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第69話再びエルフがやってきた03

それから数日後。

そろそろ、綿花の収穫が始まるというので、手伝いに出る。

すると、そこにはアリアを始めとしたエルフの面々が全員作業着を着て揃っていた。

アリアの方に近づき、右手を差し出しながら、

「すまんな。手伝いに出てくれたのか?」

と少し申し訳ないような感じでそう聞く。

するとアリアは差し出された右手を軽く握り返してくれながら、

「ええ。この時をずっと待っていましたから」

と、いかにも楽しそうにそう答えてくれた。

その楽しそうな笑顔に、こちらも、

「ああ。待たせたな」

と笑顔で答えてさっそく私も手伝いに入る。

みんなでやる収穫作業は楽しく捗り、そろそろ昼かという頃にはかなりの量の綿花が収穫できた。


(もう2、3日あればほとんど収穫できそうだな…)

と、綿花畑を見つめながら額の汗を拭う。

すると、遠くの方から見慣れた馬車がこちらに向かって来るのが見えた。

(エリーか…)

と思いつつ作業の手を止めて畑を出ていく。

そんな私に気が付いたのか、馭者台で馬車を操っていたミーニャが、

「お昼をお持ちしましたよー!」

と手を振りながら、大きな声でそう呼びかけて来た。

「おう!すまんな!」

と、こちらも大きな声で呼びかける。

するとやがて、馬車は私の前で止まり、中から大きなバスケットを抱えたエリーとマーサが降りてきた。

「お弁当を作りましたの。スープの材料も持ってきましたから、すぐにお仕度いたしますわね」

というエリーに、

「ありがとう。助かるよ」

と微笑みかけて、大きなバスケットを受け取る。

そして、まだ畑の中で収穫作業に勤しんでいるみんなに、

「おーい。昼にしよう!」

と呼びかけると、みんながそれぞれにきりのいい所で手を止め、こちらに向かってやって来た。

そんな様子を見て、エリーが、

「うふふ。たくさん用意してきて正解でしたわ」

と嬉しそうに微笑む。

(ああ。この人は本当に料理が好きなんだな…)

と改めてそんなことを思った。

エリーが好きなことをやって辺境の生活を楽しんでいてくれる。

そのことが私には心から嬉しく思えた。


ミーニャとエリーが協力してスープを作り始める。

その間にマーサがあぜ道に敷物を敷き、お茶を淹れ始めた。

まずは腰を落ち着け緑茶で一服させてもらう。

みんなもそれぞれにやって来て、それぞれに休み始めた。

そうこうしているうちに、良い匂いが漂ってくる。

「さぁ、スープができましたよ」

と言ってエリーが楽しそうにみんなに声を掛けてきた。

「待ってました!」

と言って、エチカが一番にスープを受け取りに行く。

初めて会った時はかなり緊張していたようだが、本来はこういう元気な性格らしい。

私は、そのことをなんだか微笑ましく思いつつ、スープをもらう列に並んだ。

やがて、私の番が回って来て、出来立てのスープをもらう。

そのスープからは香辛料のいい香りがした。

(ほう。カレースープか)

と、どこかウキウキしながらその香りを堪能し、

「ありがとう。さっそくいただくよ」

とエリーに声を掛けて、またあぜ道に腰を下ろす。

「いただきます」

と言ってひと口すすったスープは程よく疲れた体に、じんわりと沁みていくような感じがした。

「むっ!これ美味しいです!」

とエチカの驚いたような声が聞こえる。

(ああ。そうか。みんなカレーは未体験だったな)

と思いつつ、エリーに、

「エリー。この収穫が終わったらみんなにカレーを振舞ってやろう」

と声を掛ける。

すると、エリーはパッと笑顔になって、

「あら。それは楽しそうですわね」

と心から嬉しそうにそう言ってくれた。

「ああ。バーベキュー大会の次はカレー大会だ」

と私も嬉しそうにそう答える。

すると、エチカが、

「カレーってなんですか?美味しいものですか?」

と興味津々な様子でそう質問してきた。

「ああ。我が領自慢の料理だ。このスープが気に入ったんならきっと気に入るぞ」

と答えて朗らかに笑う。

そこからは、カレーという言葉に沸き立つ村人とそれに興味を持っていろいろと質問するエルフという感じで話に花が咲いた。

その様子を見て私は、

(これは気合を入れてやらねばな)

