、ユズはサポート役をするの。まあ、今の段階ではサポート役と言っても何も出来ることはないけどね」

「イエスマム!」


 それ、実は私も思ってたことだった。


ゆ~か LV4

HP 50/50

MP 6/6

STR 12

VIT 17

MAG 4

RST 5

DEX 15

AGI 18

ジョブ 【テイマー】

装備 【――】

従魔 【ヤマト】


 今のステータスはこうなってて、AGI・VIT偏重型なんだよね。DEXも何故か急激に上がってた。これはもしかしたらテイマーというジョブを得たことで補正が付いたのかもしれないけど。


 ……というか、AGI・VITが増えたのは、補正でも何でもなく、昨日やたらめったら走り回ったからでは? という気もする。気もすると言うより、多分それが正解。


 それに比べてMPとMAGの伸びのしょっぱさよ……。LVが2上がったのにどっちも1しか上がってないって、どれだけ魔法の素質がないんだろうなあ。

 まあ、戦闘スタイルに関してはLV10まで上げて、その伸び率を見てから決めるのが一般的。まだ、どうなるかわからない。


「もしママがこういうステータスのキャラをゲームで使うなら、回避盾だなあ。高DEXを生かして後衛から弓攻撃もいいけど、パーティー次第かな。うんうん、戦術の幅があっていいねえ」

「回避盾かあー。ヤマトが突っ走ってってワンパンで倒しちゃうから、まずタンクの必要性を感じないけど。サザンビーチダンジョンの第2階層はモンスがソロでしか出ないしね」

「今まで学校の子とパーティー組んでたんでしょ? その時はどうしてたの?」

「んー、一応パーティーにはしてたけど、全員バラバラに戦ってたよ。ゴブリンとスライム弱いし。――そういえば、一定以上距離が離れると、パーティーって自動解除になるんだね。昨日置いてかれちゃったでしょ? 階層が2階と4階になっちゃったし離れてる時間が長かったから、ヤマトが倒した経験値は私にだけ入ってたよ。かれんちゃんたちには入らなかったって今日聞いた」


 ――という話をリビングで制服脱ぎ散らかしながらして、【初心者の服】と言う名の丈夫さだけが取り柄のジャージを着る。

 これはダンジョンハウスで売っていて、えん色で腕の外側部分と脚の外側には白い2本ラインが入った古式ゆかしい芋ジャージだ。防御力は紙だけど、転ぼうがスライムに酸を掛けられようが破けないのが本当に凄い。


 今日はリュックを持っていくことにした。ヤマト用におやつとお水と、ダンジョンに付いてから装備するための初心者の盾とニーパッドとエルボーパッド、それと念のためにポーションを1本入れる。

 ダンジョンハウスで着替えしたりしないで今日は直行直帰! 戦利品はリュックにどんどん放り込む戦法で! 拾えるかどうかはヤマト次第だけど。


「ヤマト、お待たせ。ダンジョン行こうか。今日はうちから走って行くよ!」


 昨日は学校から友達と直接行ったから自転車だったけど、今日はヤマトもいるし、そもそもダンジョンが家から近いし、このまま行く。


「ヤマト~、ダンジョン楽しみ?」

「ゥ~ワン!」


 人間の言葉にしたら「行きたいです!」って感じの鳴き声が返ってきた。


「じゃあ、ちょっとだけ練習しよう、まず昨日のおさらいからね。お座り。グッド! ヤマトちゃんはいい子でちゅねぇ~♡」


 お座りしてるヤマトが凄く得意げだ。私は左手に一粒ドッグフードを持った。


「うん、そのままお座りしててね」


 座っているヤマトの正面に右手をかざして、「ステイ」と言う。ヤマトは脚をちょっともじもじさせたけど、3秒ステイすることができた。ご褒美に左手を開いてドックフードをあげる。


「グッド! できたねえ~! 偉いでしゅね~! お利口ですね~、ヤマトしゃんは~♡」


 昨日失敗して流血大惨事になったステイが成功したので、「私は物凄く嬉しいよ!」というのをハグとなでなででヤマトに伝える。ヤマトも嬉しそう。


「じゃあ、もう一回だけね。お座りしてて。ステイ……まだよ。もうちょっと頑張って」


 ヤマトに先程と同じように手をかざしながら、私は3歩下がった。ヤマトは釣られて歩くこともなく、2回目のステイも成功した!


「グッド! ああ~ん! ヤマトしゃんは天才かな~? 今日はちゃんと私の言うこと聞いてね-」

「何故そこでフラグを立てたし」


 ママが不吉なことを言う。ぐうっ、フラグじゃないもん!



 そうしてヤマトにリードを付け、走って向かったサザンビーチダンジョンは昨日と全く様子が変わっていた。 

 駐車場はいっぱいで待ち列すら出来てるし、自転車置き場も隙間無し。走ってきて正解だったわこれ。


「昨日までは過疎ってたのに何故……」


 呆然と私が呟くと、少し先から黄色い悲鳴が飛んできた。


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