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没落貴族たちの歩み方 ~der untergegangene Adel Lebensweise~
兎姫
恋愛現代恋愛
2024年08月15日
公開日
272,530文字
連載中
【累計434万pv超】これは嵌まる……時代に翻弄された男女の恋愛超大作

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<あらすじ>
互いの領土拡大と鉱物資源をめぐり、国家を東と西とで二分して勃発した東西戦争。
貴族の名家であるシュヴァルツ家の長男デュラン・シュヴァルツは己の名誉と家名のため、その戦争へ参加することになった。

しかし運が悪いことにデュランは戦場で味方からの銃弾を胸に受けてしまい奇跡的にも生き残るのだが、今度はそのまま敵側である東の捕虜として捕まり、西側では彼のことは死んだものと扱われてしまっていた。

――それから1年後
戦争が終わると同時に捕虜であったデュランは解放され、急ぎ家に戻ってみると唯一の肉親であった父親は既に病で亡くなっており、幼馴染で将来を誓い合った仲の婚約者マーガレットはデュランの従兄弟でもあるケイン・シュヴァルツの婚約者となっていた。

また父親が残してくれた財産そのほとんどをケインの父親である伯父ハイルに奪われてしまい、デュランに残された遺産は『廃鉱山』と『小さなレストラン』だけであった。

住む家に財産、そして大切にしていた幼馴染の婚約者までも従兄弟とその伯父に奪われてしまい、大切なものすべてを失ってしまったデュラン。
たった一発の弾丸が幸せになるはずだった、彼の運命を大きく狂わせてしまう。

この物語は婚約者から婚約破棄され、貴族としても没落してしまい、すべてを失ってしまった彼が苦労の末に貴族最高の位である『公爵』になるまでの半生を描いた悲恋のお話。



※時代背景は近代ヨーロッパ19世紀末

第1話 運命を変えた一発の弾丸

「アンタ、随分と若く見えるけど……まだ二十歳はたちそこそこの若造だろ。そもそもなんでこんな戦争になんて参加したんだい? やっぱり農家の出なのか?」

「俺か? いいや、違うぞ。それとも農家をしているようにでも見えたのか?」


 まだ18歳になったばかりの『デュラン・シュヴァルツ』は、目の前で酒瓶を傾けている、その見た目30過ぎの男から尋ねられると、臆することなくそう答えた。 


「なら、貴族の次男坊ってところか? それがなんでまた戦地なんかに……」

「ふん。しれたこと――そんなものは家系の名誉のために決まっているだろう」


 互いの領土と資源を巡り国を東側と西側とで二分割する戦争、いわゆる『東西戦争』へとデュランは参加していた。またその兵士のほとんどが、徴兵によって集められた農民の長男や貴族の次男坊三男坊ばかりであったのだ。


 けれども、それらに当てはまらないデュランは家系の名誉のために、長男でありながらも自らの意思で参加していたのである。


「アンタも相当変わってんだな。普通は徴兵で無理矢理にでも集められるか、俺のように罪を犯した連中が罪の帳消し目的に釣られて来るものなのに、家の名誉だからっていつ死ぬかもしれねえ戦争なんかに参加しねぇぞ。それこそ、こんなところで死んじまったら、人生何もかもがおしまいなんだぜ」

「そんなこと……今更酔っ払い相手に言われるまでもないさ。余計なお世話だ」


 そもそもシュヴァルツ家は西部地方で、たくさんの鉱山経営や土地やレストランなどを所有して財を成した家系であった。

 そして戦争へと参加することで、より家名への名声を高める目的とともに、デュラン自らも箔を付ける狙いで参加を希望したのだ。


「ほら、お次はアンタの番だぜ。コール」

「ああ……おっと、酒をこぼしちまったぜ」


 トントン。

 デュランは数枚のトランプ片手に、相手の番を示すコールサインの代わりに木箱のテーブルを軽く二度ほど叩いてみせた。


「……っとと、その前に掛け金を決めていなかった」

「そういや、そうだったな。さてさて今度は何にするか……うん? その首に下げているのは……銀の指輪じゃねぇか? もしかしてそれ、婚約指輪だったりするのかい?」

「うん? ああ、これか。そうだ、婚約者に借りてきたお守り代わりのものさ」


 デュランが少し前屈みになると、首から下げているネックレスが男の目に入ったらしい。


「よーし。ソイツを賭けるってのはどうだ?」

「おいおい、冗談はよせよ。これはダメに決まってるだろ」


 デュランは即座に断りを入れる。


 元々この指輪はデュランが婚約の証に幼馴染の婚約者へと贈ったものだった。だが、戦争へ向かう前日にその婚約者であるマーガレットから、無事に帰ってくるためのお守り代わりとして預かったものである。


***


「ねぇデュラン。明日にはもう戦地に行ってしまうのでしょう? なら、この指輪を持っていって」

「うん? 俺があげた指輪をか?」

「ええ、そうよ。あっそうだ。ちょっと良いことを思いついたわ。ついでにその首飾りを外してちょうだい」


 マーガレットは左薬指にはめていた指輪を外すと、デュランがいつも身に着けていた銀の首飾りへと通した。


「はい。これでよしっ! これできっと貴方のことを守ってくれるわ。なんせこれはデュランから送られた婚約指輪なんですもの。だから生きて帰ってこなかったら承知しないわよ!!」

「ははっ。そうだな。それに生きて帰って来れたら、正式に式を挙げて結婚しようなマーガレット」

「ええ、約束よデュラン♪」


 マーガレットもデュランも、とても幸せそうな笑顔になっていた。

 そして二人は抱き合いながら、約束を交わすような誓いの口付けをするのであった。


*** 


(――そんな大切な指輪をポーカーなんて遊びの賭け金にするというのか?)


