「んっ? んんんんっ!? な、なぁデュラン、そっちの可愛い子は誰なんだよ? 友達か? なら俺に紹介してくれよな♪」
アルフは目敏くもネリネのことを見つけると、まるで脚立から滑る落ちるかのように一目散に降りて来て、デュランの脇腹を肘で突付きながらそう小声で言ってきた。
「こっちは花売りのネリネってんだ。ウチの店でウエイトレスとして働くことになるから、アルフもよろしくしてれ……」
「俺はアルフ・フェイドだ! よろしくなっ!!」
「は、はぁ……よろしく……おねがいします?」
デュランがそっとネリネの背中へと手を添えながら、そうアルフへ紹介しようとすると彼はズイッと一歩前に出て歩み寄り、そして彼女の右手を手に取って自己紹介をしていた。
ネリネは強引なまでのアルフの自己紹介といきなり右手を握られたことに呆気にとられ、疑問交じりに返事をしながらデュランの顔を見ていた。
察するに「デュラン様、この方は一体……」と暗に言いたかったに違いない。むしろそれ以外の何物でもないと言った、ネリネの困惑している表情。
「はぁ……まったく。アルフ、いい加減に……」
デュランは頭が痛いと言わんばかりに深い溜め息をつきながらコメカミ部分に右手を沿え、そしてアルフを戒めようと声をかけようとした。
だがその矢先、ネリネの隣から救いの声が放たれることになる。
「コラーッ!」
「わっ!?」
「きゃっ!?」
「コラ、アルフっ! いきなり女の子の前に出てきて、手なんか取っちゃダメなんだよ!!」
どこかお姉さんぶっているのか、ネリネに迫っているアルフに対して説教をするように大声を張り上げ、繋がれている二人の右手に手を重ね合わせそこで縁を切るように彼女の手を解放した。
「な、何なんだよリサっ! 邪魔するなよなぁ~」
アルフはネリネとの仲を邪魔され、どこか膨れっ面で不満を口にする。
「邪魔も何もないでしょアルフっ!! ほら、ネリネが怯えてるじゃないかっ!」
「えっ? 怯えてるって……あっ」
そうリサから指摘されたアルフはそのまま彼女が指差す方向へ目を向けると、ネリネはデュランの背中で隠れながら体を小刻みに震わせ自分の方を窺っていたのだ。
それは見知らぬ男性からいきなり詰め寄られ、恐れを抱くか弱い女性の姿に他ならない。
「わ、わりぃ……つい」
「つい、じゃないでしょ! ボクに謝ってどうするのさ!? そんなんだからアルフはモテないんだよ……ふんっ!」
アルフは謝罪の言葉を口にするのだったが、自分の行動を恥じて少し気まずかったのであろうネリネとは顔を合わせずに何故かリサへと謝ってしまったのだ。
謝る相手を間違えているアルフに対してリサはその女性への気配りの無さが異性からモテないのだと指摘して、怒りを表すかのように腕を組みながら顔を背けてしまった。
「その……ごめんな。俺、強引すぎちまって……」
「……は、い。私のほうこそ、すみません」
今度はちゃんとネリネの方を見ながら謝罪するアルフ。けれども顔は伏せたままである。
ネリネもまた自分の行動が彼に頭を下げさせていると気づき、謝罪する。
「実はさっきルイスのヤツと……いや、オッペンハイム商会の当主と色々あってな。それでネリネは男に対して少し
「オッペンハイム商会と? そ、そう……だったのか。それじゃあ尚更俺が悪いじゃねぇか。すまねぇっ、このとおりだっ!!」
デュランが補足するように簡単に何があったのかアルフへ説明すると、彼はガバッと頭を地面に着かんばかりの勢いで下げ改めて謝罪した。
「いえいえ、もうよろしいですから……」
「そ、そうか? ごめんな、脅かしちまって」
どうにか二人の誤解は解けたのだが、未だ怒りが冷めない人物がネリネの隣に居る。
「ぷんぷん! 頭を下げて謝っても許してあげないもんねっ!!」
「はぁ~っ」
デュランは「なんで
だがこれから同じ店で働くもの同士このままではいけない……と、どうにか彼女の説得を試みることにした。
「なぁリサ。アルフもこうして謝り、ネリネだってそれで納得をしているのだから、リサが怒る道理はもはや皆無に等しいのではないか? もちろん怒る気持ちも理解できる」
「ぅぅっ。た、確かにボクが怒るのは筋違いかもしれないけどぉ~。でもでもアルフの態度が……」
自分でもどこか違和感を感じているのだろうが、それでもアルフの言動が今も許せないと言ったリサである。
(これならあと一言二言で、どうにかリサのことを押し切れるかもしれないぞ。それに自らの行動に疑問を持ちながらも、こうして意地を張る人間相手にはこちらから話の落としどころを提供してやってから、最後に相手の気持ちを尊重しつつも褒め称えるのが一番効果があるはずだ。それならば……)
そしてデュランはそんなリサに対して駄目押しの一言を口にする。