「たぶん、ここがその権利書に書かれているデュランのレストランって場所なはずだぜ」
「こ、ここがそう……なのか?」
そこは確かに大通りに面しているはずなのに、周りの建物よりも一際古ぼけていた。
一応はお店らしく、玄関ドアの上部の出っ張りに木製の看板が備え付けられている。
「なんだアレ? 古くて看板に描かれている文字や絵が
「あれはレストランを示す絵だろうな。それにほら、あの文字は店名じゃないか?」
「ああ、そうだぜ。きっとそうに決まってらぁっ!」
デュランはアルフと一緒にその看板へと目を向けた。
そこには縦に並べられた白色のペンキが消えかかっているフォークとナイフの絵とともに、その右脇には木で作られたと
そしてその絵の上には店名なのか、何やら文字が描かれていた。
「なぁデュラン。あれはなんて読むんだよ? たぶん東側の言葉だよな?」
「ちょっと待てよ。え~っと、何々……字が掠れてよく読めないが、たぶん『アーク・ド・リストランテ』と書いてあるようだな。
デュランはアルフに読み方とその意味を述べながらも、心の中ではこう思ってしまった。
(もしかするとこの店が閉店した理由は店名が原因では無いだろうか? でなければ下流階級居住地域にあるとはいえ、これだけの人通りがあるにも関わらず簡単に閉店してしまうわけがないだろう)
確かにそれはレストランにふさわしくないはない店名だったが、自分の父親か親戚筋が付けた名前だと思うと、その血筋を引くデュランが頭ごなしに批判を口にすることはできない。
「ま、店の前で突っ立っていても仕方ないから、とりあえず店の中に入ってみようぜデュラン!」
「……だな」
「なんだよ鍵もかけていないのかよ? いくら空き家だからと言って無用心だなぁ~」
「そんなこと俺に言われても困るぞアルフ。何せこんなレストランがあるなんて、俺だって今日初めて知ったんだからな」
デュランはアルフ先導の元、店の中を確かめることにした。
幸いというか無用心にもドアには鍵がかかっておらず、誰もが容易に建物の中へと入ることができてしまえる。
「にしても中は暗いなぁ~。なんだよ、ここ?」
「そりゃ暗いに決まってるだろ。むしろ閉店して誰も居ないはずのレストランに明かりが灯ってたら逆に怖いだろ?」
「ははっ。
まだ昼間だというのにそこは真っ暗闇の世界だった。
きっと窓の外に木の板で封がしてあるため、店の中までは光が差し込まないのかもしれない。
デュランはそっと近くにあった、テーブルの上を指でなぞってみる。
「――にしても、これは変だよな」
「うん? 変って、何が変だって言うんだよデュラン?」
「ああ、これをよく見ろアルフ」
「いや、こう暗くちゃ何も見えねぇっての」
「そういやそうだったな、すまないアルフ。実は今ここにあるテーブルの上を触ってみたんだが、指に埃一つ付いていなかったんだ」
デュランは自分が感じた違和感のことをアルフへと伝えた。
「それの何が変なんだよ……って、あれ? だってここは随分前から使われていないレストランなんだろ? なのに汚れていないってことは……」
「ああ。つまりは……こういうことだなっ!」
バッ!
デュランは店の中央付近の床にある布らしきもので膨らんだ大きな塊に手をかけると、一気にそれを取り去ってしまった。
「わわっ。み、見つかっちゃったぁ~」
「ひ、人か!? 人がなんでこんなところに!?」
そこに隠れて居たのは、なんと人だった。
それもデュランやアルフよりも年下だと思われる、まだ子供と言ってもいいくらいの
「……お前、ウチの店で何をしているんだ?」
「にゃははっ。お兄さん達コンニチワ~。元気してるかな~? ボクは元気だよ~♪」
店の所有者であるデュランがそんな疑問を投げかけると、その子はまるで誤魔化すかのように笑みを浮かべながら小さく手を振っていた。
しかも初対面だというのにとても砕けた喋り方をデュラン達にしている。
店の中は暗闇でその姿はよく見えないのだが、背格好とその子が着ている洋服、それに『ボク』という一人称から、その子供が『女の子ではない』との判断をデュランは下した。
「じゃ、じゃあボクは用があるからこのへんで……」
「ちょっと待てコラ。そのまま逃がすと思ってるのかお前?」
「にゃははっ。ですよね~」
その子供は適当にデュラン達をあしらいその場から逃げようとしたのだったが、デュランはその子の首根っこを掴み逃がさない。
「なぁデュラン。もしかしたらその子は……」
「ああ、そうだな。プレカリィに間違いないだろう」
アルフが何を言いたいのか、デュランは既に察していた。
きっとこの子はデュラン所有のレストランに鍵がかかっておらず、長年空き家だったことを良いことに無断で住み着いていた『