「むむむむっ」
デュランは自分の部屋にある質素なベットの上で毛布に包まれながら、顔だけをぴょっこりっと出してとても難しい顔をしていた。
リサの顔を合わせる気まずさも然ることながら、自分の気持ちに嫌でも反応を示してしまっていたからである。
「俺はリサを……好き、なのか? いや、そうでなければキスなんてしないし、下着姿のリサから目を離せない理由も判る」
まるで自分がしたことに対して正当化し、言い訳するような言葉を口にしていく。
「だが、マーガレットやルインにも……」
そこで元婚約者のマーガレットとその妹であるルインの名を口にした。
デュランはまだマーガレットのことに未練を持ち、そしてルインとは先日キスをされてしまったのだ。
またどちらに対しても少なからず好意を寄せていたため、リサへの想いに戸惑いを隠せない。
それにルインから好意を寄せられている気持ちにも、実は昔から気づいてはいた。
気づいていたが、マーガレットと恋人同士であり将来を誓い合い婚約者同士だったため、それに応えることはなかったのだ。
だがそれもマーガレットと婚約を解消してしまった今となっては、何かしらの答えを出さねばならないことだろう。
それはルインに対する気持ちか、それとも今想い描いているリサへの気持ち、そのどちらか一つの方へと……。
「(ぼそりっ)なんか一人だと、寂しいものだな」
デュランはこれまで孤独や寂しさを味わったことがなかったのだったが、何故か今はこの部屋がとても広くどこか寂しいと思ってしまっていた。
きっと昨日はリサと背中を突き合わせながら寝ていたため、よりそう思ってしまうのかもしれない。
コンコン♪
そう思っていたそのとき、ふとドアがノックされた。
「コンバンハ、お兄さん。ボク、あがったから次はお兄さんもどうぞ♪」
湯の熱で上気したのか、ドアに持たれかかり少しだけ顔を覗かせ頬を赤くしているリサが目に入った。
「そ、そうか……じゃあ俺も体を綺麗にしてくるかな」
「うん。良いお湯だったよ。体も綺麗になったしね♪ あっでもボク、さっきお兄さんが持ってきてくれたお湯、全部使っちゃったけど……大丈夫?」
「なぁ~に、気にするな。まだ鍋に残っていたはずだ。冷めてるかもしれないが、そのくらいがちょうどいいってものだろう」
デュランは毛布を捲ると体を起こしてそう答え、脱衣所へ向かうためリサがいるドアへと近づいた。
彼女の近寄ると石鹸の良い香りが漂ってきた。
清涼感が鼻をくすぐると共に、どこか女性らしい甘く優しい香りが鼻腔へと満ちていくのをデュランは感じ取っていた。
そして彼女の熱と上気を帯びた体から、自分の方へと熱が伝わっている感覚に陥ってしまう。
「うん? なぁ~に?」
「い、いや別に……ただ石鹸の良い香りだと思ってな」
「ああボクも
デュランは今感じ取り思っていることをリサに悟られぬよう、彼女からは顔を背けながらそう口にする。
リサもそれを褒められていると思ったのか、どこか嬉しそうに『好き』と口にした。
(早まるなデュラン。冷静になれ。リサが今言った好きってのは、俺のことじゃなくて石鹸の香りのことに違いない。だから決して俺に対しての気持ちを述べたわけではないのだ。そうだ、そうに決まっている……)
逸る気持ちと勘違いしてはいけないという気持ちとがせめぎ合い、デュランは動揺する気持ちを隠し切れない。
「お兄さんも早めに湯浴みして寝なきゃダメだよ! なんせ明日はレストラン初日なんだからね♪ じゃあねぇ~♪」
「あ、ああ……」
リサはそう告げると笑顔のままドアをパタリっと閉めてしまい、ただ一人デュランが残された部屋には音を立てる者もなく静寂が訪れた。
「…………あ、あれっ?」
先程まで二人の間に流れていた空気とそして彼女の態度は一体何だったのだろうか?
少し肩透かしを受けてしまったデュランは小首を傾げながら一階へと降り立ち、残ったお湯で湯浴みをするため、まずは脱衣所に向かうことにした。
そうしてデュランはもう人肌ほどまでに温くなっていたお湯で体を綺麗にしてから、自分の部屋へと戻った。
だがその間にも「リサとのことは自分一人だけの勘違いだったのか……」との考えが頭の中を駆け巡り、とても上の空のまま部屋のドアを開けたときのことである。
「……なんだよ、この盛り上がりは?」
見れば空っぽだったはずのベット上にはご丁寧にも毛布で覆われた不思議な盛り上がりがあったのだった。
それはまるで人が入っているような……そしてリサと出会ったときのような、そんな既視感に襲われると同時にデュランは嫌でもその正体に気づいてしまう。
「はぁ~っ。リサ……なにしてんだよ?」
「にゃはははっ。ば、バレちゃった? コンバンハ、お兄さん。ボクが冷たい冷たいシーツと毛布をこうやって温めておいたよ♪ さぁ入って入って♪」
デュランがそう声をかけると、顔の部分だけ毛布を捲りリサが顔を出した。
そしてまるで彼の妻か夜を受け持つ従者のようなことを言い出していた。
確かに今の季節はベットが冷たく、何かの熱源でもなければ触れた途端に
だが何もリサ自らの体温で温めているのはどうなのだろうか?
それとも彼女はデュランに好意を持ち、気恥ずかしさからこんなおどけた態度を取っているのか、彼にはそのどちらとも判断がつかなかった。
そしてデュランは彼女の気持ちを確かめるため、自分の気持ちと彼女に言われるがまま行動に移す。
「それじゃあ、遠慮なく……」
「えっ? えっ? えーっ!? ぼ、ボク冗談というか悪戯のつもり……」
「リサ……んっ」
「ん~~っ」
デュランはリサと添い寝をするように布団を捲り上げると、そのまま一緒に毛布へと包まれた。
そして正面にある戸惑っているリサの顔へと両手を添え、これ以上彼女が口答えしないようにとその唇を強引に塞いだ。