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第63話森の異変05

「ちっ。親分のお出ましだとよ」

とジェイさんが吐き捨てるようにそう言う。

私は一瞬意味が分からなかったが、ベル先生が、

「ロードが出てくるみたいじゃな」

と言ってくれたおかげで何とか状況を理解することが出来た。

(なるほど。これがロード付きの群れの特徴なのか…。本当に統率がとれているな…)

と妙なところに感心しつつ、さらに気を引き締める。

そうやってお互いに睨み合う事しばし。

再び私たちの周りの空気がざわめき、茂みの奥から、より大きな狼が姿を現した。

(さらにデカいな…)

と思いつつも、

(フェンリルの半分くらいか?)

とどこか余裕でその姿を見つめる。

「ガルル…」

とその大きな狼が怒りを露にこちらを威嚇してきた。

当然、こちらはそれにひるまず武器を構えなおす。

するとその大きな狼、ロードは耳をつんざくような大声で、

「ワオーン!」

と鳴き、周りにいた部下に攻撃の合図を出した。

一気に飛び掛かってくる狼たちをジェイさんが叩き斬り、ノバエフさんとアインさんが食い止める。

ベル先生の矢も一気に何本も飛んだ。

私もやや前に出て、漏れてきたヤツを討つ。

後ではどうやらミーニャがさらに漏れたのの相手をしてくれているようだ。

(後ろは大丈夫そうだな…)

と思いつつ、思い切って前に出る。

すると、そんな私を快く思わなかったのか、ロードがより一層怒りの表情を濃くし、

「ガオォ!」

と唸りながら私の方に飛びかかって来た。

(しめた)

と心の中で思いつつ、素早く身を屈めまずはその足を横なぎに斬る。

すると、

「ギャン!」

という意外と弱々しい声が響き、ロードが地面につんのめった。

私はそのままトドメを刺そうかと思ったが、そこへ、

「任せろ!」

というベル先生の声が掛かる。

私は一瞬で動き止めてその後の成り行きを見守ることにした。

おそらく魔法を乗せたであろう矢がロードの眉間に突き刺さる。

その瞬間ロードは一度ビクンと体を痙攣させたあと、すぐに動かなくなってしまった。

その様子を確認して、周りに目をやる。

すると、アインさんが1匹の狼を斬ったところで、辺りに動いている狼の姿は見えなくなっていた。


「よっしゃ。終わったぜ」

とアインさんが声を掛けてくる。

それに私は、

「お疲れさん」

と、あえて軽く返事を返した。

方々からみんなが集まって来て、自然と輪が出来る。

そして、みんな笑顔で掲げた手をパチンと叩き合うと、この冒険最初の戦闘が終わった。


「さて。解体だな…」

とジェイさんがわざとらしく腰を叩きつつ、そう声を掛けてくる。

「何匹いたんでしょうねぇ」

とアインさんがどこか嬉しそうな苦笑いを浮かべながらそう言った。

「じゃぁ、私はその間に朝食の準備をしておきますね」

と言って、ミーニャがさっそく準備に取り掛かる。

私も腰から解体用のナイフを取り出すと、

「すまんが、解体は素人だ。やり方を教えてくれ」

と苦笑いで言いつつ、さっそくみんなに続いて狼たちを一か所に集め始めた。


しばらく解体の作業に勤しむ。

結局、狼ことグレートウルフの群れは30ほどいたようだった。

「けっこうな群れだったのう」

とベル先生がその可愛らしい見た目に反して、いかにも年寄りくさく腰の辺りを軽く叩きながらそう言う。

「お疲れ様だったな」

と私が苦笑いで声を掛けると、

「なに。たまにはこのくらい運動せんとなぁ」

と、またなんとも年寄りじみたセリフを吐いた。


「ふっ。すっかり老け込んじまったみてぇじゃねぇか」

と言ってジェイさんが笑う。

それにベル先生が、

「ふん。お前ほどじゃないわい」

と、こちらも笑顔でそう返した。

そんな会話をしているうちにノバエフさんが狼を灰にして解体が終わる。

本来なら毛皮を剥ぎ取って持って帰るところなのだそうだが、さすがに今回は魔石だけにとどめておいた。

そこへ、

「スープができましたよ!」

というミーニャの声が掛かる。

その声に、私が、

「ああ。ありがとう。こっちも終わったぞ」

と返すと、私たちはさっそく朝食を食べにミーニャのもとに向かった。


少し遅めの朝食をとって、さっそく出発する。

戦闘の興奮があったからだろうか、体は疲れていたが、気持ちはしゃきっとしていて、いつもより体が軽く感じられた。

そんな軽快な調子で森の中を進んで行く。

私はどこか嬉しそうに歩くライカの背に揺られながら、

(さて。次はいよいよ本命との対面になるんだろうか…)

