「それになぁリサ。人は誰しも過ちを犯すものじゃないか? もしそれがまだ取り返しのつくことならば、どうかアルフのことを許してやってはくれないか? それに人を許すことができるのもまた人であり、そしてそれが出来るのもリサのような
「リサが大人の女性って……。ぷぷ。でゅ、デュラン。お前、なに可笑しなことを言って……ぐもももも」
横に居たアルフがデュランの説得を台無しにしそうな言葉を挟もうとしたのだったが、デュランは彼の口を空いている左手で強引に押さえ込みそのまま黙らせた。
「ぼ、ボクが大人の女性って……ふふっ。も、もうお兄さんは口が上手いなぁ~。そんなこと言われちゃったら、アルフのことを許さないわけにはいかなくなっちゃうよ♪」
幸い目の前で繰り広げられているデュランとアルフとのやり取りが目や耳には入っていなかったのか、リサは照れながらに両手を頬へと沿え恥ずかしがるようフルフルと、体を左右へ振っていた。
そしてついでと言わんばかりに彼女の長く癖っ気がある薄緑色の綺麗な髪の毛も、少し遅れながらに合わせて揺れ動いている。
そんな行動を取っているリサは大人に憧れる少し背伸びをしている思春期の女の子のようにデュランの目には映ってしまうのだが、そう思っても敢えて口にはしなかった。
デュランもまた、そんな彼女のことを心の中で可愛らしくて好ましいとさえ思っていたのだ。
「ふふっ」
「お兄さん?」
「ああいや、別になんでもないさ。リサの顔を見ていたら、つい笑みが零れちまってな」
デュランはそこでようやく自分の中にある気持ちに気づいてしまい、リサのことを眺めながらも自然と頬が緩んでしまい微笑んでしまったのだ。
「うにゃ? なんか分からないけど……まぁいいや♪ アルフのことも許してあげるよ♪ なんせボクは大人の女性だし、それにお姉さんだからね♪」
「あん? 俺りゃ~別にリサに許してもらわなくたって、なんてことは……もごごごご」
「ほんとにリサは心が広い大人の女だなぁ~。ほらこのとおりアルフのヤツも反省して頷いていやがる。な!」
「もごごごご」
リサは上機嫌とばかりに先程とは打って変わった調子でアルフのことを許してくれた。
それに対してアルフがすぐさま苦言を口にするのだったが、デュランに後ろから口元を押さえられてしまい強制的に頷かされていた。
もしもここでアルフが余計なことを口にして、リサの機嫌を損ねてしまっては面倒なことになる。
そうデュランは考え、アルフを実力行使で止めることに専念する。
「あ、あのデュラン様。その方、大丈夫なのでしょうか? なにやらお顔の色が赤から紫へと変化して、もう枯れる寸前の押し花のようにもなっていますが……」
「えっ!? あっ……わ、悪いアルフっ!」
「ぷっはぁっ。し、死ぬかと思ったぜ~」
デュランは慌てて自分のしていることに気がつくと、彼の口元から手を離した。
ネリネに教えてもらわなければ、デュランはアルフのことを窒息死させていたかもしれない。
「本当に大丈夫か? すまないことをしたな、アルフ」
「ぜぇ~っぜぇ~っ。いや、お、俺がすべて悪かったんだ。あ、あやまるなぁ~っ」
どうやらデュランからされた行いも、自らへの罰や戒めだとアルフは思ってしまったらしい。
それ以上はデュランのことを咎めずに彼の肩を軽く叩き、息を整えてから再度ネリネへ向き直した。
「なんか色々あったが、俺はアルフだ。改めてよろしくなネリネ」
「は……い」
アルフは友好の証に……と、右手を差し出して握手を求める。
それでも見知らぬ男性への恐怖心からなのか、ネリネは指先を震わせながら彼へと差し出す。
「ま、まぁ俺のことも少しずつ慣れてくれ」
「……すみません」
アルフはそれでこの場を納得するため、彼女の指先を少しだけ握ることで挨拶とした。
「じゃあ自己紹介も済んだところで……。アルフは看板のペンキを塗り替えていたところなの?」
「うん? ああ、塗り替えてと言っても、そんな大したことねぇけどな」
リサは話題を変えるため、色が塗られた外看板へと話を振った。
「いや、これはそんな簡単に出来ることじゃないだろ。まるで新品みたいに見えるぞ」
「ああ前は古いせいなのか、腐食して木の表面が黒ずんでいたからな。それを少し削ってそれから店の名前を書いて、そこらにある看板のを
アルフは本当に何とも思っていないのか、何食わぬ顔のままそう口にしていたのだが、デュランからすればそれはプロ顔負けの仕事にしか見えなかったのだ。
「意外と言ったらアレだが、アルフは才能あるんじゃないのか? それで食っていくって手もあるように俺には思えるんだが……」
「よせったらデュラン、そんなに褒めるなよ。それにこんなのは仕事のうちには入らないし、ペンキを塗るだけなんて普通に出来るだろ? そもそも日雇い労働者は
褒められ照れているのか、アルフは頬を指の先で掻きながらそう言ってのけた。
それからデュラン達は床のモップ掛けや外壁にある汚れを落としたりして、明日よりレストランを開店させるため店の準備に勤しむのだった。