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第68話 甘い考え

「う~ん。暇だね~」


 店を開けてからというもの未だ一人も客が訪れることもなく、リサはテーブルの上に顎を乗せうな垂れていた。

 もっともそれはリサだけでなく、デュランを始めアルフやネリネも同じ気持ちである。


「くそっ! まさかこんなに厳しいだなんて……」


 デュランはそんな苦言を漏らさずにはいられなかった。


 朝食を食べ終えた後、パン屋から頼んでいた黒パン100個が届き、いざ店を開店させたまでは良かった。

 けれどもそれから数時間が経ち、既にお昼時だというにも関わらず、店を訪れる客が誰もいなかったのだ。


 もちろんいきなり店を開けたからと言って、すぐに席が埋まり大繁盛するなどとはデュランでさえも思っていなかったが、客が一人すらも訪れないとは夢にも思わなかった。

 そんな最中、店の扉が開かれ誰かが入ってきた。


「あっ……いらっしゃま……せ。って、なんだアルフか」

「おいおい、のっけからなんだってのはないだろうよぉ~デュラン」

「すまない」


 デュランは思わず席を立ち客を出迎える挨拶をしたのだったが、それは客ではなくアルフだった。


「それで外の呼び込みのほうはどうだった……って聞くまでもないよな」

「ああ、ぜーんぜん駄目だなこりゃ。声を張り上げて道行く人達にここがレストランだって言っても、誰も見向きもしねぇもん」

「ネリネはどうした? まだ外で呼び込みをしているのか?」

「あ~っ。もう少し頑張ってみるってさ」


 店を開けても客がまったく来ないため、アルフとネリネは店の外で道行く人達に呼び込みをしてもらっていたのだが、その努力とは違い成果の程はまったくみられなかった。


「……そうか」

「なぁデュラン、やっぱり……」

「言うなってアルフ」


 何かを言おうとアルフが口を開くが、デュランはそれを止めてしまう。

 彼が口にせずとも、この状況下ではデュランも重々理解していた。


 街中のそれも大通りに面したこの場所でレストランを開いて客が来ないということは、料理の味云々の前に望みが無いということだった。

 デュランは小奇麗にして料理さえ出せば客は来ると思っていたが、現実はそれほどまでに甘くはなかったようだ。


 それに外で呼び込みをしてもまったく客が入らず、どうすることもできないまま結局は飲食店における書き入れ時・・・・・である、お昼の時間帯が無情にも過ぎ去っていくのをデュラン達はただ黙ってみているしかなかった。


「うーん。ここまで酷いなんて……さすがのボクでも笑えないかな」

「一体全体、この店の何が悪いんだろうな?」


 もうとっくに昼の時間を逃してしまったデュラン達は、がら空きのテーブル席へと座り話し合うことにしたが、未だその解決策どころか原因すらも見当がついていなかった。


「呼び込みをしても誰も止まってもくれませんでした」

「俺もだぜ。それにみんなどこかへ急いでる様子だったしなぁ~。昼時とはいえ、そんなに腹が空いてるのかねぇ~」


 ネリネもアルフも口々に呼び込みをしても、何ら成果が得られなかったことを嘆いていた。


 ぐぅ~っ。

 ちょうどのそのとき、アルフのほうから空腹を告げるお腹が鳴り響いてきた。


「ははっ。わ、わりぃ。俺もどうやら腹が空いちまったみたいだ。どうだデュラン、話の続きは食べながら……ってことにしてメシにしないか? このままじゃ良い考えも浮かばねぇだろ?」

「それもそうだな……リサ」

「うん、わかったよ。それじゃあ今からスープと黒パンを持ってくるね」

「わ、私も手伝います」


 アルフはお腹を押さえつつ、デュランに昼食にするよう進言をする。

 デュランもまた異論は無いのでリサへと声をかけると、彼女は立ち上がり昼食の用意をするため厨房へと向かって行った。ネリネもまたリサを手伝うよう、その後に続いて行った。


「(なぁデュラン。本当に大丈夫なのかよ? 客が一人も来ないなんて異常なことだぜ)」

「(俺だってそんなことは分かっているさ、アルフ。何かしらの対策を考えないといけない)」


 アルフは厨房に向かった二人に聞こえぬよう、小声でデュランにそう話しかけてきた。


(何かしらの原因があるはずなんだ。それさえ分からないままでは対策の講じようがない)


 デュランもまたアルフに言われなくても、このままで良いとは思ってはいない。

 けれどもこれまでレストラン経営の経験は愚か、一つの店すらも任されたこともなかったデュランにとっては難題とも言える。


(ここが閉店したレストランだから、レストランが開店したことを知らない? いや、アルフとネリネが呼び込みをしていたのだから一人か二人、間違って入ってきてもおかしくないよな?)


 そもそも論だが、ここにレストランがあると通りを行き交う人が知らないこともあるだろう。

 けれどもそれはアルフとネリネが店の外で呼び込みをしていたため、店の前を通る庶民であってもここがレストランであることは認知できるはずだ。それなのに客が一人も入らないというのはそれこそおかしい。


(なら、料理か? いいや、そもそも誰も食べていないからその味も判断できないよな? 他には店の外装になるのか? でもボロとはいえ、掃除もしてそれなりの格好はついている)


 デュランは腕組みをしながら、店に客が入らない原因を考えていた。


 店の認知度に対する呼び込み営業……アルフもネリネも外見が悪いわけではない。むしろネリネ程の容姿の持ち主ならば、十分な客引きになるはずだ。


 料理の味……これはそもそも客が一人も食べてすらいないので除外できる。

 店の外装……少し古いだろうが、一人も来ない理由にはならない。


(――だとすると、他にも原因があるっていうのか? それも俺達|店の従業員《内側》からでは気づかない、外的要因が……)


 デュランがそう考えを張り巡らしていると、突如として店の扉が開いた。

 そしてある人物が店の中へと入ってきた。


 その人物は店の運命を左右するだけでなく、デュランのこれから先の人生観をも変える出来事となる。


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