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第70話ドワーフたちもやってきた01

カレー大会を経て今、領内は収穫の最盛期を迎えている。

私は今日も各地の収穫量が書かれた報告書に目を通し、書類作りに邁進していた。

そんな中不意に執務室の扉が叩かれる。

私がそれに、

(ん?なんだ?)

と思いつつも、

「ああ。いいぞ」

と気軽に答えると、お茶のセットを持ったミーニャとジェイさんが執務室に入って来た。


「忙しいところすまんな。知り合いの連中がいきなり来ちまった」

と言うジェイさんに、

「おお。それは…。って、もう来てしまったのか?」

と聞きつつ、席を立つ。

慣れたもので、遠慮なくソファに座るジェイさんの対面にこちらも遠慮なく座るとすかさずミーニャがお茶を淹れてくれた。


「ああ。前もって連絡を寄こせとは言っていたんだが、どうやら手紙が途中でどっかにいっちまったらしい。すまん。急なことになっちまった」

と、いかにも申し訳なさそうに言うジェイさんに、

「いや、辺境じゃよくある事さ」

と、この地域の郵便事情の悪さを思いつつ、軽くその謝罪を受ける。

そして、特に何事もないというような顔で、

「で。どんな連中が来てくれたんだ?」

と朗らかに話を切り出した。


「ああ。そう言ってもらえるとこっちも助かる」

と言いつつジェイさんがお茶をひと口するる。

私も同じようにお茶をすすりながら、ジェイさんが口を開く待っているとジェイさんは、

「今回来た連中は建築やら工芸が得意なやつらだ。なにせ手先が器用だから何かにつけ役に立つぜ」

と少しニヤリとしながらそう言った。


「おお!それはありがたい。ならば一気に役場と薬院の建設に着手できるな」

と喜ぶ私に、

「ああ。さっそく明日にでも連れてきて、詳しい話に取り掛かっちまおう」

と言ってジェイさんが右手を差し出してくる。

私はその手をしっかりと握ってジェイさんと固い握手を交わすと、意気揚々と帰っていくジェイさんを見送りさっそく準備していた役場と薬院の計画図を取り出した。


翌日。

いつものように稽古を済ませ、手早く朝食をとるとさっそく執務室に入り書類の準備にとりかかる。

移住者の事務的な書類を用意し、昨日遅くまでかけて作った計画図を机の上に広げると私は待ちきれないような気持ちで新たな住人が挨拶に来るのを待った。


やがて、執務室の扉が叩かれる。

「失礼します。お客様がお見えになりました」

というミーニャの声に、

「おう。待っていたぞ」

と前のめりに返事をしつつ席を立つ。

そして、執務室に入って来たジェイさんを含む4人のドワーフに対して、

「領主のルーカス・クルシュテットだ。よく来てくれた」

と言いつつ、右手を差し出した。


「あ、ああ。ドワイトだ。大工をやっているよろしくな」

と、やや引き気味に自己紹介してくれる男性と握手を交わし、次の人物に手を差し伸べる。

するとそちらの男性はやや落ち着いた感じで、

「ガルフだ。内装やら家具の職人をやっている。こちらこそよろしく頼むぜ」

と言って私の右手を握り返してきた。

最後に、3人目の男性に右手を差し出す。

すると、その男性は、少し朴訥な感じで、

「アーズマ。飾職だ。小間物ならたいていの物は作れる」

と言って言葉少なに私の手を握り返してきた。

「ははは。ずいぶんな歓迎ぶりだな」

と言ってジェイさんが笑う。

私はそんなジェイさんに、

「ああ。なにせこの辺境ではなかなか得難い人材ばかりだからな。大歓迎だ」

と言いつつ、

「さぁ、とりあえず座ってくれ。さっそくだが、これからの話をしよう」

と言って4人にソファを勧めた。


「聞いてた通り、ずいぶんとくだけた貴族様らしいな」

とドワイトさんが笑いながら席に着く。

それに続いて他の2人も軽く苦笑いを浮かべながら席に座ってくれた。

私も席に着くとさっそくミーニャがお茶を淹れてくれる。


「この緑色のお茶は緑茶っていうんだが、なかなか美味いぞ」

と言ってジェイさんがお茶をひと口すすると、他の3人も興味深そうな感じでお茶に口をつけた。

「ほう。たしかに美味いな。紅茶より爽やかで飲みやすい」

とガルフさんが味の感想を述べる。

私はそのことにややほっとしながら、

「口に合ったようでよかった」

と言うと、自分もお茶をひと口飲み、

「事務的な書類は後で提出してもらえればいいから、まずはこの図面を見てくれ」

