「そもそもここでは何の鉱石が採れていたんだろうか? 単純に考えればこの辺りの地層は繋がっているから鉄鉱石か、あとはスズを含む銅くらいなものだよな」
鉄鉱石とはその名のとおり鉄の元となる鉱石であり、それが採掘される場所では銅を含む鉱石やスズなどが採掘できる場合がある。
またスズが産出する下の地層には必ず銅が埋まっていると言われるほど、スズと銅とは切っても切れない関係でもあった。
そして各地方の鉱山から産出された鉱石は、すべてツヴェンクルクの街にある役所にてセリにかけられ落札された後に各製錬所へと送られる。そこで鉄や銅、スズなどと言った種目別に分けられてから
次の製造所では既に不純物を取り除いてある加工金属、いわゆる
鉄は剣や槍などの武器を作るのにはもちろんのこと、一般庶民が調理に使うフライパンや家などの補強材、それに馬に
また更には鉄鉱石から製錬する際に用いられる炭素を含む燃料コークスによって、
銅は熱を伝えやすいことから調理器具として使われたり、他の金属と混ぜられ青銅や真鍮などの合金として主に用いられる。また他の金属よりも殺菌性に優れ、加工しやすく錆びにくいため、鉄などよりも重宝されている。そしてスズを二割ほど加えた青銅は銅よりも硬く加工しやすいため、武器や
スズは大量のスズに銅を混ぜて作られる合金ピューターへと加工され、銀器の代わりに使われたりもする銀色にも似た輝きを放つ高級品であり、その主な用途は浄化を重んじる教会で使われる
そして鋼板にスズをめっきしたものはブリキとも呼ばれ、主にバケツや缶詰などの用途に用いられ庶民の間でもとても重宝されている。
これらの他にも鉱物としては希少な金や銀、
またそれらは装飾品などに用いられ、王族や一部の貴族が愛用できる贅沢品である。もっともそれも純度が低いものならば、庶民同士で結婚する際の指輪などにも使われることもある。
それとは別に国として金属を加工して使う場合もある。それがいわゆる貨幣通貨である。
金や銀、銅はこの国においては貨幣通貨としてコイン状にも加工され、その価値は上から順に金貨・銀貨・銅貨となり、市場ではその純度も大きく価値に関わってくるわけだが、庶民においてはその銅貨くらいしか使う機会がない。
そしてその貨幣通貨の純度は国力を示す大事な指針でもあった。
経済が豊かであれば貨幣通貨のコインに含まれる金属の純度が高くなり、逆に貧しくなれば純度を大幅に下げて流通させたりするわけだ。
「あっ、そういえば確かアルフが言っていたよな。この近くにあるウィーレス鉱山がまだかなり量の銅鉱石の埋没量があるってのに、廃鉱になっちまったって話。あそこで採れていたのが銅ならば、昔この場所で採掘されていたのはスズか銅の可能性が高いってことになるな」
そこでデュランは、街でアルフが口にしていたことを思い出すかのように言葉として口にする。
けれども鉱山を経営すること……それはまるで
いや、ある意味でポーカーなどは遊びとも言えることだろう。何故なら鉱山にはポーカーなどのカードゲームと違って、必ず出るという保証はどこにもないのだ。下手をすれば金だけを浪費して多額の借金を背負い、果ては破産して一家諸共路頭に迷う未来が待ち受けているだけである。
それに何より鉱山を再開させるにはかなりの額の運転資金が必要となり、そもそも文無しのデュランには鉱夫を雇うことができないし、燃料である石炭を買う金もなかったのだ。
もし鉱山を再開させるにはこの分の悪い賭けに乗ってくれる
「ちっ……クソッ! 結局大金を得るためには、元手となるそれなりの金が必要になるのかよ……ほんと貧乏人は上へと這い上がることができない世の中なんだな」
デュランは資本主義の根本に対して、今の身分差から生じる所得格差を嘆いてしまう。
そもそも資本主義とは、それ即ち金を払い人を雇う側の人間……つまりそれは絶対的地位の支配階級であり、対する労働者は労働の対価によって賃金を得られる奴隷階級とも言え、資本主義社会における構造はその二つだけの関係性において成り立つものである。
だから労働者がいくら努力をしても頂点に立つことは構造的に不可能なのだ。
もしもそこから脱しようとするには、何かしらの
結局、人の関係性とは『利用する側』と『利用される側』……その二種類の人間しかいないわけだ。
「いつまでも、こんな廃鉱山なんかを眺めていても銅や石炭が湧いて出てくるわけじゃない。もう街に戻るとするか……。今の俺に出来ることはレストランを流行らせること……ただそれだけだ」
デュランは一人そう呟くと、メリスと共に急ぎ街へと戻ることにした。