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第64話 互いの微妙な空気感

(や、やっちまったーっ!? そういや俺、ノックせずに入っちまったよな? そりゃ脱衣所だもん、リサが服を脱いでいる可能性に気づくべきというか、配慮すべきなのに……)


 デュランはリサと見つめ合い、ふとそのまま視線を下へと向けてしまう。


 リサは上下お揃いの純白の下着を身に着け、そして前屈みとなっているため女性の象徴である胸元が重力に従うよう、小さな谷間として強調されてデュランの目に入った。

 腰や足も男と比べても断然細く、それはまさに女の子が着替えている真っ最中と言った感じだった。


(う、うそーっ。なんでなんでお兄さんが入ってきちゃったの? ボク、まだ着替えてる最中なのに……わっわっ。ボクってば今下着姿だよね? 恥ずかしいぃ~~~~っ。でもでも、なんかお兄さんになら見られても良いかなぁ~、な~んて思ったりもしてみたり……わーわー、ボクったら何考えちゃってるんだよ!?)


 リサもまたデュラン同様視線を下へと落として、彼が持ってきた2つのバケツへと目を向けた。


 彼の右側のバケツは湯気が立っており、もう一方は何も見えないため水であるとすぐに理解した。

 リサはお湯と一緒に温度を下げるための水も一緒に持って来てくれた、デュランのちょっとした心配りに思いを馳せた。


「水も一緒に……持ってきてくれたんだね、お兄さん」

「あ? ああ、ほら、お湯だけだと熱くて火傷しちまうからな」


 互いに相手から目を離せないまま、言葉を交わしていく。


(どうしよーっ。なんでボク、普通にお兄さんに話しかけて水のことなんか聞いちゃったのさ!? ここ女の子なら悲鳴を上げるべきところだよね?)

(なんか普通に会話できてるな。特に動揺している様子も見受けられないし……。もしかしてリサにとったら男に下着を見られるのくらい、どうってことないのか?)


 互いに同じことを心の中だけで思い浮かべながら、リサは悲鳴を上げるタイミングを逃してしまい、デュランもまた彼女に釣られて普通に会話を続けてしまっていた。


(い、今から悲鳴上げるって遅いよね? というか、悲鳴ってどんな風に叫べばいいのかな? ボクボク分からないよぉ~っ)

(まさか今から悲鳴上げられるってことはないよな? それと俺はこれからどうすりゃいいんだ? このまま会話を続けるべきなのか、それとも脱衣所の外に出るべきなのか、悩ましい……)


「…………」

「…………」


 そして互いに次の行動へと移せないまま、固唾を呑んで相手がどう動くのか、また何を口にするのかと、黙ったまま待っていた。


(お兄さ~ん、何でもいいから喋ってよぉ~~っ。こんなの気まずすぎるでしょ……)

(う~ん、それにしてもリサの肌って外見からは想像もつかなかったが真っ白で、まるでシルクのように綺麗な肌なんだな。それに身に着けているのは綿で作られた下着か? リサらしく動きやすいようにとの配慮か、もしくは単純に値段の問題なのか……)


 リサはデュランへと何か喋るようにと熱い視線を送るのだが、肝心のデュランは彼女の下着について考え凝視しているだけだった。


(なぁ~んで、そんなにボクの下着見ちゃってるのさ、お兄さんってばっ!! ももももも、もしかしてボク、このままお兄さんに押し倒されちゃうとか? お兄さんならにならボクだって体を許してもいいけれども、まだ心の準備が……)

(ふむ。こうして見ると、リサは着やせするタイプなんだな。普段よりも胸が大きいようにも見え……いや、今は前屈みになっているからなのか? それにしても……)


 心内で互いに相手のことを考えているがリサは男女の情緒についてを、そしてデュランはリサの胸について考えていた。


(あ~~~っ。でもでも昨日お兄さんとキスしちゃったから、今日はその先へとステップアップしても何ら支障がないのかな!? お兄さんと大人の関係に……~~~~っ!? は、恥ずかしすぎる(照))

(そういえば昨日、俺リサとキスしたんだったよな。なら、このまま昨夜の続きをするというのも……)


 二人はいつしか昨日の出来事を思い返して、この後相手がどう行動に移すかに注目して動けずにいた。


(あっ、そういえばボク、まだ体綺麗にしていなかった。ダメダメ、こんなんじゃダメだよ。ちゃんと綺麗にしてから……そして……そして……そそそそ、それから見られないといけないもんねっ!?)

(さすがに長時間下着姿のままだとリサも風邪をひいちまうよな。それに湯も冷めちまうし)


 そこでようやく互いの置かれている状況を冷静に確認する余裕ができてきた。


「す、すまなかったなリサ。ノックもせずに入って来ちまって」

「う、うん。ぼ、ボクなら大丈夫だから」


 デュランは今頃になって下着姿のリサのことを凝視してしまったと気づくと、慌てた様子で後ろを向き彼女に背を向けてからそう言った。


「お、お湯で火傷しないよう水で薄めて使うんだぞ! じゃあなっ!」

「あっ……」


 冷静になれたことで自分のしていること、またしたことを自覚すると何だか居た堪れなさと共に恥ずかしさが生じてしまい、デュランは慌てながらに脱衣所を後にした。

 残されたのは程よく冷めている湯とリサだけだった。


「ちぇーっ。ざぁ~んねん。もしかしたら~……って、ボク勘違いしちゃったのになぁ。お兄さんの意気地なし」


 デュランが去ったドアに向けリサは呟き、今度こそ湯浴みをするため下着に手をかけて体を綺麗にしていった。


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