「リサ、お前。もしかして女の子なのか?」
「うにゃ? そうだよー。あれ、ボク言わなかったっけ?」
デュランへと飛びついた際に被っている帽子が外れてしまい、リサの綺麗な黄緑色の長い髪が外へと出てきてしまったようだ。
そして窓の隙間から差し込む光の前へと進み、リサはその姿をデュランとアルフに見せる。
「クルクルクル~……と、はい♪ どこからどう見ても正真正銘ボクは女の子でしょ?」
「……あ、ああ。そうだな」
リサはその場でダンスを踊るように優雅に回転してピタリッと立ち止まると、少し遅れて着ているスカートがふわりと舞い上がりながら自分の姿を披露した。
そこには小柄のボーイッシュな美少女がニコヤカな笑顔を浮かべ立っていた。
それはまるで暗闇に咲く、一輪の
「こりゃ驚いたな! まさかリサが女だったなんて」
「ぶーぶーっ。それはちょーっと、酷い言い草だよ、ツンツン頭のお兄さん!」
「せめて俺のことは名前で呼んでくれっ!」
「でもでもボク、まだお兄さん達の名前聞いていないよ」
リサからそう言われ、まだ自己紹介すらしていないことにデュランもアルフも気がついた。
「それでお兄さん達の名前は何って言うのさ?」
「そういや自己紹介もまだだったな。俺の名はデュラン・シュヴァルツだ。この近くにあるトールという小さな町の貴族だ」
「俺はアルフ。アルフ・フェイドってんだ。デュランとは違い、この街に暮らす一般庶民だ」
「そっかそっか。じゃあ……お兄さんとアルフだね♪ よろしくよろしく~♪」
そうして互いに名を名乗り簡単な自己紹介を終えた。
リサはデュランのことを『お兄さん』と呼びのまま、そして自分よりも年上であるはずのアルフに対しては、何故か『アルフ』と呼び捨てにしていたのだが、彼はどこも気にする様子もなかった。
「じゃあ、お兄さんはそのお父さんが残してくれた、このレストランが使えるかどうか確認しに来たわけなんだね」
「ああ。俺に残されたのはこのレストランと廃鉱山だけだからな。使えるものは何でも使うさ」
「だな。この様子なら少し掃除をするくらいでレストランを再開できると俺も思うぞ」
小さな火が灯る
こういったことが得意なのか、アルフは話を聞きながらも店内の様子を調べてくれていた。
「うん。そうだろうね。なんせボクが手を入れて掃除をしていたからね。それにほら……こっちのキッチンだって綺麗にしてあるんだよ~」
リサはそう言いながらも蝋燭片手にデュランの手を引き、厨房設備がある奥のキッチンへと案内する。
「どう? これならこのまま使えそうでしょ?」
「そうだな。これなら手をあまり入れる必要もないかもしれない」
そこは埃一つ無いコンロの上に置かれた綺麗に磨かれているフライパン、それにパスタなどを茹でるのに使う大きめの寸胴、大人数にも提供できるほどのスープ鍋などが調理台である、テーブルの上へと乗せられていた。
「すっげーなこりゃ! こんなに広い厨房があるなんて、まるでここが本当のレストランみたいだぜ♪」
「はぁ……アルフ。
「ははっ。そっかそっか。当たり前のことだよな」
やや大げさなリアクションをしながらも、当たり前のことを口にしているアルフにデュランは呆れながらにそんな正論をぶつける。
「にしても本当に綺麗にしてあるんだな」
「へっへぇ~ん。まぁね。ボクが掃除していつも使っていたからね!」
「勝手に使って……だろ? はぁ……」
デュランは戒めようとするのだが、リサはそれを悪びれるどころか、むしろ得意気な顔になって胸を張っている。
(コイツはどこまでポジティブなんだよ。真面目に相手をしているこっちの頭が痛くなっちまうよ。やれやれ……)
デュランは今日何度目かわからない溜め息と頭痛を覚えてしまう。
だがこれで、ここのレストランがそのまま使えることが判断できただけでも収穫だった。
けれどもレストランを再開するのには、まだいくつかの問題が残っていた。
まず一番大事な料理を作ることができる
「料理はボクが作れるから安心してよ♪」
「俺は料理はできねぇけど、ウェイターの仕事くらいなら手伝えるぞ」
「……そ、そうか。なら、あとの問題は……」
リサは料理を作れると言い、アルフもまた給仕の仕事なら出来ると言ってくれたのだ。
これでどうやら
残された課題は店を運営していくために必要な運転資金だけとなったのだが、この三人の中で誰もそれに見合う所持金を持ち合わせてはいなかった。