 デュランはマーガレットとの約束を思い出し、すぐさま別の提案をすることにした。


「無難なとこで、俺はさっきアンタから巻き上げたこのライターを賭け、そしてアンタは今日の夕食を賭けるってのはどうだ? 最悪、腹が減ってもそこらの新兵から芋でも奪えば腹は満たされる。どうだ、案外悪い提案じゃないだろ?」

「ああ、それでもいいぜ! きっちり取り返してやるよ」


 そうデュランは軽口を叩き、先程の賭けで受け取ったライターをいつでも取り出せる左胸のポケットに入れる。

 そうして賭け金が決まると、男はカードを一枚引いた。


「……にしても、アンタ。婚約者が居るってのに戦争に参加したのか? ははっ。まるで狂気だな。アンタが死んじまったら、その女は女房になるその前に未亡人になっちまうんだぜ。そのことについて、まったく考えたりもしなかったのか?」

「ふん! そもそもこんな敵地の縄張りテリトリーで、こんなポーカー遊びしている方が俺としてはよっぽど狂気だと思うがね」

「ははっ。ちげーねー」


 今彼らが興じている遊びは数枚のトランプを使って遊べるポーカーゲーム。

 それも場所はなんと敵地のド真ん中で行なっていた。とてもじゃないが正気とは思えない行動。


 だが、それでもデュラン達は妙な高揚感が手助けし、通常の感覚では計り知れない感情に苛まれ、いつ敵が出て来ても可笑しくはない状況下であっても、一時の休息を取っていた。


「おい、お前らいつまで遊んでるんだ!」


 部隊長が未だ遊びに興じている二人に注意を促した。


「でもね、隊長。この辺りには敵の姿なんて人っ子一人見当たらねぇですよ。だからポーカーで遊んでいても、何も問題はな……ぐはっ」


 いきなり目の前の男の胸に真っ黒な穴が開くと、その中央から少しずつ赤いシミが広がっていくのが目に飛び込んできた。


「敵襲ぅーーーーっ!!」

「ちっ、クソがっ!」


 デュランは咄嗟の判断で目の前にあった木箱を盾代わりにすると、そのまま横っ飛びで地面へと転がった。


 バンッ、バンッ!!

 その瞬間、デュランが居た場所には銃弾が間髪入れずに二発打ち込まれる。


「おいおい、いきなりかよ……撃つなら撃つって言えよなぁっ!」


 既に先程の男はいくつもの銃弾を浴び、倒れているのが横目に入る。

 あれではとても助からないだろう。


「うおおおおおっ!!」


 隠れていたであろう敵の大群が森の中から飛び出してきた。

 もちろんデュラン達、西の者もそれに応戦する。


「はっ!」

「ぐっ……ぬあぁぁぁぁっっっ!!」


 ガッ、キーンッ!?

 銃に剣先が付いた銃剣で応戦すると、火花が散る。やや遅れて、目の前でぶつかり合う斬撃の鈍い音が耳の奥に届けられた。


「ふん!」

「があぁぁぁっ」


 デュランは向かってくる敵を軽々といなしてから力任せに剣の腹背で押し返した。そして勢いそのまま地面に押し倒すと、相手の胸元目掛け剣先でトドメを刺した。


 バンッ!


「ぐはっ」


 だがその直後、何故か真正面に居たはずの味方・・に左胸を撃たれてしまい、デュランは前のめりに倒れこんでしまう。


「お……お前……が……な……ぜ」

「ニッ♪ 世の中には知らないほうがいいってこともあるんだぜ。それにアンタはもうすぐ死ぬんだから、そんなこと知る必要なんてない。じゃあな、デュラン・シュヴァルツさん」


 そのニヤけた顔つきと、頬にナイフか何かで斬られたような古傷がある男にデュランは見覚えがあった。

 先程ポーカーを興じていた際に注意をしてきた、あの部隊長の男だ。


 彼が何故、味方であるはずのデュランを撃ったのかはわからない。

 けれども、その男の顔は悪魔の微笑みにも似つかわしい、歪んだ笑みを浮かべていたことは間違いなかった。


「マー……ガレッ……ト……すまな……い」


 デュランが左胸を撃たれた痛みによって意識を失う直前、婚約者であるマーガレットの笑顔が頭に浮かんだ。


 もしかすると、それは女神の微笑みだったのかもしれない。

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