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第67話 新たな朝

「んっ……ぅぅ眩しいっっ。もう、朝なのか?」


 デュランは窓から差し込む朝日に照らされ、目が覚めてしまった。

 少しだけ体に疲れというか違和感を感じていたが、気持ちのほうはとても軽いと感じていた。


 何故なら昨夜にリサと恋人として愛し合い、心地の良い疲れとともに心が満たされる充実感に溢れていたからである。


「おはよ、お兄さん」

「リサ……お前、先に起きていたのか?」


 隣で寝ているはずの彼女、リサに声をかけられてデュランは驚きを隠せない。


「もしかして、そうやってずっと俺の寝顔を見ていたのか?」

「うん。もうバッチリとね」


 どうやら彼女は先に目が覚めてしまい、彼が起きるまでその眠っている顔をずっと眺めていたようだ。


「お、俺なんかの……男の寝顔なんて見ても面白くも何ともなかっただろ?」

「ううん。そんなことなかったよ。お兄さんの寝顔、まるで子供みたいで可愛かったし」

「ぶっ……か、可愛かったって……」


 デュランは寝顔をリサに見られていた気恥ずかしさからか、ちょっとだけ意地悪を言うようにそう口にすると、リサは何食わぬと言った感じでそう言ってのけた。

 彼女は枕を背にして上半身だけを起こしデュランのことを見つめている。その顔は大人の女性そのもので、どこか慈愛と優しさに満ち溢れていた。


「ほぉ~らっ、お兄さんこっちにおいでよ♪」

「り、リサっ!?」


 リサは何を思ったのか、デュランの頭を抱き締めその頭を撫でたのだ。

 いきなりの行動と裸のままの彼女に抱き締められ頭を撫でられてしまい、まるで子供のように扱われていることにデュランは戸惑ってしまう。


「いいから、いいから……そのままで、ね?」

「あ……ああ……」


 優しくそう声をかけられデュランはリサに逆らう気が削がれてしまい、彼女のふとももに頭を乗せたまま髪を撫でられる。

 だか何故か不思議と怒る気どころか、デュランはそれが心地よいとさえ思ってしまう。


「……」

「うん? なぁにぃ~?」

「いや、別になんでも……ない」

「そう? ふふっ♪」

「……っ」


 ふと見上げれば、とても優しそうに微笑むリサの顔がデュランの視界に入り、そして目と目が合うと更に優しく微笑まれてしまう。

 本来ならデュランのほうが年上のはずなのにいつの間にか立場が逆転してしまい、デュランはまるでリサのことを姉か母親のようだと感じていた。


「もうそろそろ起きないとだね」

「ああ、残念だけどな」


 それから頭を撫でられながらどれくらいの時が過ぎたであろう、いつの間にか早朝も過ぎ去り外からは人々の声が聞こえるようになっていた。

 どうやらこれで二人だけの時間はお終いのようだ。リサは少し名残り惜しむような顔をしてしまうが、それも一瞬のことだった。


「ちゅっ♪ またしようね、お兄さん」

「そ、そうだなリサ」


 そうしてリサからの軽い口付けを受け、また愛し合う約束を交わした二人は早々に着替えを済ませると、今日から開店オープンするレストランの準備をすることにした。


「よっ! デュランにリサ。おはよ」

「アルフぅ~おはよ~」

「お、おはよ」


 デュランとリサが一階へと降り立つとほぼ同時に、裏口の戸が叩かれ開けてみると、アルフがもうやって来たようだ。

 リサとデュランは裏にある井戸で顔を洗い簡単に身支度を整えていると、ちょうどそこにネリネもやって来た。


 また二人とも朝食を取ってはいないとのことなので、デュラン達は昨日仕込みをしていたスープで簡単な朝食を済ませることになった。

 もちろん既に塩で味付けもされており、客に出す前に自分達で味を再確認する意味合いもあったことだろう。


「こうして朝何かしら食べるというのも、案外良いものなのかもしれないな」

「そうだね。特にボク達も今日からレストランの仕事があるから、尚更朝食を食べるのは良いことかもしれないし、そもそも食べないとお昼には倒れちゃうかもしれないよ」


 デュランがそうしみじみと朝食についてを述べると、リサは理論だってそんな説明をする。


 この街……いや、この国においての『朝食』という概念は名前こそ知れ、そもそも王族と貴族の間にしか存在していなかった。何故ならば、庶民達は日常的にその日食べる物にも困り果て昼食と夕食、日に二度の食事をすることさえ贅沢と言われていた時代である。


 その大まかな理由として挙げられるのは仕事に対する賃金の問題はもちろんのこと、慢性的な食料不足がたたってのことである。


 田畑は栄養不足と水不足からの干ばつから作物を植えても満足には育たず、また食べるものが無いからと十分に育つ前に収穫してしまうため、収穫量とともに質までも大きく損なわれていた。

 もちろんそれは何も作物だけのことに留まらず、牛や豚それに鳥などの家畜でさえも同じことであり餌を十二分に食べさせて数年の月日をかけて肥えさせることもなく、まだ未成長のまま市へと売りに出され食肉として扱われている。


 それは端的に長い目でみればとても不経済効率なのだが、その日食べるものにも困っている農家にとっては家畜が育つ、その数年間を待つことができないほど困窮しているとも言える。


 そんな中、東側との領土と鉱物資源を巡って戦争が起きてしまい、庶民達は若者の徴兵と更なる食糧難に喘ぐこととなった。戦争となれば剣や銃などの武器を作るため国中から鉄や銅などが集められ、それと同時に兵士へ食事を提供するのも穀物などが必要となり、その負担は当然の如く庶民達に対する税もしくは穀物などの現物押収という形で重く圧し掛かる。


 そして戦争が終わったからと言っても即日に国が安定することも無く、未だに庶民達はその苦しみを味わっていた。


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