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第80話帰還02

侯爵領から帰った翌日を荷物の整理に宛てて、その翌日。

留守中の様子を聞きに荷馬車で各所を巡る。

まずは屋敷のすぐ目の前で建設が進められている役場と薬院の工事現場を訪れた。

さっそく現場を覗くと忙しく働く大工たちに混ざってドワーフのドワイトさんとガルフさんが忙しそうに働いていた。

「やぁ、久しぶりだな」

と声を掛けつつ近づいていく。

そんな私に気が付いて、

「おう。久しぶりだな。ルークの旦那。帰ってきたんだな」

とまずはガルフさんが気さくに声を掛けてきた。

「ああ。一昨日な。留守中どうだった?」

と聞きつつ現場の様子を眺める。

現場はすっかり基礎が出来上がり、いくつもの柱や梁がすでに建物の形をうっすらと浮かび上がらせていた。

「ああ。あと1か月もあれば棟上げだろうよ」

とドワイトさんがやや得意げにそう言う。

私はそんなドワイトさんに軽くうなずき、

「順調なようで安心したよ。あとでジェイさんたちに土産を渡しておくから今夜にでも一緒に楽しんでくれ」

と告げると、現場で働く大工の連中にも侯爵領から買って来た干し果物を差し入れて私は次の現場へと向かった。


次に向かったのは織物工場。

工場に近づくと、中からガシャガシャと機械の動く音が聞こえてくる。

(順調にいっているようだな)

