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第64話森の異変06

私たちの突進にオークたちが反応する。

なにやら怒りもあらわに、

「ブモォ!」

と雄叫びをあげていたが、必要以上の恐怖は感じなかった。

(一度遭遇して慣れてるのもあるだろうが、やはりみんながいると思うと心強いな)

と、冷静に今の状況を分析しつつ、ベル先生を守れるような位置を取り、走る。

前線ではジェイさんたちがさっそくオークたちを倒し始めていた。

ジェイさんのハルバードが信じられないほどの速度で振られ、その度にオークが倒れていく。

アインさんとノバエフさんも上手く連携しながら、次々に襲い掛かって来るオークたちを確実に止めていた。

(さすがだな)

とジェイさんの剛腕やアインさん、ノバエフさんの連携を見て思わず感心してしまう。

するとそこに、

「ルーク様!」

というミーニャの声が掛かった。

ややハッとしつつ、

「おう!」

と答えてこちらに向かってくるオークに突っ込んで行く。

なにやらこん棒のようなものを振り回し、叫びながら襲い掛かってくるオークのでたらめな攻撃をかわし、まずはそのこん棒を持っている腕を肘の下あたりから一刀両断した。

オークが痛みに喚く。

その隙を突いて私はさらに踏み込み、胴を一閃した。

(よし!)

と手応えを感じつつも、素早く動いてミーニャのもとに向かう。

そして、ミーニャが牽制しつつ手傷を負わせている1匹のオークに向かって背後から風の魔法を放った。

背中をざっくりと割られオークが倒れる。

その様子を見つつ私は、

「次!」

と叫んで再びミーニャとともに、次の目標へ向かって走り始めた。


やがてベル先生が足を止め、何やら集中した様子で杖を構える。

私とミーニャも足を止め、ベル先生を守れる位置についた。

前線で激しく動き回るジェイさんたちの動きをよく観察しつつ、漏れてくるオークに備える。

すると、オークの巣があると予想していた洞穴から、続々とオークたちが姿を現し始めた。

(あんなにいるのか…)

と驚き、一瞬、ためらいのような気持ちが生まれる。

しかし私は、そこで軽く頭を横に振ると、

(おいおい。怖気づいたのか?)

と自分を嘲笑するような言葉を心の中でつぶやき、気を引き締めなおした。


「ルーク様!」

「おう!」

と短く言葉を交わし、前に出る。

そして、ジェイさんたちの脇をすり抜けてこちらに迫って来ようとするオークたちを食い止めに掛かった。

鋭い剣でミーニャが隙を作り、私が仕留めるという役割分担でまたオークを倒す。

すると、次の瞬間私たちの後から、

「いくぞ!」

というベル先生の声が掛かった。

「おう!」

と答えてベル先生の方へ駆け出す。

前線にいたジェイさんたちも一斉に射線から外れるようにいったん戦線を離脱していった。

次の瞬間、私にもわかるほどの濃密な魔法の気配が辺りを支配する。

そして、その魔法の気配は青白い光を放つ無数の矢に変わり、一気に解き放たれた。

扇状に広がる矢の大群が次々とオークを倒していく。

その矢は例の洞穴の中にも無数に撃ち込まれていった。

洞穴の中から、

「ブモォ!」

という醜い声が響いてくる。

私はその声を、

(おいおい…)

という言葉にならない言葉を心の中でつぶやきながら聞いた。

「おっしゃ!」

とアインさんが気合のこもった声を上げる。

その声にハッとして辺りを見回すと、あれほどいたはずのオークが1匹残らず倒れていた。

「トドメは後だ!」

とジェイさんが叫んで例の洞穴のほうに目をやる。

すると、洞穴の中から、

「ブモォ!!」

とひと際大きな声が聞こえてきた。

(デカい)

と直感的に思う。

それほど、洞穴の中から漂ってくる怒気を含んだ気配は大きなものだった。

「ロードのお出ましじゃ」

とベル先生がつぶやく。

そのつぶやきを聞いて、私たちは再びベル先生を守れるような位置を取り直した。

洞窟の中からロードが姿を現すのを気合を入れて待ち構える。

すると、しばらくしてドシドシと音を立てながら、やたらと大きな影が洞穴の中から姿を現した。

(デカいな…)

と、その4、5メートルはあろうかという巨体を驚きを持って眺める。

私たちの前に姿を現したオークロードは目を血走らせ、明らかに怒った様子で、

「ブモォ!!」

と、また雄叫びをあげた。

「やかましいわ!」

と叫びつつ、ジェイさんが迷わず突っ込んで行く。

それを援護するかのようにベル先生が素早く矢を放った。

私はその素早い行動を見て、一瞬呆気にとられながらも、

「ミーニャはベル先生を!」

と叫び、ジェイさんの後に続きオークロードへと突っ込んで行く。

そして突っ込みつつ前線の様子を窺うと、私の前方でジェイさんがオークロードの振り回す丸太を鮮やかな対捌きで軽々とかわしていた。

ジェイさんは動きつつ時折踏み込んではハルバードを振っている。

私はジェイさんが作ってくれた隙を突いて、オークロードの足元に刀を叩き込んだ。

(なっ…。硬い…)

