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第66話SSバーベキュー大会

オークロード討伐から帰って来て5日が経つ。

私の生活もすっかり日常に戻り、その日も書類仕事に追われていると、屋敷にエバンスがやって来た。

「失礼します。森の様子をご報告にまいりました」

というエバンスにソファを勧め、私も席に着く。

エバンス曰く、オークの組織だった行動は見られなくなり、通常の状態に戻っているのだそうだ。

そのことを嬉しく思いつつ、これからの警備計画なんかの話に移った。


「やはり、警戒の目は緩めるべきではないでしょうな」

というエバンスの言葉にうなずき、

「これまで、良くも悪くも魔獣という存在に慣れきってしまっていた。これは気を引き締めるいい機会なのかもしれない」

と言葉を添える。

その言葉にエバンスも同感といった感じでうなずき、地図を広げてこれから簡易の防衛拠点を築く箇所なんかを説明してくれた。

そんな仕事の話も一段落し、お茶を飲む。

「最近の衛兵隊の様子はどうだ?」

というような漠然とした質問を投げかけてみると、

「特段申し上げるような変化は見受けられません。むしろ今回の件で士気は高まっているかと」

という、頼もしい返事が返ってきた。

「そうか。それはよかった。今回の件は大変だっただろうからそのうちみんなを労ってやらんとな」

と何となく思いつく。

するとエバンスから、

「それはようございますな。隊員のさらなる士気向上になるかと存じます」

と、やや期待のこもった眼差しでそう返事が返ってきた。

その言葉をやや苦笑いで受け止めつつ、

「そうだな。じゃぁ、近いうちにバーベキューでもしよう。酒も振舞うから日程の調整を頼む」

と答えて、その日の会談は終了した。


その日の夕食の席でさっそくその話をみんなにする。

すると、意外にもエリーから、

「まぁ、それは楽しそうですわね」

という積極的な返事が返って来た。

ベル先生も乗り気なようすで、

「ははは。じゃぁ、ここはひとつ気合を入れて豪勢なやつを開催してはどうじゃ?たぶんジェイたちが乗り気で準備をしよるぞ?」

と私に期待の目を向けてくる。

そんな視線を受けて、他の面々の表情を見てみると、それぞれの顔にも楽しみにしているような笑顔が浮かんでいた。

その表情を見て、

「そうだな。よし。今回はひとつ豪勢にいこう。明日にでもジェイさんたちに話を持っていくからみんなもそれぞれ準備に取り掛かってくれ」

と、みんなに笑顔で指示を出す。

すると、みんなから、

「おう!」

とか、

「はい!」

「きゃん!」

というような返事が返ってきて、今回のバーベキュー大会はかなりの規模で行われることが決定した。


それから、なんだかんだと慌ただしい日々が始まる。

私はジェイさんたちと協力して現地の設営に奔走し、エリーたちは当日出す料理の検討や食材の準備を始めてくれた。


数日後。

出来上がったバーベキュー会場を見て、

「なんだか予想以上に立派なものが出来上がったな…」

という正直な感想を漏らす。

私としては、空き地に焼き台を何台か置く程度の物を想像していたが、ジェイさんたちの協力で土魔法まで使ったので、割と大きな焼き台4つに加えて流し付きの調理場まで出来上がってしまった。

「本当は雨が降っても大丈夫なように東屋のひとつも建てたかったんだが、まぁそれは来年以降でいいだろう」

と少し悔しそうに言うジェイさんに、

「来年?」

と、少し驚いて聞き返す。

その問いかけに、

「ん?ああ。幸い空き地に余裕はありそうだからな。もう何台か焼き台を置いて、ちょっとした祭りにも使えるようにしちゃどうだ?きっとみんな喜ぶぞ?」

と言うジェイさんの提案を聞いて、

(なるほど。福利厚生ってやつか)

と思わず納得しつつ、まだまだ余裕がありそうな空き地の様子を眺めた。

「そうだな。ここなら村の中心からも近いし、お祭り会場にはもってこいだろう。時間のある時にでも建設計画をまとめてくれ。すぐに許可をだそう」

とジェイさんに話を向ける。

すると、ジェイさんは、ニカッと笑って、

「おう。ついでに屋台やら休憩所やらもついた立派なお祭り会場にしてやるよ。楽しみに待ってな」

と胸を叩きつつ、自信たっぷりにそう言ってきた。

「ほどほどに頼むぞ」

と苦笑いで答えつつも、

(なんだか楽しいことになりそうだな)