と思いつつ工場の玄関をくぐる。

すると、ちょうどアリアとデザイナーのエチカがなにやら紙を見ながら話し合いをしているのが目に入ってきた。

「忙しいところすまん。旅からもどったんで様子を見に来た」

と声を掛けて2人の方に近づいていく。

すると、その声に気付いた2人も。

「お久しぶりです。おかえりなさい」

「お久しぶりです!」

と挨拶を返してきてくれた。

「留守中何事もなかったか?」

と一応、念のためというような感じで気軽に聞く。

すると、アリアは「ええ」とにこやかなに微笑んで、

「順調に言っておりますよ。新しい織機も2台ほど入れましたし、今アリアさんたちはドワーフのノバエフさんやアーズマさんと一緒に機械の改良にも取り組んでくれています」

と予想以上に順調だというようなことを言ってくれた。

「ほう。新しい機械か…」

と興味を持って軽く訊ねてみる。

すると今度はエチカが、

「今までよりもいろんな色の糸を同時に扱えるようになる予定だそうです。それが出来たらこれまでに見たことが無いような綺麗な模様の布をたくさん作ってみせます!」

と、やや鼻息荒いような感じでやる気たっぷりに答えてくれた。

「そいつは楽しみだ。期待しているぞ」

と笑顔で言って右手を差し出すとエチカはやる気いっぱいの笑顔で、

「任せてください!」

と力強く私の手を握り返してきてくれた。


そんな織物工場にも干し果物を差し入れて笑顔で次の視察場所に向かう。

私は村の中心部をしばらく進み、今度は酒や味噌、醤油なんかを仕込んでいる醸造蔵へと顔を出した。

「おーい。帰って来たから様子を見に来たぞ」

と玄関で声を掛けて蔵の中に入っていく。

すると中から、

「おう。ちょっと待ってな」

という声が聞こえて、アインさんが出て来てくれた。

「久しぶりだな。調子はどうだ?」

と聞きつつ右手を差し出す。

するとアインさんはその手を握り返しつつ、

「ああ。順調も順調よ。そろそろ味噌の試作品が出来上がるころだからそのうちお屋敷に持って行こうと思っていた所だぜ」

と満面の笑みで答えてくれた。

「なに!それはすごいな。ありがとう楽しみにしているよ」

とこちらも満面の笑みで答える。

そんなやり取りをしているところに今度はジェイさんが奥から顔を出してきて、

「おう。久しぶりだな。久しぶりの都会はどうだった?」

と聞きつつ、右手を差し出してきた。

その手を握り返しつつ、

「ああ。相変わらずの賑わいだったよ。留守中も順調にいっていたらしいな」

と軽く聞く。

そんな質問にジェイさんはニヤリと笑って、

「あのブドウ。それにリンゴもだが。あれはいい酒になるぜ」

と嬉しそうにそう答えてきた。

「そいつは楽しみだ。完成はいつごろになる?」

とワクワクしながら聞き返す。

「そうだな…。秋ごろまでは待ってくれ。おそらくそのくらいには新酒が出せるだろうよ」

と言うジェイさんに、

「そいつは楽しみだな。今年の秋は収穫祭を兼ねて新酒まつりを盛大にやろう」

と言うと、ジェイさんもアインさんも一気に目を輝かせ、

「そいつぁいいなぁ!」

「ああ。そうとなったら気合を入れていい酒を仕込まなくちゃいけねぇ」

と言ってくれた。

そんな2人に、お土産の酒を樽ごと渡して次に向かう。

私は酒樽を降ろしてやや軽くなった荷馬車を軽快に進め、次は村長のバルドさん宅を目指した。


バルドさん宅を訪ねると上手い具合にバルドさんがいてくれたので、まずは村のみんなのために買って来た飴玉や魚の干物、本なんかをお土産として渡す。

「お気遣いいただいてすみません」

と礼を言ってくれるバルドさんに、

「いや。こっちこそいつも世話になっている。この程度のことしかできんがせめて村の子供達を喜ばせてやってくれ」

と少し謙遜してそう言うと、そこからは留守中の村の様子についての話になった。

「開墾は順調です。ルーカス様が手伝ってくださる時のようには参りませんが、ドワーフの皆さんも時折手伝ってくれましたし、なにより村の若者が精を出してくれました。次の春にはブドウの植え付けがずいぶんと増やせそうです」