と、なんとなく次の戦いを予測しながら、密かに気を引き締めなおした。


時折ライカが魔獣の気配を感じながらも、上手く避けて進んで行く。

(本当に助かるな)

と思いつつ、ライカを撫でてやると、

「ぶるる…」

とライカが少し照れたような鳴き声をあげた。


そんな緊張感の中にもどこかほのぼのとした雰囲気を漂わせながら順調に歩を進めていく。

すると、そろそろ夕方が近いだろうかという所で、ライカが、

「ぶるる!」(いっぱいいるよ!)

と敵の存在が近いことを教えてくれた。

その声にみんながいったん足を止めて地図を確認する。

「どっちにどのくらいの距離かわかるか?」

という私の言葉にライカが、

「…ぶるる」(…あっちだよ。今からいくと暗くなっちゃうくらいかな?)

と言って、おおよその距離を示してくれた。

その言葉を聞いて、ジェイさんに視線を向ける。

すると、ジェイさんがうなずいて、

「夜戦は避けたい。明日の暗いうちに出発して、朝、仕掛けよう」

と提案してくれた。

その作戦に私を含めたみんながうなずく。

そして、その日は相手に気取られないだろう所まで進んで、早めに野営の準備に取り掛かることにした。


緊張感漂う夜を過ごし、東の空が紫色を帯びてきた頃。

本命のオークロードがいるであろう方向を目指して進んでいく。

途中、先頭を行っていたアインさんがオークの痕跡を見つけてからは、その痕跡を追うようにして慎重に歩を進めていった。

やがて空が白み始める。

朝靄の中を静かに進んでいると、ライカが、

「ぶるる…」(いっぱいいる…)

と小さな声でそう言った。

「ああ。らしいな」

と痕跡を隣にいたベル先生がそうつぶやく。

私は、

(なるほど。慣れた人間ならこの程度の空気の違いで敵の位置を察知できるのか…)

と感心しながらも、

(いよいよか…)

と思って密かに気合を入れた。


やがて先頭をいっていたアインさんが立ち止まる。

「いやがったぜ」

と言ってアインさんが茂みの陰からそっと奥を覗く。

私もそこにそっと近づいて覗き込んでみると、そこには開けた窪地があって、何匹かのオークがたむろしているのが見えた。


(意外と少ないな)

という感想を抱く。

すると、私同様茂みの陰からそっとその窪地を観察していたベル先生が、

「あの洞穴が巣じゃな」

と、まるで私に教えてくれるかのような感じでそう言った。

(なるほど。巣を作るのか…)

と思いつつその洞穴を見る。

良く見ると、その洞穴の前には門番宜しく警護するオークの姿があった。

(ここまで統率が取れているのか…)

と妙なところに感心しつつその様子を観察する。

後ろから、

「どうする?」

とジェイさんが声を掛けてくる。

その声にはベル先生が、

「一気に突っ込んで正面突破でよいじゃろう。上手く露払いを頼む。初手であの洞穴に大きめの魔法をぶち込む」

と、力強い感じではっきりと答えた。

ジェイさんがそれにうなずき、

「おう。わかった。前衛は俺らが突っ込む。ルークとミーニャの嬢ちゃんは漏れたのに対応しつつベルをしっかり守ってやってくれ」

と私とミーニャに指示を出してくる。

私はジェイさんの目をしっかりと見据えて、

「わかった」

とだけ答えると、今度はミーニャの方に視線を送った。

ミーニャが力強くうなずく。

それを見てジェイさんは、

「よし。ライカの嬢ちゃん、馬たちのことは任せたぜ」

と最後に少し微笑みながらライカにそう声を掛けると、ライカがやや重々しい感じで、

「ぶるる」

と気合のこもった返事をした。

それぞれが軽く装備の点検をしてジェイさんの方に視線を送る。

その視線を受けてジェイさんは、ニカッと笑うと、

「よし。いっちょ派手にやらかすか!」

と冗談めかしていい、先頭を切ってオークがたむろしている窪地の方へと進み始めた。

慎重に、気配を消しながらある程度進み、良い感じの茂みでお互いが目を合わせ呼吸を整える。

そして、ジェイさんが全員に向かって重々しくうなずくと、

「よし。突っ込むぞ!」

と言ってアインさん、ノバエフさんとともに駆け出していった。

「よし。続くのじゃ!」

というベル先生の声を受けて私たちもその後を追う。

そして、いよいよ戦闘の火蓋が切って落とされた。


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