と心の中で期待が膨らんでくる。

私はつい嬉しくなって、笑顔でジェイさんと硬い握手を交わすと、ウキウキとした気持ちで屋敷へと戻っていった。


そして、やって来たバーベキューの当日。

さっそく朝から材料なんかを荷馬車に積み込み会場へと向かう。

私とバティスが先着し、荷馬車から荷物を下ろしていると、そこへコユキを抱いたエリーとマーサ、それにバスケットを抱えたミーニャやエマがやって来た。

「バルガス様は衛兵隊のみなさんを連れて後から来るそうですわ」

とエマが伝えてくれたのにうなずいて、さっそくみんなで準備にかかる。

私とバティス、それにミーニャは力仕事、エリー、エマ、マーサたち3人は料理の準備といった具合に役割を分担してテキパキと準備を進めていった。

やがて、日が中天に差し掛かった頃。

「おう。うちにある一番いい酒を持って来たぜ」

と言って酒樽を担いだジェイさんたちがやって来た。

「おう。すまんな。もうすぐ準備は整う。衛兵隊のみんなが来たらさっそく始めるから少し待っていてくれ」

と言いつつ、急いで準備を進める。

そんな様子を見て、アインさんやノバエフさんも手伝いに入ってくれたので、父が、

「おう。待たせたな」

と言って、衛兵隊のみんなを連れてきてくれた頃にはすっかりと準備が整っていた。


「ちょうど今準備が終わったところです。早速ですが、みんな揃っているようなら始めてしまいましょう」

と父に言って、料理班に、

「おーい。さっそくだが、料理を運んできてくれ」

と声を掛ける。

すると、調理場の方から、

「はーい」

というエリーの楽しそうな声が返ってきて、続々と肉や野菜が運ばれてきた。

「あ。手伝うっす」

と言ってハンスが調理場の方へ向かう。

すると、衛兵隊のみんなもそれに続いて動き、酒樽や食器類なんかの重たい物を次々と焼き台の側に持ってきてくれた。


「みんなありがとう。じゃぁ、まずエールを注ぐから回してくれ。全員に行き渡ったら乾杯だ」

と声を掛け、酒樽からどんどん酒を注いでいく。

そして、全員に行き渡ったのを確認すると、なんとなくみんなの前に出て、

「こほん。あー。今回の討伐、お疲れ様だったな。みんなの頑張りのおかげでこの領の平和が守られた。今日は肉も野菜もたんまり用意してある。他にもたくさん料理があるようだから、みんな思いっきり楽しんでくれ」

と挨拶をしてみんなを見る。

みんな、それぞれに晴れやかな表情を浮かべていた。

そんな表情に明るい未来という名の希望を感じつつ、

「よし。じゃぁ、この領の平和に乾杯!」

と言って思いっきりジョッキを掲げる。

その声に続いて、

「乾杯!」

という大きな声が一斉に響き渡ると、楽しいバーベキュー大会が始まった。


「あ!その肉、俺が狙ってたんすよ?」

と言うハンスに、私が、

「ははは。まだまだたんまり用意してあるんだから、焦らずゆっくり食え」

と笑いながら返す。

そんな会話の隣では、コユキが、

「きゃん!」(お肉お替り!)

と言ってエリーに肉のお替りをおねだりしていた。

「はいはい。今取ってあげますからね」

と微笑みながら、エリーが楽しそうに肉を取り分ける横で、ジェイさんが、

「はっはっは。やっぱり昼間っから飲む酒は格別だなぁ」

とご機嫌な声を上げる。

それにアインさんが、

「ええ、間違いねぇでさぁ!」

と言ってジョッキを大きく傾けると、そのまた横でベル先生が、

「お。そっちの腸詰をパンに挟んでもらえるか?ああ、ケチャップもカラシもたっぷりで頼むぞ」

とミーニャにホットドッグの注文を出した。

「はい。かしこまりました!」

というミーニャの明るい声が響き、ワイワイ、ガヤガヤと宴会が続く。

私はその光景を見て、

(こんな贅沢な時間を領民全員が享受できるようにしなければならんな…)

と、ひとり考えつつ、微笑みながらエールを飲み肉を頬張った。

「うふふ。楽しいですわね」

とエリーが声を掛けてくる。

私はそれに、

「ああ。楽しいな」

と満面の笑みで答えると、エリーと一緒になって、

「うふふ」

「あはは」

と笑い合った。

みんなの楽しげな声が秋めいてきた空に響き渡る。

私は再び胸の中でその声に感動を覚えつつ、みんなと一緒においしく肉を頬張った。


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