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無自覚地雷男「恋人契約の延長を要求します!」
ペペペペボボボボボ
BL現代BL
2024年08月15日
公開日
34,887文字
連載中
「綾瀬悠太くん、俺と付き合ってください」
顔良し、頭良し、愛想良しで人生イージーモード。飽食気味の毎日を送っていた綾瀬(攻め)は、物静かな文学青年、本屋敷に告白される。好奇心から告白を受け入れる綾瀬だったが、本屋敷にはとある別の目的があった。利害n一致から始まった恋人契約だったが、綾瀬は徐々に本屋敷に惹かれていく。
無自覚クズなイケメンが、無自覚メンヘラを経てしっかりと地雷男に成長をとげる話。

1恋人契約

自分が恵まれてるって事、大体理解してる。

頭にも体格にも恵まれて、精神にはゆとりがある。

端的に言えば俺は、将来性があって、ツラとスタイルと性格が良い爽やかイケメンだ。

だから、そう。恋愛の相手には事欠かない。彼女が途切れたこともない。『回転率が立ち食い蕎麦屋』と評した彼奴は、腹が立つが中々センスのある奴だった。

「絢瀬悠太くん、俺と付き合って下さい」

けど。けどなぁ。

絢瀬悠太くんとは俺の名だ。

昼休み。俺を呼び出したのは、学年のマドンナでもなく、よく目が合うあの娘でもなく、シュッとした黒髪美青年だった。つまりヤロウである。

「結婚を前提にとは言いませんが」

「いや…………」

ぼんやりとした黒目は何考えてるかわからないけど。まさか、男に告白される日が来るなんて。ポリポリと後頭部を掻いて、少し戸惑って見せて。

「えーと、お願いします?」

断るのは、男でも女でも面倒くさい。1年後には笑い話だな、なんて考えながら、其奴の手を取った。


***


「節操なさすぎ」

ことのあらましを聞いて、同級は呆れたように切り捨てた。思っていた反応と違ったので、ちょっと悲しい。

「来た奴全部受け入れんなよ。キリストでももうちょっと選り好みするぞ」

「お前がキリストの何を知ってるんだよ。それより笑うとこだろこれは」

他所様のドンを、聖人の最大値として安易に槍玉に上げるのは良くないと思う。宗教とかこう、何万年前からデリケートな話題なんだし。人類の歴史から学べ。何のための社会科だ。事の面白さを同級と共有したかっただけなのに、どうしてこうも物事は上手くいかない。

世の無情を儚みながら、「だって、あの本屋敷くんだぜ」と言えば、尚のこと其奴は胡乱な顔をした。

本屋敷慧。

変わった名前だが、これでモトヤシキケイと読む。くどいようだが、モトヤシキが苗字で、ケイが名前だ。

濡羽色の、しっとりさらさらした黒髪に、透けるような白肌。色素の薄いブラウンの瞳は、いつも何かを透かすみたいに濡れている。

人形みたいな綺麗な顔をした、正統派美少年だ。

人とあまり拘らず、かと言って孤立しているという様子でもない。要するに、高嶺の花というやつだ。とっつきにくい分、俺よりはモテないけど、俺の次にモテる。ミステリアス美少年とかで通ってるみたいだ。

「そんな本屋敷くんと俺が付き合うんだよ」

「女子の阿鼻叫喚が目に浮かぶな」

「だろ。俺もう今から楽しみで興奮して……なんかもう、スクワットとかしちゃう」

「ここではやめろよ」

覚えたてのブートキャンプ式スクワットを披露すれば、同級はすごく迷惑そうな顔をする。そんな顔しなくても良いだろ。どうせ中庭だ。誰も見ちゃいねぇ。

「そういやあれ、お前可愛い子と付き合ってなかった?あれ良いの?」

諦めたように尋ねてくるので、「なんか振られた」と答えておく。脹脛が徐々に重くなって行く感じが、快感になってきた。

「もったいねー。俺だったら縋り付いてでも止めるけどな、あんな可愛くて性格良い女の子」

「こっちの我儘で束縛するのも悪いじゃん」

言えば、其奴は鼻白んだみたいな表情をする。俺もまたつまらなくなって、スクワットを止める。

何だその顔。言いたいことがあるなら言ったらどうなんだ。

「あ、」

「………?」

俺を───というより、俺の背後を見て声を上げる同級。つられるみたいにして振り返れば、本屋敷くんがそこには居た。噂をすれば何とやらだ。

相変わらず読めない表情で、突っ立っている。見つかった!みたいな感情だろうかそれは。

「スクワット中失礼します」

「俺も言ってみてぇ、それ。ちょっとスクワットしてみてよ」

「なんでだよ、嫌だよ」

ごねる同級を突き回し、どうしたの、と尋ねる。「お話したくて」と返ってきた言葉に、突き回されながら同級がヒュウと口笛を吹いた。ボコボコにしてやる。だけど、恋人をほっぽいて同級をタコ殴りにするのもあまり良くない。微笑んで拳を背に隠せば、何だか怒りも治まってくるみたいだ。

