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第81話また調査の季節がやってきた01

ようやく雪が溶けてきた頃。

いつものように稽古を終えて朝食の席に向かう。

普段通りのみそ汁を口にして、

(やはりアインさんの味噌は美味いな…)

という感想を抱いた。

話によればそろそろこの味噌が領内全体に行き渡るらしい。

醤油も近々試作品が出来上がってくるそうだ。

(これで領内の食事情が変わるぞ)

と思うとそこはかとなく嬉しさが込み上げてくる。

私は今日もそんな嬉しい気持ちで朝食をいただいた。


朝食後。

普段通り仕事に取り掛かる。

報告書によると2、3日のうちには新しい役場と薬院の建物の棟上げが完了するそうだ。

(一段落着くなら、なにか差し入れをしてやらねばならんな)

と思いつつ、

(そう言えば棟上げには餅蒔きをするという風習があったな)

ということを思い出した。

もち米は無いが、餅を思い出すと妙に食いたくなってくる。

(うーん…。無いものはしょうがないが、何か代わりになるようなものでも作れないだろうか?あ。そう言えば団子は上新粉で作れるな。小豆が無いから餡団子は無理でもみたらしなら醤油があればいけるはずだ。よし、今度ジェイさんたちに相談してそれ用の細かく挽ける石臼を作ってもらおう。…ん?臼と言えば抹茶は可能だろうか?…たしか緑茶をそのまま粉にしても抹茶にはならなかったはずだ。えっと…)

と思いながら前世の記憶を探ってみると、

(たしか抹茶ってのはてん茶から作るんだったな。…玉露みたいに覆いを被せて作った茶葉を使って揉まずに蒸して乾燥させて…だったと思うが…)

というような曖昧な記憶が蘇ってきた。

そこまで思い出すと、どうにも抹茶が欲しくなってくる。

私は、

(試験栽培をしてみるにしても、手を挙げてくれる農家はいるだろうか?いや、ここは思い切ってやる気のある農家に補助金を出してやってもらおう。予算次第だが、5年くらいなら何とかなるな…。いや、5年で上手くいけばいいが、それ以上かかる場合もありうる。よし、10年くらいまでは持つように予算組して本腰をいれてみよう)

と心の中で決めてさっそく予算編成に取り掛かった。


そんなある意味楽しい仕事を終えて、昼になる。

(いかん。つい、余計なことに熱中してしまった。午後は溜まった書類をきちんと片付けねばな…)

と若干の反省をしつつ食堂に向かう。

するとそこにはもうみんなが揃っていて、エマとミーニャ、それにマーサが食事を運んできてくれているところだっった。

「すまん。待たせたな」

と言いつつ自分の席に着く。

そして、バターの風味がそこはかとなく香るガーリックライスをつつんだオムライスにたっぷりのハヤシライスソースが掛かったオムハヤシを堪能していると、ベル先生が、

「そろそろまた森に調査に行くが、一緒にくるか?」

と聞いてきた。

「ああ。そうだな。そろそろフェンリルにも春の挨拶をしたいし、一緒に行こう」

と答えてまたオムハヤシを頬張る。

ベル先生もオムハヤシを美味しそうに頬張りつつ、

「うむ。今回は「旋風」の連中も連れていくぞ。ずいぶん辺境の森に慣れてきたらしいから、荷物持ちにはちょうど良かろう。明後日には出発する。少し奥まで行くつもりじゃからしっかり準備をしておいてくれ」

と言ってきた。

「了解だ」

と答えて軽くミーニャに視線を送る。

すると、ミーニャも軽くうなずいて、一緒に森へと調査に入ることが決まった。


翌日。

仕事の残りを急いで片付けつつ準備に取り掛かる。

そして、その日はやや早めに仕事を切り上げ、ゆっくりと体を休めた。


さらに翌日。

早朝から準備の確認をし、防具をつけて玄関に降りる。

するとそこにはすでにベル先生がいて、何やら荷物の確認をしていた。

「おはよう。待たせたな」

と一応待たせたことを謝罪しつつ朝の挨拶をする。

「いや。私も今来たところじゃ。揃ったらさっそく『旋風』を迎えに行くぞ」

と言うベル先生の言葉に軽くうなずいて、さっさと玄関を出る。

そして、すでにやる気満々で玄関に来ていたライカに跨るとさっそく「旋風」の住む長屋へと向かった。


移動しつつベル先生に、

「『旋風』の3人はずいぶん慣れたという話だったが、一緒に行動したことがあるのか?」

と聞いてみる。

「ああ。浅い場所で一度だけな。オークならなんとかなる程度には使えるようじゃから、いざとなれば自分たちで逃げ帰るくらいはできるじゃう。足手まといにはならんといった程度かの」

と軽く言うベル先生の言葉に、内心少し心配しつつも、

(まぁ、ベル先生がそう言うなら大丈夫なんだろうな…)

