「メリス、ドゥドゥ。さて……ようやく街に戻ってこれたか」
「ヒヒン♪」
自分のすべきことが決まったデュランは帰り道の道中、一切何も考えることもなく一心不乱に街中にある自分のレストランへと戻って来た。
まだ時間帯としては昼前と言ったところだったが、色々なことがあって帰ってくるのが数日ぶりだとデュランは感じてしまう。
「おっ。もう窓に張られていた木板まで外したのか。たぶんアルフがしてくれたんだろうな」
見れば外窓に打ち付けられていた木の板が外されていた。
そして窓も今朝の埃だらけの曇りガラス模様とは違い、太陽の光を反射するほど綺麗に磨かれている。きっとアルフが板を外してリサが窓拭き掃除をしてくれたに違いない。
「これなら思っていたよりも、どうにかなるかもしれない」
デュランは店を綺麗にしただけで、こうも印象が変わるものなのかと感心しながら頷いた。
そしてメリスを裏庭の馬繋場へと繋ぎ、裏から店の中へと入って行く。
「リサ、アルフ。ただいま、今帰ったぞ」
「あっ、お兄さんだぁ~。おかえりなさ~い」
今は二階部分の掃除をしていたのか、ちょうど階段からリサが下りて来るところだった。
彼女はデュランの顔を見るなり、笑顔で出迎えの言葉を口にした。
「ただいまリサ。もしかして上の部屋を掃除していたのか?」
「あっ、うん。そうだよ♪ もう大体は終わっちゃったかな。埃が凄かったけど、これで夜はちゃんとしたベットの上で寝られるね。にゃはははっ」
これまで床に藁を敷いて寝床にしていたリサだったが、やはりベットで寝られるのは嬉しいようだ。
「おう、デュランか。おかえり。意外と早く帰ってきたんだなぁ~。俺はてっきり帰るのは明日かと思ってたぜ」
「アルフ、ただいま。まぁ……な。色々あって早めに帰ってきたんだ」
アルフも掃除をしていたのか、木の桶に雑巾を持ちながら一階へと下りて来たところだった。
デュランはアルフのその問いかけに少し言葉を濁しながら、そう受け答える。
「ふ~ん。まぁデュランだって思うところはあるよな。ま、これからは三人でこの店を盛り立てて行こうぜ♪」
「ああ、そうだな」
「うん♪ まぁボクとしてはアルフは居なくてもいいんだけどねぇ~」
「なんだよそれっ!? リサ、俺だけ除け者にする気だったのか!」
「にゃはははっ。冗談だよ~。ほんとっ、アルフってば単純だよねぇ~」
レストランの未来は未知数で路頭に迷うかもしれないというにも関わらず、二人は互いにからかいあったり冗談を言ったりして明るく振る舞っていた。
きっとデュランのことを励まして、少しでも辛いことを忘れさせようとしていたのかもしれない。
「あっはははっ。あっ……そうだデュラン。名前はどうする?」
「名前? 何の名前だ?」
「ほら、このレストランの店名だよ店名。外にある看板の文字が消えかかっていただろ? あんなに掠れていたんじゃ通りを歩く人にすら見てもらえないだろうし、それにどうせ店を新しく開店するなら名前だって心機一転! 別なのに変えるのが良いと思ってさ」
アルフは思い立ったようにデュランへとレストランの店名をどうするのかと尋ねてきた。
確かに外にある木の看板の文字は消えかかっており、また元の名前も東の言葉なのでこのままでは同じ末路を辿ってしまうことになるかもしれない。
「店の名前か」
「ああ、そうだ。俺はもういっそのこと、単純にレストランを意味するただのリストランテでも良いと思うぞ」
さすが……とでも言うべきなのか、アルフは物事を単純化する癖がある。
確かにレストランという意味のリストランテならば、誰にでも覚えやすい名前に他ならない。
「え~っ。でもでもそれだと間違えやすいんじゃないかな? それにリストランテって名前は洒落てはいるけど、ここは庶民達が暮らす
「お、おうよ。た、確かにそれは……あるかもしれない」
リサの物言いというか、否定に対してアルフはぐうの音も出すことができないようだ。
確かにこの場所に住んでいるはずのアルフですら、リストランテの意味は知らなかったのだから、リサの言い分が正しいのかもしれない。
「それにバーと同じくエールだって提供するつもりなんだよね? だったらレストランって名前だけで区切るのは危険じゃないかな? そりゃ~
「うん? あくまでレストランがメイン……そうか。それだよ!」
リサのその言葉にデュランが何か良い名前を思いついたかのように、パンッと手を叩いた。
「二人ともこの店の名前、決めたぞ」
「おっ?」
「うにゃ?」
そしてデュランは意を決して二人の前に立つと、こう店の名前を口にした。
「この店の名前は……『
デュランは自信満々といった感じで声高らかに二人に向けてそう叫んだ。