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第83話また調査の季節がやってきた03

緊張の中を進むことしばし。

小さいがちょうどいい水場を見つけたので、少し早いが昼休憩をとる。

硬めのパンに乾燥した肉とチーズを挟んだだけの簡単なサンドイッチを食べながら、地図を開き現在地や残りの行程なんかを改めて確認した。

「この、少し深い森を抜けていくところがちと怪しいのう」

と言うベル先生の言葉に軽くうなずきつつ、

「布陣はどうする?」

と聞く。

その質問にベル先生は、少し考えるそぶりを見せたが、

「最初に出てくるのはゴブリン程度じゃろう。前衛は任せるぞ?」

と言って、「旋風」の3人の方に視線を向けた。

「おう」

とシルフィーが短く答える。

その落ち着いた様子に私は安心感を持ちつつ、

「私とベル先生は援護に回るから落ち着いて対処してくれ」

と一応念を押すような感じで軽くそう言った。

「うふふ。ご領主様のお手は煩わせませんよ」

と微笑みながらリーシェンが答えてくる。

私は、その返答に、

「ああ。すまんが楽をさせてもらうよ」

と軽口のような感じで応じると、私たちは手早くサンドイッチを腹に詰めてさっさとその場を後にした。


やがて進む度に森が濃くなってくる。

(たしかに、出そうだな…)

と思いつつ、私も含め、みんなが辺りに神経を配りながら進んでいった。

そのまましばらく進む。

すると、案の定、

「ぶるる…」(いるよ…)

とライカが静かにそう言った。

私たちは静かにうなずき合い、馬から降りて武器を確かめる。

そんな中、コユキが、

「きゃぅ…」(くちゃい…)

といかにも嫌そうな顔でそう言った。

「ゴブリンらしいな」

と少し苦笑いしながらそう言い、移動を開始する。

ライカの導きに従いつつ進んで行くと、やがて私たちにもその気配がわかるようになってきた。


「近いぞ」

と先頭を行っていたシルフィーが私たちに注意を促してくる。

そのまましばらく進むと、倒木のおかげで少し開けた場所に出た。

「旋風」の3人が静かに前に出て陣形を整える。

私は、

「ミーニャ、ベル先生。馬たちを頼む」

と指示を出して「旋風」の3人の後に陣取った。

緊張した空気が私たちを包み込み、「旋風」の3人はそれぞれに得物を構える。

シルフィーはやや長めの剣、リーシェンは薙刀でザインは盾だ。

ザインが他の2人を守るような形で前に出る。

すると、そばの茂みがガサリと動いて、醜悪な小人がワラワラと姿を現した。


「ちっ。けっこういやがるな…」

と、苦い顔で言うシルフィーにリーシェンが、

「あら。びびった?」

と冗談めかして煽るような言葉を掛ける。

そんな言葉にシルフィーはすかさず、

「けっ。バカ言うな」

と返し、リーシェンは、

「うふふ」

と笑った。

そんな2人に、

「…いくぞ」

とザインが短く声を掛ける。

「おう!」

「了解!」

とシルフィーとリーシェンが短く、しかし、力強くそう返事を返すとすぐに戦闘が始まった。


まずは、ザインが盾をかざして突っ込んで行く。

そして、何匹かのゴブリンを弾き飛ばしながら陣地を作ると、その後ろからシルフィーとリーシェンが飛び出して、確実にゴブリンたちを削っていった。

はじき返しては斬り、斬ってはまたはじくという攻防を続け、徐々にゴブリンたちの数を減らしていく。

私は時々こちらに向かってくるゴブリンを斬りながらも、その様子を頼もしく眺めた。

やがて、最後の1匹が斬られ戦闘が終わる。

「旋風」の3人を見たが、息が上がっている様子もなく淡々としたものだった。

(さすがは慣れた冒険者だな…)