と言うバルドさんの報告を嬉しく思いつつ、その他の生活のことを聞く。

それによると冬の間少し風邪が流行ったそうだが、ベル先生の薬のおかげでたいした事にはならなかったのだそうだ。

「本当によく効く薬を作っていただき、助かりました」

と目を細めて嬉しそうにそう言うバルドさんの報告を聞いていると私もなんだか嬉しい気持ちになった。

それからしばらく世間話をしてバルドさん宅を辞する。

途中、馬車の上で、バルドさんの奥方が握ってくれたおむすびを頬張りながら、私は次に獣人たちの住む集落を訪れた。


集落の入り口を入り、さっそく族長ナーズ殿の屋敷を目指す。

ナーズ殿は畑仕事に出ていたようだが、家の者が呼びに行くとすぐに戻って来てくれた。

「忙しいところを邪魔してすまんな」

と軽く謝罪の言葉を述べる。

そんな私にナーズ殿は、

「いえ。とんでもございません」

と言って逆に頭を下げてきた。

そんな遠慮深いナーズ殿のことを快く思いつつ、

「冬の間の様子を聞きにきた。なにも無かったか?」

と、あまり心配せずにそう聞く。

するとやはり冬の間少し風邪が流行ったがクルス村同様、ベル先生の薬のおかげでたいした事にはならずに済んだということだった。

「無事でなによりだ」

と、ほっとしながら答えて、保存食の状況や来年の春に向けた話なんかをする。

この集落でも開墾は順調に進んでいるらしく、来年は米の作付けを少し増やせそうだという話になった。

それに、この辺りの土地はリンゴに向いているらしく、

「きっと数年後にはたわわに実りますよ」

と言うナーズ殿の顔には心の底から込み上げてくる嬉しさがこれでもかというほど表れていた。

「リンゴ栽培が盛んになりそうだったらこの集落にも醸造蔵がいるかもしれんな…。よし、今度ジェイさんに話を通しておこう」

と話してそこからは事務的な話に移る。

集落の図面を見ながら今後の開墾予定なんかを聞きながら、いくつか建設地の候補を挙げていった。


そんな事務的な話も終わり、先ほどと同じように本や飴玉、魚の干物なんかのお土産を渡す。

「こんな貴重なものを…」

と感動するナーズ殿に、

「春からは侯爵領との間で定期便の往復が始まる。そしたらもう少し気軽にこういうものが手に入るようになるぞ」

と言うと、ナーズ殿は一瞬驚いたような表情を浮かべたあと、

「この辺境も豊かなになりますなぁ…」

と目を細めて感慨深そうにそう言った。


その日はナーズ殿の屋敷に泊めてもらって、翌朝。

さっそく次の目的地に向かって出発する。

次はラッテ村とシーバ村を回って様子を聞いて回る予定だ。

ついでに各村の門で衛兵に話を聞けば森の様子もわかるだろう。

そう思って荷馬車を進ませていった。

やがて、ラッテ村に着き村長に話を聞く。

ここでもこれまで同様の話を聞き土産を渡した。

「これはきっと子供たちが喜んでくれますよ」

と嬉しそうに目を細める村長の姿になんとなく安心してシーバ村に向かう。

そして、村長のイサークさんを訪ねると、やはり同様に嬉しそうな反応が返ってきた。

そんなイサークさんに村の様子を聞く。

その話によると、冬の間はレンガ焼きの仕事があったせいか村にはいつもより活気があったのだそうだ。

レンガと焼き物はこれからもいい村の産業になってくれるだろうと言ってくれたので、

「しばらくの間は試行錯誤が続くかもしれないが、人材育成をしっかりと頼む。困ったらいつでも相談してきてくれ。きっとアーズマさんも力になってくれるはずだ」

と答えてこれからのことを頼む。

「はい。この機会を逃さずきっとこの村を発展させてみせます」

と力強く言ってくれるイサークさんと固い握手を交わし、村長宅を辞する。

村を出る頃にはすっかり日が西に傾き、冬らしい寒さが辺り一帯を支配するようになっていた。


今晩の宿に衛兵隊の駐屯地を選びそこへ向かう。

簡素な宿舎で、みんなに酒を振舞いながら話を聞くが、帰って来た時ハンスが答えてくれたようにいつも通りの冬だったようだ。

魔獣は相変わらず出て来ているが、異常なほどということはない。

討伐も順調に出来ているし、新人が転んで大きなたんこぶを作った以外に目立ったけが人は出ていないから安心してくれ、とのことだった。

そんな話を聞きつつ、その場にいた衛兵と小さな酒盛りをしてその日の晩はそこで体を休める。

翌朝。

早くにその駐屯地を発つと、私はなんだか嬉しい気持ちでクルス村を目指した。


朝から懸命に働く村人たちの姿がちらほら見える。

(こういう力、ひとつひとつのおかげでこの領が発展していくんだな…)

ということをしみじみと感じた。

朝日に照らされてキラキラと輝く雪道を白い雪道を馬が白い息を吐きながら進んでいく。

私はそんな光景を見ながら、

(春はもう少し先だな…)

と当たり前のことを思った。

しかし、春は確実に近づいてきている。

いずれこの雪も解けて吐く息も白くならなくなるだろう。

私はその時のことを楽しみに思いながら、馬に速足の合図を出した。

「ぶるる」

と馬が短く鳴いてほんの少し足を速める。

頬に当たる風がほんの少し強くなった。

(帰ったら温かいものが食べたいな)

と思いながら、あれこれと献立を思い浮かべる。

そして、

(やはりこういう時は豚汁だろうか?)

と思うと妙に豚汁定食が食いたくなってきた。

(帰ったらミーニャにお願いしてみよう)

と思いつつ、ついつい頬を緩めて道の先を見つめる。

ふと遠くに雪を割って咲く小さな緑色の草を見つけた。

(春はもうすぐそこなんだな…)

と思って目を細める。

「ふっ」

と小さく笑って、

「さて。帰ったら仕事だな」

と独り言ちつつ、私は視線を真っすぐ前に向けた。

クルス村に続くあぜ道は相変わらず白く染まっている。

しかし、朝の陽に照らされて輝くその白い道が私には未来へと続く希望の道に見えた。


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