と、やや楽観的に考えて、

「そうだな。一応、気を引き締めて行こう」

とだけ答えておいた。


やがて長屋に着き、入り口の前で待っていた「旋風」と落ち合う。

「おはよう」

と挨拶をすると、リーダー格のシルフィーから、

「おはよう」

という、挨拶がやる気に満ちた表情とともに返ってきた。

(どうやら妙な緊張は無さそうだな)

と思いつつ右手を差し出す。

「今日はよろしくな」

と型通りに挨拶すると、シルフィーは、

「ああ。護衛は任せておいてくれ」

と言ってニカッと笑ってみせてくれた。


「ああ。頼りにしているよ」

と苦笑いで返す。

そしてリーシェンやザインとも同じように挨拶を交わすと私たちはさっそく森を目指してそれぞれの馬に前進の合図を出した。


昼頃。

エマさんが握ってくれたおむすびで軽く昼食を取り順調に進んでいく。

当然だが、森の入り口までは順調に進んだ。

やがて森に入り浅い部分をどんどん進んで行く。

その日は例のオークロード戦で、衛兵隊が築いた仮の防衛線辺りまで来るとそこで野営をすることになった。


いつものようにミーニャがスープの支度に取り掛かり、私たちは設営作業に入る。

さすがにみんな慣れたもので、設営はすぐに終わり、私たちはゆっくりとお茶を飲みながら、ミーニャのスープが出来上がるのを待った。

その間「旋風」と軽く言葉を交わす。

「村の生活には慣れたか?」

と聞くと、シルフィーは苦笑いしつつ、

「ああ。近所のご婦人連中はなにかと世話を焼いてくれるしエチカ達ともちょくちょく一緒に飯を食っているからな。快適なもんさ」

と答えてくれた。

その表情を見る限りどうやら楽しく暮らしているらしい。

そう思って私は一安心しつつ、

「それはよかった。これからも無理のない範囲で頑張ってくれ」

と返してまた軽くお茶をすすった。

そうこうしている間にいい匂いが漂ってくる。

そして、間もなく、

「スープができましたよ!」

というミーニャの声が掛かると、みんな「待ってました」とばかりに腰を上げ、ミーニャのもとへとスープをもらいに向かった。


美味しいスープを食べ、ほっこりとした気持ちで食後のお茶を飲む。

そんなまったりとした空気の中、ベル先生が地図を見ながら、

「まずはフェンリルへの挨拶だな。その後はブドウが自生していた辺りを抜けてさらに奥を目指したい。だいたい6、7日の行程じゃろうと思うが、どうじゃ?」

と私にお伺いを立ててきた。

「ああ。いいと思うぞ」

と軽くうなずきつつ、

「今回は何か目的があるのか?」

と追加で聞いてみる。

そんな質問にベル先生は、

「うーん。明確な目標があるわけではないのう。しかし、もしかしたらあるかもしれん、という物はある。ルルックと言ってな。低木に生える小さな実なんじゃが、良く効く腹痛の薬に使えるんじゃ。割と開けて陽当たりのいい林に自生していることが多いから、そういう所を中心に探していく感じかのう…。まぁ、仮になくとも色々と採取できそうじゃから絶対というわけではないがの」

と言って、あればよいが無くても構わないような目標があるということを教えてくれた。

「そうか。見つかるといいな」

と答えてそこからはミーニャも交え調査の候補地を挙げていく。

話し合いは夜の帳が降りる頃まで続き、星が綺麗にきらめき始めたところで私たちは体を休めることにした。

いつものようにライカにもたれかからせてもらい、コユキを抱いて眠る。

初春とは言えまだまだ寒さの残る夜の空気の中、私は2人の温もりを感じ、ゆったりとした気持ちで深い眠りへと落ちていった。


翌日。

すっきりとした気持ちで目覚める。

「おはよう」

と誰にともなく挨拶をすると、みんなからも同様に「おはよう」という挨拶が返ってきた。

さっそくミーニャが淹れてくれたお茶を飲み、ひと息吐く。

そんな私にシルフィーが、

「ずいぶん堂々と寝ていたな」

と感心したような感じで言葉を掛けてきた。

「ああ。なにせうちにはライカがいてくれるからな。魔獣が接近してきたらちゃんと起こしてくれる。ありがたいものだよ」

と苦笑いし自慢半分といった感じで答えてややライカの方に視線を向ける。

するとシルフィーもライカの方へ視線を向けて、

「はぁ…。まったく便利なもんだねぇ」

と感心したような呆れたような表情でそう言った。


やがて、朝食のスープを食べ、準備を整える。

ベル先生が、馬に跨りつつ、

「さて。今日はまずフェンリルの所じゃったな」

と言うと、コユキが嬉しそうに、

「きゃん!」

と鳴いた。

「ははは。久しぶりだもんな。今日はいっぱい甘えると良いぞ」

と言いつつ笑顔でコユキを撫でてやる。

その様子を見ていたみんなもどうやらほのぼのとした気持ちになったらしく、私たちは冒険中とは思えないほど穏やかな気持ちのまま今日の目的地、フェンリルがいる場所を目指して進み始めた。


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