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第26話 青天の霹靂

「ぅぅっ……いてて。こ、ここは……どこだ? ベットの上なんかに何で俺は……?」


 デュランは目が覚めると何故かベットの上に寝ていたのだ。


「……誰か貴族の家なのか? それにしても……いたたっ。背中が……いたい」


 そこはデュランにはまったく見覚えの無い部屋だった。周りにある内装の数々から、ここが貴族の家だということが理解できた。

 未だ覚醒し切れていないぼんやりとした頭と、背中に走る稲妻のような痛みに思わず顔をしかめてしまう。


「あれ……確か俺はマーガレットを迎えに……ぐっ!?」


 そこでようやくデュランは思い出した。


 ルインから明日マーガレットとケインとの結婚式が行われると聞き、彼は元自分の家へと向かい木登りをして彼女と言葉を交わしたのだ。


「そして下からケインに声をかけられた瞬間、枝が折れて俺は木から落ちたんだな」


 それは背中の痛みから、現実のことだったと実感することができる。

 しかし、その後どうなったのかということを、今の今まで意識を失っていたデュランには皆目見当もつかない。


「まったくケインのヤツめ! 事あるごとに俺の邪魔をしやがって……クソッ!! 痛っ。なんだこれ?」


 デュランはケインのことを思い出して思わず右手を握り締めると、そこには何か硬い鎖状のものを自分で握っていることに気づいた。


「これはあのとき使ったネックレスか」


 どうやらデュランが落下してしまった際、マーガレットは手を離してしまったらしい。


「ま、マーガレットは無事なのかっ!! いた~~っ」


 デュランはネックレスを掴んでいたマーガレットが自分と一緒に落ちてしまったのではないかと瞬間的に思ってしまい、ベットから起き上がって彼女の心配をするのだったが、背中の痛みにより強制的にベットへと引き戻されてしまう。


「先程から変な物音がしていますわね……ってお兄様っ!? 目が覚めましたのね!」


 ちょうどそこへ水差しを手に持ったルインが部屋へと入って来た。


「る、ルイン? なんでお前がここに……もしかして、ここはツヴェルスタの家なのか?」

「はい……はい。ぐすっ……そ、そうですわよ。お兄様はあのとき木から落ちてしまったのですわ。覚えていらっしゃらないのですか?」

「いや……落ちたことだけは覚えてる」

「それから大騒ぎとなり、急いでウチへ運んだんですわよ」


 ルインはデュランが落下し気絶していたときのことを説明してくれた。


 デュランが落ちたのは幸いにも花が植えられている花壇だったのだ。

 比較的土が軟らかかったため、骨折どころか怪我一つしなかったのだという。


「そっか……あの花壇をダメにしちまったのか」

「お兄様っ!! 花壇なんてどうでもいいんですのっ! そんなことより自分の心配をなさったらどうなんですか!? もし打ち所が悪ければ死んでいたんですわよ!!」


 ルインの言うとおりデュランは前に倒れるように落下したため、背中を打ち付けるだけの軽症で済んだのだ。

 もしこれが後ろにでも落ちていたら、頭か首から地面へと叩き付けられて死んでいたはずだった。


「幸運というか、なんというか……ははっ。俺、もう少しで死ぬとこだったんだな」

「何を笑っていますのよ! まったくもう……」


 ルインは死ぬかもしれないというのに、笑みを浮かべているデュランに少し呆れてしまう。


 それでも彼が生きていたからこそ笑えることであり、また彼女自身も呆れることができるのだと納得した。


「今のお兄様を見たら、お姉様もきっと呆れてしまいますわよ」

「マーガレット!? そ、そうだルイン! マーガレットは無事なのか? 俺と一緒に落ちたりなんかしていな……」

「お姉様はちゃ~んと、無事ですわよ。それでもお兄様のことが心配で心労で倒れているかもしれませんわ」

「そっか……良かった。マーガレットは無事だったんだな……」


 デュランはマーガレットが無事だということを確認すると、安堵して後ろ手に倒れてしまう。

 きっとルインが嫌味を言ったのも耳には入っていないかもしれない。


「それでお兄様……あの……少し言いづらいのですが……」

「うん? 何かあったのか?」

「ええ、実は……」


 ルインはデュランに対して言おうか言うまいかと迷った挙句、その後の続きを話し始めた。


 あの後ケインがデュランに対して自分の花嫁であるマーガレットを奪いにやって来たと思い込み、その逆上心から気を失っているデュランへと銃を突きつけたのだという。

 それをマーガレットが立ちはだかるとこう言ったそうだ。


「ケインっ! 彼は私の幼馴染で明日の結婚式を祝いにやって来たのよ。銃を突きつけるなんて失礼だわ!!」

「それは嘘だな、マーガレット。それなら何故デュランは木によじ登って君と会っていたんだ?」

「それは……」

「ほぉ~ら、キミだって答えられないだろ? やはりこの男はマーガレット、キミを奪いにやって来たんだ!」

「な、なら……ケインはデュランが素直に会いに来たら、私と会わせていたと言うの? 違うでしょ?」

「ぐっ……」


「そしてどうにかお姉様の説得で、どうにかその場を治めることが出来ましたわ」

「そうか……マーガレットが俺を助けてくれたのか」

「ええ。それから急いでツヴェルスタ家へと運び……」

「今に至る……か」


 デュランはルインのその話を聞いて、マーガレットに感謝の気持ちを抱いていた。


 だがそれも、束の間のことにすぎない。


「それでお兄様言いにくいのですけれど……お姉様は明日、結婚式を予定通り行うそうですわよ。そしてそのままケインさんと結婚するとも……」

「……えっ? な、なんで……」


 まさにそれはデュランにとって青天の霹靂へきれきとも思える一言だった。


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