と言って、テーブルの上に広げた役場と薬院の計画図を指さした。

「ほう。これは領主様が自分で作ったのか?」

と聞いてくるドワイトさんに、

「ああ。そうだ。素人仕事だがな。あと、私のことはルークでいいぞ」

と答えて、視線を送る。

するとドワイトさんはその視線に軽くうなずいて、

「なるほど。確かに少し詰めが甘い所もあるが、良く出来たもんだ。これなら話が早えぇ」

と、にこやかな顔でそう言ってくれた。

「な。心配なかったろ?」

となぜかジェイさんがやや自慢げにそう言う。

私はそのジェイさんの言葉がおかしいやら照れくさいやらで、苦笑いを浮かべると、

「とにかく、この図面をたたき台にして意見をもらいたい。こちらの要望としては、将来のことも考えて頑丈に作るということくらいだ」

と言って再びドワイトさんに視線を送った。


「ああ。100年は持つやつを建ててやるからそれは心配ない。あとは細かい点だな。この役場はともかく、薬院で働くのはどのくらいの人数なんだ?」

と、さっそく具体的なことを聞いてくるドワイトさんに、

「ああ。そっちのことはベル先生…、うちに身を寄せてくれているエルフの先生に任せている。必要なら呼んでくるが?」

と聞き返す。

するとドワイトさんは少し考えたあと、

「いや。そっちは後日ゆっくりと打ち合わせさせてもらった方が良さそうだ。今日はまずはこの役場の要望ってやつを聞いていこう」

と言って、まずは役場の方の詳細を教えてくれと言ってきた。


そこからは役場についての要望を伝えていく。

将来何人かの人間が働くことを考えて広い事務作業場に給湯室や応接室、それに広めの書庫や大きな会議室を作って欲しいという要望を出した。

ドワイトさんたちはそれにうなずきながら時折メモを取り、図面を見つめる。

そして、今村にある材木の量や石材の状況を伝えると、

「材木は十分だ。ただ、レンガが少し心もとねぇ。レンガ焼きの窯を増設しても構わねぇか?」

と聞いてきた。

「もちろんだ」

と即答する。

すると今度はジェイさんが口を開いて、

「レンガ焼きの窯なら土魔法を使えばそんなに時間はかからねぇ。場所が空いてるならすぐに取り掛かるが、どうだ?」

と聞いてきた。

「そうだな…」

と答えて少し考える。

(さて、空き地ならいくらでもあるが、どこにしたものか…)

と思いつつ、領内の地図を持ってきて広げる。

そして、最近の開発がここクルス村に集中していることに気が付いた。

(これは他の村にも産業を広げた方が良さそうだな…)

と思い付き、

「すまん。ちょっと離れた所になるが隣のシーバ村に作ってもらってもいいか?この際だ。各村に施設を分散させて産業を興したい。シーバ村なら森も近いし、燃料の薪には事欠かないからうってつけだろう」

と言ってドワイトさんたちの方に目を向ける。

その言葉にドワイトさんは、軽くうなずいて、

「ああ。レンガ運び用の荷馬車を作るって手間が増えるが、そういう事ならうちは構わねぇ。なんなら焼き物の窯も一緒に作るか?来る途中ちらっと見た感じじゃいい感じの土もありそうだし、やってみる価値はありそうだぜ?」

と追加で焼き物の窯を作る事を提案してくれた。

「おお。それはありがたい。いい産業になりそうだ」

と二つ返事で了承する。

そうやって話はとんとん拍子に進んで行き、昼を迎える頃にはかなり具体的な所まで話が煮詰まっていった。


「長い事引き留めてしまったな。せめて昼を食って行ってくれ」

と言ってドワイトさんたちを昼食に誘う。

その日の昼食はなんて事もない普通のハンバーグ定食だったが、ドワイトさんたちは初めて食う米の味にかなり驚いていた。

「いやぁ、ここの飯は辺境にしちゃ美味いと聞いていたが、本当だったんだな…」

と感心するドワイトさんに、

「ああ。しかし、まだまだだ。味噌や醤油、ワインなんかの醸造が本格的に始まればこの領の飯はもっと美味くなる。そのためにも是非いろんなところで協力して欲しい」

と言って軽く頭を下げた。

そんな私に、

「おいおい。世話になるのはこっちだ。頭を上げてくれ」

とドワイトさんがなんだか照れくさそうにそう言ってくる。

私はそんなドワイトさんたちドワーフの飾らない性格を好ましく思いながら、微笑ましい気持ちで肉汁たっぷりの肉々しいハンバーグを大ぶりに切って思いっきり頬張った。


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