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第82話また調査の季節がやってきた02

午後。

いつものあの場所に着く。

(さて。そろそろだろうな…)

と思っていると、やはりいつも通り、

「久しぶりね。ルーカス」

と後ろから声を掛けられた。

苦笑いしつつ振り返り、

「久しぶりだな」

と挨拶を返す。

私の胸元の抱っこ紐からコユキも顔を出し、

「きゃん!」

と、いかにも嬉しそうな声を上げた。

さっそくコユキを抱っこ紐から出してやり、母親のもとに向かわせる。

コユキは嬉しそうに、トテトテと走りいつものように母親の胸の中へとうずもれていった。

「元気そうで安心したわ」

と言いつつフェンリルが愛おしそうに微笑む。

私はその表情を見て心温まるものを感じつつ、

「ああ。元気なものだ。よく食べるしよく眠っている」

と笑顔でそう答えた。

「うふふ。カレーってそんなに美味しいのね。あと、目玉焼きの乗ったハンバーグが美味しかったらしいわ」

と言ってフェンリルが微笑む。

そんな言葉に私も微笑み、

「ああ。いつか機会があったら是非村に食いに来てくれ」

と冗談めかしてそう答えた。

「ふっ」

とフェンリルがひとつ苦笑いをする。

おそらく、フェンリルはこの場から離れられないのだろう。

しかし、私はいつかフェンリルも一緒にカレーを食べられる日が来ればいいのに、と心の中でそっとそう思ってしまった。

「それはともかく…」

と言ってフェンリルが話題を変えてくる。

私が、「ん?」というような顔をして続きを促がすと、フェンリルは、

「村の方は順調にいっているの?」

と漠然とした質問をしてきた。

その漠然とした質問にやや困ったような笑顔を浮かべつつ、

「ああ。順調に発展していっているよ。ただし、問題があるなら教えて欲しい。例えば森を切り拓き過ぎているとか、植物を取り過ぎているとかの問題だな。その辺りはなかなか気が付かないものだから、意見をもらえると助かる」

と言ってフェンリルに開発が早すぎないかという疑問をぶつけてみる。

するとフェンリルも少し困ったような笑みを浮かべて、

「たしかに想像したよりも早く森が切り拓かれているわね。ただ、今のところ問題はないわ。一応考えてやってくれているんでしょ?」

とこちらを試すような感じでそう言ってきた。

その言い方に私はまた苦笑いを浮かべたが、すぐに表情を引き締め、

「ああ。一応村のみんなで話し合って、やり過ぎないようにはしているつもりだ。しかし、こちらが思うよりも森というのは繊細なものだろうとも思っている。もし、なにかあったら遠慮なく言ってきて欲しい」