「邪魔みたいだから、俺抜けるわ」

「いえ、お構いなく。先約があるんだったら、出直します」

「いーよ、駄弁ってただけだし。お幸せに?」

スクワットと暴力から逃げるみたいに、其奴はそそくさと何処かへと行ってしまう。絶対に逃がさない。脳内の対人名簿に、同級A:スクワット→ボコボコとメモしておく。

「本当は何でなんですか?」

「へ?」

我に帰る。本屋敷くんを見る。とても綺麗な顔だと思った。座り込む俺に合わせてしゃがんで、相貌を覗き込んでくる。細い横髪が、サラと揺れた。

「『此方の我儘で束縛するのも悪い』。これが、君が魅力的な女性に執着しない、本当の理由ですか?」

「心が広くて良い奴でしょ、俺」

「…………」

「それじゃあさ、」

アンバーの瞳を覗き込んでいたら、気が変わった。面白かったからだ。体裁を取り繕うより、俺は彼の内面を知りたいと思った。ふと表情を緩めれば、本屋敷くんはぱちぱちと目を瞬いた。

「本屋敷くんはどう思うの?何で俺ってば、フられたのにこんなにも元気なんだろう」

「それは、うーん」

「むつかしい?気ィ遣ってるなら、その必要は無いよ。ほんの世間話だし。俺が君のこと知りたいだけ」

「そう言うことなら」

気の抜けた表情で天を仰いで、本屋敷くんは指で顎先を摩る。氷の刃みたいに怜悧な横顔なのに、どうしてこうもボヤッとしている印象なのだろう。

「『怒らせた女性の反応を見て楽しんでいる』、とか」

突拍子も無い言葉に、一瞬言葉を失う。次に込み上げてきたのは、想像以上に大きな笑み聲だった。

「わははははははは!」

「ええ……」

「いひひひひひ、ひーっひっひ!」

腹が攣るような感覚に、目尻から涙まで垂れてくる。大真面目な顔が、余計に愉快だ。

「ンなわけねぇじゃん!そんなん、そんなんさぁ、俺異常者じゃん!」

「当てが外れました」

「ぎゃーっ!むり!でもそっちのが面白いんだよなぁ。そう言う事にしようかな」

「あ、それは困ります」

待ったをかけるように、ピ、と掌で制してくる。

困るって何なんだ。何かもう、一挙手一投足が面白すぎる。どうしたら良いんだろうこれ。

「で、実際のところは?」

「えー、言わなきゃダメ?別に好きじゃなかったからだよ。それだけ」

「ふむ……」

「君の解答の後に言いたく無かったなぁ。地味?で面白くないもの」

舌を突き出し、肩を竦める。フられる事に快感を見出す、生粋のマゾなんだ……とかの方が面白かったかもしれない。後悔が残るけれど、彼はどうやら、そう言った嘘は望んでいないみたいだし。

「好きでもない相手に時間を割くのって、しんどくないですか」

「断った場合の労力と、そのあとのアレソレの方がずっとしんどい」

「そう言うものですか」

「そう言うもの。それに────、」

少しだけ迷ったので、誤魔化すみたいに笑みを深める。迷ったと言うのは勿論、その先を言葉にするかどうかについてだ。

「それは君もでしょ?」

「………俺も?」

「そう、君も。俺の事が恋愛的に好きってわけじゃないのに、貴重な労力を割いて、俺と恋人になってくれた」

終始平坦だった瞳が、少しだけ揺れる。

あ、その表情はわかる。「バレてたのか」って顔。カマをかけ──少し冗談を言っただけなのだけど、彼は真面目だったみたいだ。本屋敷くんって、実はそこまでミステリアスでもないのかもしれない。

「なんで?」

微笑んだまま尋ねれば、アンバーの目が所在無さげに彷徨う。可哀想に思えなくもないけれど、相互理解は大事だからしょうがない。

『恋人』なんだから、尚のこと。


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