「デュランっ!」
マーガレットは心の底から彼が自分の目の前に現れてくれたことに感謝をした。
そして今すぐにでも彼の胸へと飛び込んで力いっぱい、それこそ痛いくらい抱き締められながら熱い口付けをして欲しいと心から願ってしまい、自然と互いの体と心を求めるようにデュランもマーガレットも手を伸ばした。
「デュランっ!!」
「マーガレットッ!!」
しかしそれも、すぐに受け入れられない現実へと引き戻されてしまう。
何故なら実際二人が居るのは木の上と二階の窓なのである。
デュランは右手を伸ばしマーガレットも窓から身を乗り出しながらも同じく右手を目一杯伸ばしたのだったが、僅かに指先一本分ほど届かなかった。
彼は彼女の手に触れるため、無理無理にでも体を前へと進ませる。
「マーガレ……うわっ!?」
「きゃっ!」
デュランは自分の体を木の幹へと押し付けながら左手のみで自分の体重を支えていたため、体を前へと突き出したことによりバランスを崩してしまい転落しそうになるその寸前、どうにか右手を木の幹へと素早く戻してその場に踏み止まることに成功した。
彼の判断がもし少し遅ければ、頭から地面へと真っ逆さまに落下していたことだろう。
「ははっ。い、今のはちょっと危なかったな」
「デュラン、もういいわ! このままだと貴方が怪我をしてしまうわよ!」
デュランは木から落下して自分が死んでしまうかもしれないという状況でも、乾いた笑みを浮かべてしまう。
マーガレットも彼がいつ落下するか分からないという恐怖心から、これ以上は止めて欲しいと切に願う。
「ここまで来てお前のことを諦めるわけがないだろうっ!!」
「デュラン」
けれども気合だけではどうすることもできず、また彼を支えている足元の木は細くいつ折れてしまうか分からない。
また無理をして窓際へと飛び移ろうにも踏ん張れるほど足幅のスペースが無いうえ、枝は彼の体重を支えるほど太くはなかったのだ。
もしもその枝へと彼の体重をかけようものならば、すぐに折れてしまい彼はそのまま地面へと落下して、最悪の場合には首の骨を折って死んでしまうことも考えられる。
(一体どうすればいいんだ。どうやったらマーガレットへ触れられるんだ? チッ……クソッ! ん? これ……は?)
そこでデュランは首元から垂れ下がる物の違和感に気づいた。
きっと彼がバランスを崩した際、服の中から飛び出したに違いない。
(そうだ……これを上手く使えれば間接的にもマーガレットと触れられるかもしれない)
デュランはすぐさま空いている右手で首の後ろにあるネックレスの止め具を片手だけで外すとそのままそれを握り込み、目の前に居ながらも手が届かない愛しい彼女の名前を叫んだ。
「マーガレットっ! これを掴んでくれ!!」
「デュラン、それってまさか……」
「ああ、お前が預けてくれた指輪と俺のネックレスだっ!」
それはお守り代わりにとマーガレットから預かった二人の婚約を意味する銀の指輪、それといつもデュランが身に付けていた銀のネックレスだった。
デュランはそれを使うことで互いに手を伸ばしても届かない分をどうにか補おうと考えたのだ。
「マーガレット~っ」
「デュラン~っ」
互いに右手を伸ばしながら名前を呼ぶ。
そしてデュランは指先の脇部分だけでネックレスを挟みながら、まるで振り子のように小さな揺れを作ると彼女への橋渡しをさせようとする。
「マーガレット!」
「デュラン!」
彼女はどうにか指輪の部分を掴むことができ、そこでようやく二人はネックレスと指輪部分を使いながらも間接的に触れ合うことができたのだった。
互いに手へと伝わる感触は金属特有の冷たさだったが、何故か不思議と互いの熱が伝わるようなそんな感覚を覚えしまい少しだけ温かみを感じてしまう。
「ははっ」
「ふふっ」
デュランはまるで自分達が演劇のロミオとジュリエットのようだと思い、笑みが零れてしまっていた。
またマーガレットも彼と同じことを考えていたのか、可笑しくもないのに笑顔を浮かべている。
「そこのオマエっ! そんなところで何をしているんだっ!!」
そこへ二人っきりの世界を邪魔する悪魔のような声が響き渡ると同時に、二人の時間と運命は無残にも切り裂かれてしまう。
デュランは思わず下から自分へと声をかけてくる者に目を向けてしまい、その声の主が誰なのかを確認した。
「ケインっ!?」
「お前は……デュランなのかっ!?」
バキッ!
そこで互いの存在を認識して名前を呼んだのを皮切りに、デュランの足元で乾いた嫌な音が聞こえてきた。
「うわーーーっ!?」
「きゃーっ」
デュランはマーガレットと指輪とネックレスを使って触れ合った次の瞬間、ケインから声をかけられた驚きから思わず足元に力を入れてしまったため、自分の体重をそれまで支えていてくれた枝がへし折れてしまい、彼はそのまま地面へと落下してしまった。
それはようやく幸せを得た二人にとっては、まさに天国からいきなり奈落の底へと叩き付けられるような、運命という名の気まぐれで