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第30話 昨夜の温もり

「んっ……もう朝なのか? 一体いつの間に眠っちまったんだ」


 いつしか夜が開け、木の板で塞がれた窓からは夜が明けたのを知らせる朝日が差し込みデュランを目覚めさせた。


「ん~~~っ、っと!」


 彼はまだ眠り足りないと思いながらも両手を目元へと重ねて目が覚めるようにと擦った。そしてそのまま後ろ手に髪を撫でながらも両手を重ね合わせながら背伸びをする。 

 床に藁を敷いて寝ていたため、体のアチコチから鈍い痛みを感じてしまう。


「うにゃ~? もう……朝なのぉ~? ふあぁぁぁ~っ」


 そしてそのタイミングで背中合わせにして寝ていたリサも目を覚ました。


「おはよ」

「うん……おはよう~」


 まだ寝惚けているのか、リサは目を瞑ったまま頭を左右に揺り動かしながら頷き朝の挨拶を交わす。


「ははっ……」

「ん~? お兄さ~ん? なんで笑ってるのさぁ~」


 デュランは昨夜の彼女と今寝惚けて目の前にいる彼女のと雰囲気の差から思わず口元から笑みが零れてしまった。

 リサは自分が笑われていると勘違いして少し不満げに彼に抗議する。


「なんでもねぇよ。とりあえず目を覚ますためにも裏で顔を洗わないか?」

「ん~~~っ。連れてって~」

「ったく。しょうがねぇなぁ~」


 リサはまるで子供が親に甘えるように両手を突き出しながら引っ張ってくれるのを待っていた。

 デュランは仕方なしに彼女の両手を手にすると勢い良く引っ張った。


「おわっ!?」

「わわわっ!」


 リサの体があまりにも軽く、そしてデュランが引っ張る勢いが強かったために彼女は彼に覆いかぶさると二人はそのまま後ろへと倒れこんでしまう。


「リサ」

「お兄さん」


 デュランが咄嗟に彼女を抱き締めたため怪我をすることはなかったけれども、そのタイミングで二人は昨夜キスをしたことを思い出してしまい、互いに見つめ合ってしまう。


「け、怪我はなかったか……リサ?」

「う、うん……ボクは大丈夫だよ。お兄さんは大丈夫だった?」

「お、俺も怪我はない……かな」


 どこかぎこちなくも上の空のように二人は呟きながらも、互いの瞳から目が離せなくなっていた。


(なんで俺はリサの目から視線を外すことができないんだよ……それに潤んだ瞳に吸い込まれるような感覚が……)

(ぅぅっ。なんか恥ずかしいなぁ~。お兄さん、ずっとボクの目を見つめてる。でもでも何故か逸らすことができない……ボク、一体どうしちゃったんだろう……)


 そして二人は自然のまま流れに逆らうことなく、まるで互いに求めるよう少しずつ唇と唇を近づけていく。


(もうちょっとでリサと……)

(もう少しでお兄さんと……)


 何故か惹かれ合う対極の磁石のように、二人はそっとキスをしようとしていた。


「おーい! デュランにリサ! おっはよう♪ ん~~っ? 二人はどこ行っちまったんだ?」

「(リサ!)」

「(お兄さん!)」


 ちょうどそこへ、間の悪いことどうやらアルフがやって来たようだった。

 だが彼が今立っている玄関口からは、ちょうどテーブルが邪魔をして二人が倒れている床は死角となっていたため、すぐに気づかれることはなかった。


 デュランとリサは目で合図を送り合うと今の変な雰囲気をアルフに感づかれないようにと、気を落ち着かせてから声をかけることにした。


「あ、アルフ! 朝早いんだなっ!」

「おおっ! デュラン、そんな床で何してんだぁ~?」

「アルフ! おおおお、おはよう」

「お、おう! おはよう……」


 デュランとリサはあくまでも自然体でアルフに声をかけようとしたのだったが、動揺が声と態度に表れてしまっていた。

 そしてアルフは何故二人して床に居たのかと訝しげそうな顔をしている。


(リサ!)

(お兄さん!)


 二人は再び目と目とを交差させて無謀にも意思の疎通を試みると、デュランが先にこんな言葉を口にした。


「いや、アルフ。見たままだけで誤解するなよ。実はリサが床に足を捕られちまって転んだんだよ。ちょうどそこへ俺が目の前に居て重なるよう一緒に床へ倒れた……そういうわけなんだ。な、リサ?」

「う、うん! そうだよ。別に何もなかったんだよ。ほ、ほんとだよ~っ。キスとか抱擁とか恋人的な何かなんてなかったから誤解しないでよっ!!」


 デュランはどうにか取り繕う言葉を搾り出せたのだったが、肝心のリサは混乱しているのか余計なことを口走っていた。


「……そっか。でもまぁ二人に怪我はなかったんだろ? それでもこれからは気をつけねぇといけねぇぞリサ」

「う、うん。そうだね。これからは気をつけるようにするよ」

「そ、それでアルフはこんな朝っぱらからどうしたんだ?」

「ほら、二人へ朝食にと思ってパンを買ってきてやったんだよ」


 意外や意外、アルフは何食わぬ顔のままリサへと注意を促すと二人の朝食のためにとパンを買ってきてくれたみたいだった。

 そしてパンが入っているという茶色袋をリサに向かって放り投げた。


「わわ……っと。うわぁ~っ。まだあったか~い♪」

「だろ? なんせ焼きたてだからな。温かいうちに食べちまえよ。俺はその間、そこの藁でも片付けておいてやるからよ♪」


 アルフは二人が朝食を摂っている間にベット代わりにしていた床の藁を片付けようと腕まくりをして張り切っていた。


「じゃあ遠慮なく、いただきま~す」

「あっ、コラ待ったリサ。パンよりも顔を洗って歯を磨くのが先だぞ!」

「え~っ」

「え~っじゃないっての! ほら早く行くぞ!」

「あっははっ」


 リサは徐に袋を開けてパンに噛り付こうとしたが、デュランがそれを阻止した。

 そして彼女の首根っこを掴みながら裏にある井戸へと向かって行く。


 それを見ていたアルフは愉快そうに笑いながら二人のことを見送るだけだった。


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