とフェンリルに真剣な目を向けつつそう頼む。

そんな私にフェンリルはどこか満足そうに微笑むと、

「わかったわ。これからもしっかりやりなさい」

と、まるで母親か姉のような感じで私にそう言ってきた。

「ああ。わかった。これからもよろしく頼む」

と言ってフェンリルに軽く頭を下げる。

すると、フェンリルは軽く笑って、

「真面目な子ね」

と、ひと言そう言った。


やがて、私の後で小さくなっていた「旋風」の3人をフェンリルに紹介し、お茶を淹れて世間話をする。

フェンリルは私が最近火魔法を覚えようと思っているということを伝えると、

「いいことよ。ゆっくりで構わないから頑張りなさい」

と励ますようなことを言ってくれた。

「ああ。ぼちぼち頑張らせてもらうよ」

と気軽に返事をする。

そうやってのんびりと過ごし、そろそろ辺りが暗くなり始めようかという頃。

「さて。そろそろ行くわね」

と言って、フェンリルがいつものように消えた。

「くぅん…」

とコユキが寂しそうな声を上げる。

私はそんなコユキを抱き上げると、なるべく優しく撫でてやり、

「また来ような」

と言って慰めてやった。


その日はその場で野営にする。

いつものようにミーニャがスープを作っている間に私たちは簡単な設営を行った。

設営はすぐに済み、食事ができるのを待つ間「旋風」のシルフィーとお茶を飲みながら世間話をする。

「しかし、ご領主様だってのに、こうやって冒険に出るなんてなぁ…」

と感心したように言うシルフィーに、

「ははは。ここは辺境だからな。領主といえどもこうして現場で働かねばならんのさ」

と冗談めかしてそう答えると、シルフィーは苦笑いして、

「辺境は厳しいねぇ」

とこっちも冗談っぽい口調でそう返してきた。

「まぁな。しかし、慣れれば楽しいもんだぞ?」

と、こちらも苦笑いでそう答える。

そんな私にシルフィーは「あはは」とおかしそうに笑って、

「いいご領主様じゃねぇか」

と私の肩を叩きながら、やや豪快な感じでそう言った。


やがていい匂いがしてきて夕食になる。

その日の夕食も楽しい雰囲気の中、和気あいあいと進んでいった。

夕食が終わり、私はいつものようにライカにもたれかからせてもらいながら横になり夜空を見上げる。

初春のどこか霞んだようにぼんやりとした色合いの夜空を見ながら、

(なんとも風流なものだな…)

と心の中でつぶやいた。

私の胸元で、コユキが、

「くぅん…」

と甘えたような声を出してモゾモゾと動く。

私は、そんなコユキを軽く抱きしめてやった。

(きっとフェンリルと別れたのが寂しいんだろうな…)

と思いつつ宥めるようにゆっくりと撫でる。

するとコユキは、

「くぅん」

と甘えたような嬉しいような声を上げて、私の胸にその頭をクシクシとこすりつけてきた。

そんなコユキの背中をトントンと優しく叩いてやりながら、寝かしつける。

そうしているうちに私にも自然と眠気が襲ってきたので、私は静かに目を閉じた。


ゆっくりと眠った翌朝。

すっきりとした気持ちで目覚める。

私の胸元ではまだコユキが幸せそうな寝顔でスヤスヤと眠っていた。

(相変わらず寝坊助だな…)

と思いつつコユキを起こさないよう、慎重に起き上がる。

そして、すでに起きていたミーニャに朝の挨拶をすると、ゆったりとした気持ちでお茶を飲みながら、夜明けを待った。


その後、みんなが起きてきて手早く朝食を終える。

食後、地図を広げながら、

「さて。今日はどのあたりまで進もうか?」

とベル先生に聞くと、ベル先生は、

「そうじゃな。この辺りはすでに調査し終えているから、さっさと奥を目指したい」

と言って、私が予想していたよりもほんの少し奥の草原が広がる地帯を指さした。

「わかった。少し足早に進もう」

と言って、さっそく出発の準備に取り掛かる。

そして全員が手早く準備を整えると、私たちは爽やかな朝日の中、森の奥へと歩を進めていった。


順調に進み、夕暮れが近づいた頃。

その日の目的地に到着する。

さすがフェンリルンの縄張りの中とあって何事も無く順調に進んでこられた。

「狼の一匹くらいでるかと思っていたがのう」

と冗談なのか本気なのか、やや不満そうに言うベル先生に、

「平和でなによりじゃないか」

と苦笑いで答えて、さっそく野営の準備に取り掛かる。

そして、いつものように手早く準備を整えると、お茶を飲みながら、明日の行動予定を軽く話し合った。

「明日も出来るだけ奥に進みたい。この辺りの草原がいいと思っておるんじゃがどうじゃ?」

と言うベル先生の意見にうなずき、

「ああ。問題無いと思うぞ。ちなみにその辺りはどの程度調査が済んでるんだ?」

と聞き返す。

すると、ベル先生は少し考えて、

「めぼしい物は採りつくした感じじゃな。まぁ、意外な発見があるかもしれんから時間があれば少し観察してみたいが…」

と、わりとどうでもいいというような感じでそう答えてきた。

「そうか。なら変わったものが無いかそれなりに注意しつつも手早く通過しよう」

と答えて、簡単な打ち合わせを終える。

そして、その日は軽く夕食を済ませると、交代で見張りにつきながら体を休めた。


翌朝。

「さて。ここからは油断できんな」

と言うベル先生にうなずき、

(ここからが本当の冒険だな…)

と思いつつ表情を引き締める。

周りを見ると「旋風」の3人の表情も昨日までとは明らかに変わっていた。

そんな私たちの緊迫した空気に刺激されたのか、ライカが、

「ぶるる」

と気合のこもったような鳴き声をあげる。

私はそんなライカに、

「よろしく頼んだぞ」

と微笑みながら声を掛け、軽く撫でてやった。


朝焼けの森を慎重に進んでいく。

すると、1時間ほど進んだところで森の空気が変わり始めた。

どうやらフェンリルの縄張りを抜けたらしい。

私はその空気の変化にやや緊張感を増しつつも、軽く深呼吸をして、

(大丈夫だ。落ち着いていけ)

と自分にそう声を掛けた。


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