と感心しつつ、

「お疲れ」

と声を掛ける。

その言葉にシルフィーは、

「ああ。肩慣らしにはちょうどよかったぜ」

と返してきて、リーシェンは、

「うふふ」

と笑った。

ザインがさっそくゴブリンを一か所にまとめ始める。

私やシルフィー、リーシェンもそれを手伝って、斬ったゴブリンの山を作り始めた。


山が出来上がったところでさっさと燃やす。

一瞬で燃え上がったゴブリンの山を背に、ベル先生や馬たちのもとに戻るとミーニャがすかさず、

「お疲れ様でした」

と言ってお茶を差し出してくれた。

「ああ。ありがとう」

と言いつつお茶を受け取りとりあえずひと息吐く。

「旋風」の3人もお茶を受け取り、それぞれにほっとしたような表情を浮かべていた。

そんな3人に、

「ずいぶんと余裕だったようだな」

と微笑みながら声を掛ける。

するとリーシェンが少し困ったような笑顔を浮かべて、

「嫌でも慣れちゃいましたよ」

と肩をすくめながらそう言った。

「ははは。辺境生活を楽しんでくれているようでなによりだ」

と冗談で返す。

そんな私にリーシェンは続けて、

「うふふ。これだけ魔獣には事欠かないんですもの、そのうちギルドを設置したらどうです?きっと冒険者で賑わいますよ」

と少し意外なことを言ってきた。

「ああ、それは盲点だったな…。そうか、ギルドか…。たしかにこれから開拓地を広げていくとなると、森の奥の魔獣対策が必要になりそうだし、探索の手も広げられる。いや、いいことを教えてくれた。ありがとう」

と素直に礼を述べ、頭を下げる。

そんな私の態度にリーシェンは少し困惑したような表情をしつつも、

「うふふ。どういたしまして」

と、普段通りのんびりとした口調でそう答えてくれた。


お茶をひと口飲み、改めてギルドを招聘するということについて考えてみる。

おそらく課題はこちらの受け入れ態勢と物流の問題だろう。

受け入れ態勢はともかく、物流を整えるとなるとやや難しそうだ。

私がそんなことを感じながら、

(思い切った予算措置で街道のインフラ整備を断行するか?…いや、今の状態では村の財政が圧迫されるだけだな。現状ではそれなりの数の冒険者しか集まらないだろうし村の経済に与える影響も限定的だ。赤字になることだってあり得る。…となると、さらなる流動人口の増加…つまり、この辺境にやってくる冒険者をいかに増やせるかという点が肝になるが…。それにはこの辺境の森に冒険者を惹きつけるだけの魅力がもっと必要だな。ゴブリンやオークが頻繁に出るというだけでは多くの冒険者は惹きつけられないだろう。…なにか付加価値の高い物が採取できればいいんだが…。うーん。そこはさらに調査が必要だな…)

と考え込んでいると、ベル先生がちょっとしたジト目を私に向け、

「商売のことは冒険が終わってからにせい」

と軽く窘めるようなことを言ってきた。


「ああ。すまん。つい、な」

と頭を掻きつつ苦笑いで答える。

そんな私を見てリーシェンが、

「うふふ。真面目なんですね」

と笑いながらそう言った。

先程までの緊張が嘘だったかのように和やかな雰囲気の中、みんなで干し果物をつまみお茶を飲む。

みんなそれぞれに笑顔を浮かべ束の間の休息を楽しんだ。


「さて。そろそろ行こうかのう」

というベル先生の声を合図にみんなが立ち上がる。

そして、それぞれが手早く準備を整えると、軽く現在地を確認し、私たちは再び森の奥を目指して進んでいった。


また緊張感の中、しばらく進みその日は野営となる。

周囲の様子に気を配りながら、交代でほんの少しずつ体を休めた。


翌朝。

前の晩の緊張感を途切れさせることなく、出発する。

しばらくは何事も無く順調に進んでいたが、やがて昼が近いかという頃、

「ぶるる!」(いっぱいいるよ!)

とライカがやや鋭い声を上げた。

「何かわかるか?」

と聞くが、

「ぶるる…」(わかんない。今まで感じたことがない気配かも…)

とライカがややしょんぼりしたような感じで言う。

私は、それを聞いて、

(ということは、未知の敵という事か?)

と慄きつつも、一応は落ち着いたふうを装って、

「いや、大丈夫だ。教えてくれてありがとう」

と言い、ライカを軽く撫でてやった。

「どうする?」

とベル先生に視線を向けつつ意見を聞く。

ベル先生はやや考えるような仕草を見せたが、

「まずは落ち着いて戦える場所を見つけよう。相手が気付かずに通り過ぎてくれればそれでよしというところじゃろうが、まぁ、おそらく気付かれて襲ってくるじゃろうな」

と、やや辟易とした感じでそう言ってきた。

私はそんなベル先生の意見にうなずきつつ、

「…そうだな。そうしよう。ライカがいっぱいいると言った以上、おそらく集団戦になるだろう。後衛は任せてもいいか?」

と訊ねる。

その質問に、

「ああ。任せておけ」

と自信たっぷりに答えてくれるベル先生を頼もしく思いつつ、私はみんなに、

「今回はベル先生と馬たちを守る位置ついて全員で前線に立つ。『旋風』のみんなは1つにまとまって動いてくれ。私はミーニャと一緒に動く」

と手早く陣形を指示した。

「おう」

とそれぞれから了解の返事が返ってくる。

私はその返事を心から頼もしく思いつつ、ライカに合図を出し、先頭を切って進み始めた。


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