「あら、ルーベンス卿。本日はこのような場へとお越しいただき光栄ですわ」
「いやな~に、こんなに綺麗な花嫁を見ることができたんだ。来ないわけにはいかないではないか。がっははははっ」
「ボルト判事。わざわざお越しいただき、ありがとうございます」
「ご両人、結婚おめでとう。街へ寄ることがあったら是非とも我が家へ来たまえ。歓迎するよ」
マーガレットとケインは周りを取り囲み輪を作る人々へ、次々と挨拶を交わしていた。
もちろん挨拶をしているのは貴族や判事などお偉い方ばかりであった。
皆一様に表向き建前だけの言葉を並べ立ててはいるが、実際裏ではどう思っているか定かではない。
それを承知したしたうえで二人は世辞や世間話に華を咲かせていたのだ。
「マーガレット……」
何故だかそれがデュランにとってはまるでどこか遠い存在へと感じてしまい、その輪の中へと入るのを躊躇ってしまう。
「お兄様……あの……」
「ああ……」
追いついたルインはその様子を見て、彼の背中の服を少しだけ引っ張った。
それは「ここから離れましょう」という合図にデュランには思え、その場から離れようとする。
「デュラン……」
そこでふと笑っているマーガレットと目が合ってしまい、彼女は少しだけ首を右へと向けることで、「窓際へ行きましょう」と合図を送って来た。
「申し訳ありませんわ、ルーベンス卿。私、少しばかりアチラへ用がありまして……」
「うん? ああ、これは配慮が足りなかったな。私のところで花嫁を独り占めするわけにはいかんしな。どうか遠慮せずに……」
「ありがとうございます」
マーガレットと話をしていた年配の男性は自分だけと話をしていることに気がつくと、エスコートするように頭を下げ「どうぞ……」と道を譲った。
「デュラン……その、昨日の怪我は大丈夫? それとね。今日は来てくれてありがとう」
「…………良い式だったな」
デュランはマーガレットの問いかけに何と返答すればいいのか分からず、口を
それはデュランとマーガレットの関係性を知っていれば、彼が無理をしている言葉だと感じてしまうことだろう。
「そう……ね」
マーガレットはその言葉に少し悲しそうに顔を伏せてしまった。
「本当にごめんなさいねデュラン。私、貴方になんて謝ればいいのか分からないわ」
「マーガレット……もういいんだ。それに結婚式当日だってのに花嫁がそんな悲しそうな顔するもんじゃない」
「でも……」
デュランは許しの言葉を口にするのだが、対するマーガレットはドレスの裾を両手で握り締めながら、今にも泣きそうな顔をしている。
「おやおや、これはまさに珍しいこともあるもんだ。我が親友でマリーの元婚約者のデュラン君じゃないか。まさか、君が今日の式に出席するとは思わなかったよ。それにどうしたんだいマリー。今日はキミが主賓なんだぞ。どうしてそのような悲しそうな顔をしてしまっているんだい? ああ、もしかしてデュランが昨日と同じく、ま~た悪さをしたのかな?」
「そ、そんなこと……ないわよ」
「ケイン……」
ちょうどそこへケインがやって来て嫌味を言いながら、マーガレットの腰へと手を回し抱き寄せた。
そしてそのまま彼女の首筋へと自分の鼻を押し当て大きく息を吸い込んだ。
「んん~~っ♪ マリー、キミはまるで華のように甘く男を誘う香りがするな。これは今夜どころか今すぐにでもベットに連れ込みたいくらいだよ」
「ちょ、ちょっとケイン。こんな人が多い場所で止めてちょうだい!」
「ははっ。何を拒んでいるんだいマリー? 俺とキミとはもう名実ともに夫婦なんだよ。これくらいのスキンシップは当然のことじゃないか……なぁデュラン君♪」
「ぐっ」
ケインはまるで自分達の仲を見せ付けることで、デュランのことを挑発するかのような言葉と行動に移していた。
デュランは「もしこの場でもなければ、彼のことを殴り倒したい……」そう思ってしまうと、思わず両手を握り締め力が入ってしまう。
「お兄様……ダメですわよ」
「……分かっているさルイン」
ルインはその右手へ、そっと自分の手を重ね合わせることでデュランのことを戒める。
「おやおや、なんだいデュラン。その不満そうな顔は? まるで今にも殴りかかってこようとするのを必死に堪えているように俺には見えるぞ。はっはっはっ」
「ふん! 別になんてことはないさ。ああ……いやいや、どこかのいけ好かない男がいるって聞いたからな。実はな、今日その花嫁を攫いに来た……そう言ったら俺の
「……なに?」
デュランのその物言いに対してケインは笑うのを止め、真顔になって彼のことを睨みつけていた。
それもそのはず、結婚式当日に自分の花嫁を失っては良い笑い者になってしまう。それが立場がある貴族ならば、なおのことである。
「ちょ、ちょっと二人とも……」
「マリー……キミは少し黙っていてくれないか? 俺は目の前に居るデュランと話をしているんだ」
「ルイン……すまないな」
「お、お兄様っ!?」
デュランとケインは二人の女性が止めるのも厭わずに、今すぐにでも殴り合いの喧嘩をするような雰囲気になっていた。
「……両者とも名のある貴族ならば、銃での決闘をするのが筋じゃないのかい?」
「っ!?」
「お前は……ルイス」
ちょうどそこへ、デュランの見知らぬ青い髪に全身黒の正装服を着た、貴族の身なりらしき男が喧嘩をしようとしていた、二人に声をかけてきた。
どうやらケインは顔見知りなのか、ルイスと彼の名前を呟いた。