と、密かに苦笑いをしつつ、その香辛料の効いたスープをまたひと口すすった。

秋の空に和やかな笑い声が響き渡る。

その日の収穫は午後も楽しく続き、みんな適度な疲労と笑顔を連れて夕暮れのあぜ道を帰っていった。


数日後。

バーベキュー大会をやった村の広場に鍋をいくつも設えてさっそくカレー大会の準備に入る。

私が火を熾したり、水を汲んだりしていると、そこへたくさんの領民たちが野菜や肉を手にやって来てくれた。

「うちで採れたニンジン使ってくだせえ」

とか、

「今朝、採れたての卵ですよ」

と言いながら、次々と材料を置いていってくれる。

その度に私は、

「ありがとう。今日はたっぷり作るから思う存分食って行ってくれ」

と笑顔で答えてその野菜や肉、卵を受け取った。


やがて、うちの女性陣が忙しく働き始める。

私も鍋の番をしたり、大量の野菜を運んだりして大いに手伝った。

会場には徐々に人が増えてくる。

そして、気が付くとそこはまるで祭りの会場のようになっていた。

(こんなことならちゃんと準備してたくさん料理を用意すればよかったな…)

と思いつつ、忙しく働く。

すると、そのうちジェイさんたちが酒樽を持ってきて、その場で宴会が始まった。

みんなの笑顔が弾けて笑い声が響き渡る。

私はその光景を嬉しく思いつつ、

「おーい。みんな。そろそろ出来上がるぞ!」

と声を掛けた。

「おおぉ!」

という歓声が沸き上がる。

そして、大人も子供も目を輝かせてカレーをもらうべく綺麗に列を作って並び始めた。

「ははは。たっぷり作ったからお替りもできるぞ」

と言いつつみんなにカレーを配る。

すると、そこかしこから、

「美味めぇ!」

とか、

「辛いけど美味しいね!」

というような喜びの声が上がった。

ワイワイという活気の中、次々にカレーを配っていく。

そこへ、

「へへっ。いい祭りになったじゃねぇか」

と言いつつジョッキを持ったジェイさんがやって来た。

「ああ。こんなことならもっとちゃんと準備すべきだったよ」

と苦笑いで答えて、ジェイさんにもカレーを渡す。

「ははは。じゃぁ来年はもっと派手にやろうぜ!」

と言いつつカレーを持ったジェイさんが宴席に戻っていくと、続いてシルフィーたち「旋風」やリリアーヌたち織物職人のみんながやってきた。

「へぇ。これがカレーってやつかい。…なんだか刺激的な匂いだね」

と言いつつ興味津々で鍋を覗き込むシルフィーに、

「ああ。我が領の名物だ。思う存分食ってくれ」

と言って、カレーを渡す。

そして、

「この間のスープと匂いは似てますけど、けっこうドロッとしてるんですねぇ」

と、どこかワクワクしたような笑顔でそう言うリリアーヌにもたっぷりとルーをかけたカレーを渡してやった。

その後も、バティスやエマにも手伝ってもらいながら次々とカレーを渡していく。

気が付けばその場は笑顔と歓声に包みこまれていた。

(ああ、私はこういう世界を望んでいたんだ…)

という感慨が込み上げてくる。

私はそんな感動に胸を熱くしながら、次から次にやって来る領民たちのためにカレーを配り続けた。


やがて鍋が空になる。

カレーを食い、酒が入った領民たちが地元の歌を歌い、ついには踊りの輪が出来た。

それをみんなワイワイと囃し立てて踊りの輪が大きくなっていく。

そんな幸せな光景を見ていると、私の所にカレーを持ったエリーとミーニャがやって来て、

「お疲れ様でした」

と声を掛けてきてくれた。

「ありがとう」

と言ってカレーを受け取り、ひと口頬張る。

子供もいるからだろうか?少し辛さを抑えた甘口のカレーが疲れた体によく沁みた。

「来年はもっとたくさん用意しませんとね」

と言ってエリーが笑う。

私はその発言を心の底から嬉しく思いつつ、

「ああ。そうだな。ついでにいろんな料理も用意してもっといい祭りにしよう」

と答えてエリーに微笑み返した。

「うふふ」

「ははは」

とお互いに笑いながらカレーを口に運ぶ。

いつの間にか出来た踊りの輪は会場全体に広がり、よく見ると、コユキとライカもその輪の中で村の子供達と楽しそうにはしゃぎまわっていた。

「子供達。かわいらしいですわね」

と言ってエリーが目を細める。

私も、

「ああ。無邪気なものだ」

と言って目を細めた。

(このまま健やかに育ってくれよ)

という思いが込み上げてくる。

エリーもきっとそう感じてくれたのだろう。

「このまま元気に育ってほしいですわね」

と言って私の方に視線を向けてきた。

「ああ。そのためにも仕事を頑張らんとな」

と、わざと肩をすくめながらそう言って苦笑いを浮かべる。

その苦笑いを見て、エリーが、

「うふふ。頑張ってくださいませ。ご領主様」

と言っておかしそうに笑った。

私も笑ってまたカレーをひと口食べる。

エリーも食べて、

「美味しいですね」

と微笑みながらそう言った。

幸せな空気が私たちを包み込んでいく。

私はその空気を感じて、

(ああ、こういう時間がずっと続けばいい…)

と心の底からそう願った。


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