という感想を持ちつつ、慌てて退く。

すると、先ほどまで私がいた辺りをオークロードが猛烈な勢いで踏みつけた。

(食らったらひとたまりもないな…)

と若干の恐怖心を覚えつつ、再び突撃できる態勢を取る。

今度はジェイさんが踏み込んで同じく足元を一閃した。

パッとドス黒い血が飛んでオークロードが明らかに痛そうな悲鳴を上げる。

そこへまたベル先生の矢が飛んできた。

矢はオークロードの肩の辺りに深々と突き刺さる。

またオークロードが無様に悲鳴を上げた。

その隙にアインさんとノバエフさんが突っ込んでいく。

オークロードはまたデタラメに丸太を振り回しその突進を防ごうとした。

「むんっ!」

と気合のこもった唸り声をあげて、ノバエフさんがその丸太を受け止める。

すると、その影からアインさんが飛び出して、ジェイさんと同じくオークロードの足元を斬り払った。

ジェイさんもまた懐に飛び込んで行き、同じようなところを斬りつける。

またオークロードが痛みに声を上げ、さらにデタラメに丸太を振り回してきた。

ジェイさんとアインさんが、いったん退き今度は私が突っ込んでいく。

私の後からものすごい速さで矢が飛んでいった。

矢がオークロードの顔に命中し、隙が出来る。

私はその隙を逃すことなく、オークロードに接近すると、ジェイさんたちが散々傷をつけてくれたヤツの足に向かって魔法を込めた渾身の一撃を放った。

スッと刀が滑るような感覚があって、オークロードの足が両断される。

私はその手応えを感じつつも急いでその場から退いた。

「ブモォォッ!」

とひと際大きな叫び声を上げつつオークロードが倒れていく。

私にはその様子がまるでスローモーションのように見えた。

やがて、ドシンと音を立てオークロードが地面に突っ伏す。

そこへジェイさんとアインさんがすかさず飛びかかり、首筋の辺りを狙ってそれぞれに得物を振り下ろした。

私も駆けて行き、オークロードの背中に飛び乗る。

そして、思いっきり魔力を込めた刀をオークロードの心臓めがけて突き刺すと、その体がビクンと動いて、それ以降動きを止めた。

「はぁ…はぁ…」

と息を切らしつつ、戦いが終わったことを覚る。

そこへ、

「雑魚にトドメを刺して回るぞ!」

というジェイさんの声が響いた。

私はハッとして、オークロードの背中から飛び降り、辺りを見回す。

すると、ジェイさんの言う通り、まだ何匹かのオークが苦しみに身悶えつつ、その体を動かしていた。

いったん緩んだ気を再度練り直して、素早く動く。

そして、何匹かのオークにトドメを刺すと、慎重に辺りを見回した。


「こっちは終わったぞ!」

というジェイさんの声に振り返る。

すると、別の方角から、

「こっちも終わったぜ!」

というアインさんの声が聞こえてきた。


私も、

「ああ。こっちも終わりだ!」

と大きな声でそう答えつつ、みんなの方へ向かう。

そして、みんなとそれぞれに手を叩き合い、お互いの健闘を無言で称え合うと、私はそこでようやく張り詰めていた気を緩めた。


とりあえず、馬たちを迎えに行く。

すると、ライカが、

「ひひん!」

と鳴きながら真っ先に飛び出してきて、私の頬ずりをしてきた。

「待たせたな。みんなの面倒を見てくれてありがとう」

と言いつつ、ライカを撫でてやる。

みんなもそれぞれに自分たちの馬のもとに向かって撫でてやっていると、私の足元にコユキがトテトテと駆け寄ってきて、

「きゃん!」(おかえり!)

と言いつつ、私の足に頭を擦り付けてきた。

「ああ。ただいま。ちゃんとお留守番出来たか?」

と微笑んで言いつつコユキを抱き上げてやる。

そんな私の腕の中でコユキは、

「きゃん!」(ちゃんと出来たもん!)

と、やや抗議するような感じでそう言ってきた。

「ははは。そうか、そうか。偉かったな」

と言いつつコユキのことも撫でてやる。

私の腕の中で気持ちよさそうに目を細めるコユキを見ていると、先ほど緩んだ気がさらに緩んだような気がした。

「とりあえず、お茶にしましょう」

というミーニャの提案を受けて、みんながその場に座り込む。

「とりあえず、一段落じゃな」

というベル先生のほっとしたような言葉に、ジェイさんが、

「ああ。とりあえずはな」

と苦笑いでそう言ってうなずいて見せた。

「ははは。とっとと残党狩りを済ませて帰ったら酒盛りにしやしょうぜ」

とアインさんが呑気にそう言い、

「おいおい。無事帰り着くまで気を緩めるなよ」

とジェイさんがツッコミを入れる。

そんなやり取りに一同が笑って、その場は和やかな空気に包まれた。

やがてミーニャが淹れてくれた緑茶をひと口すする。

私はその爽やかな苦みにほっとしながら、

「ふぅ…」

と、ひとつ息を吐いた。


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