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第60話森の異変02

作戦会議の結果。

「衛兵隊は各村の防御に専念した方がよい。群れから漏れてくるやつらの掃討も必要じゃからな」

というベル先生の言葉と、

「ああ。オークロードは意外としぶといし、物理的な攻撃にやたらと強い。ここは魔法が使える人間が遊撃に当たった方がいいだろう」

というジェイさんの言葉を受け、遊撃隊は私とミーニャ、ベル先生、それにジェイさん、アインさん、ノバエフさんの6人で組むことになった。

「悔しい気持ちもありますが、致し方ありませんな…」

とエバンスが少し苦々しい表情でそう言う。

その言葉には父が、

「衛兵隊の任務は村の防衛だ。それをしっかりこなすことに集中してくれ」

と、やや慰めるような言葉を掛けた。

私も、

「今は自分にできることを懸命にやろう」

と声を掛ける。

その言葉にエバンスは、

「かしこまりました。全力で事に当たります」

と力強くうなずいてくれた。

そんなエバンスと握手を交わして、いったんその場は解散する。

そして私はいったん自室に戻ると、さっそくフェンリルに相談に行くべく準備を整え始めた。


翌日の早朝。

まだ半分寝ているコユキを抱っこ紐に入れて玄関を出る。

そして、

「ひひん!」

と鳴いてやる気を見せてくれているライカに、

「昨日もお願いしたように、今回は急ぎだが、無理のない範囲でいいからな」

と、やや宥めるようにそう声を掛けると、

「じゃぁ、留守中のことは頼んだぞ」

と出迎えに出て来てくれたミーニャやバティスに声を掛けさっそくフェンリルのもとへと出発した。


いつもよりかなり速足で進んでくれるライカを心配しつつも、順調に進んで行く。

ライカはさすがユニコーンとあって森の中も苦にせず速足でずんずんと進んでいってくれた。

(すごいな…。こんなに速く進めるのか…)

と感心しつつ、その背に揺られる。

そして、いつもより圧倒的に早く1日と少しでいつもフェンリルと会っている例の滝がある場所に到着した。

「ありがとう。すごかったぞ」

と言って、ライカを褒めてやる。

するとライカは、少し照れくさそうに、

「ぶるる…」

とはにかむように鳴いてみせた。


そして、いつものように、

「待っていましたよ、ルーク」

と後ろから突然声を掛けられる。

その声に振り向き、

「急にすまん。事態は何となく把握していると思ってもいいのか?」

と端的に質問してみた。

「ええ。なんとなく遠くから嫌なにおいがし始めたと思っていたところだったわ。そちらはどう思っているの?」

というフェンリルに、

「ああ。どうやらオークロードの可能性があるらしい」

と伝える。

すると、フェンリルは明らかに苦々しい顔をして、

「…厄介なのが出たわね」

とひと言つぶやいた。


「ああ。そうらしいな」

と言って苦笑いを浮かべつつも、

「当然だが、まずはこちらで対応する。しかし、万が一という場合もあるだろう。その時は頼んでもいいか?」

と聞き、フェンリルに真剣な目を向ける。

するとフェンリルも真剣な目を私に向け、

「ええ。もちろんよ。私の縄張りの周りでうろちょろしているのは適当に片付けておくから、あなたたちはオークたちに集中しなさい」

と言ってくれた。

「ありがたい」

と言って頭を下げる。

そんな私にフェンリルは、

「いいのよ。基本的に人間の営みには極力手を出さないようにしているけど、今回は事が事だから多少は手伝うわ。…気を付けるのよ」

と、いかにも慈愛に満ちた目を向けてそう言ってくれた。


その後、いつものようにコユキを遊ばせながら、フェンリルと少し話をする。

最近、発展しつつある領内の様子を話すと、フェンリルは本当に嬉しそうな顔をしてくれた。

「これからも、頑張りなさい。魔法の修行も毎日やるのよ」

とまるで母親のような言葉を掛けてくる。

そんなフェンリルの言葉に私は苦笑いを浮かべつつも、

「ああ。もちろんだ」

と答えて、久しぶりに会った母に甘えるコユキを微笑ましく眺めた。


やがて、昼食をとり、フェンリルが去ると私たちもさっそく屋敷へと戻っていく。

行きと同じく速足で進むライカの背に揺られながら、私は、

(なんとしても守らなければな…)

と改めて強くそう決意した。


翌日の昼過ぎ。

屋敷に戻り、留守中の様子を聞く。

父やエバンスが中心になり、各村の防御態勢は着々と整っていると言う事だった。

そのことに安心しつつ、さっそくベル先生を訪ねる。

そして、今後の詳細を打ち合わせ、その日はいつもより少し緊張しながら眠りに就いた。


さらに翌日。

今回の遊撃に参加する全員を集めて詰めの協議を行う。

その席で、ジェイさんが、

「たぶんだが、ロードの周りにゃ30以上の護衛が付いてるぜ。昔遭遇した時もそんな感じだった」

と言い、ベル先生もその言葉にうなずきつつ、

「露払いがけっこう大変になるじゃろうな」

と言った。


「そんなにか…」

と一瞬暗い気持ちになる。

しかし、そこは気を取り直して、

「その露払い。頼んでいいのか?」

と、アインさんやノバエフさんの方に視線を向けた。

「おうよ。任せときな」

とアインさんが力強く答え、ノバエフさんもコクリとうなずく。

私はその頼もしい言葉と視線に、

「ありがとう」

と言うと、素直に頭を下げた。

「おいおい。照れちまうじゃねぇか」

とアインさんが冗談めかして言い、ノバエフさんも照れくさそうに頭を掻く。

そんな私たちのやり取りの横から、ベル先生が、

「後衛は任せてもらってよいぞ」

と胸を軽く叩きながらそう言い、ジェイさんも、

「はっはっは。久しぶりにいっちょ大暴れしてやろうじゃねぇか」

と豪快に笑いながら頼もしいことを言ってくれた。

その場になんとも言えない明るい空気が流れる。

私はその空気を感じて、軽く笑みを浮かべると、

「そうだな。みんなよろしく頼む」

と言って、再び軽く頭を下げた。


その後、作戦開始の日程を明後日と定め、各自準備に取り掛かる。

私は、自室に戻ると、刀を抜き、その刀身をぼんやりと見つめた。

(この刀にみんなの未来が掛かっているんだな…)

と思うと自然と気が引き締まる。

そうやって決意を新たにする私の足元にコユキがすり寄ってきて、

「くぅん…」

と甘えたような心配しているような、どちらともとれる鳴き声をあげた。

ゆっくりと刀を鞘に納め、

「大丈夫だ。みんなちゃんと守るからな」

と言ってコユキを優しく撫でてやる。

その声に安心したのか、コユキはまた、

「くぅん…」

と鳴いて私に頭を擦り付けてきた。


翌日は一日準備に費やす。

ミーニャは食料、私は装備関係の準備やベル先生たちとの打ち合わせをして準備を万端に整えた。


その日の夕食。

「詳しいことは存じませんが、大変危険なことになっていると伺いました…」

と、エリーが心配そうに声を掛けてくる。

そんなエリーに私は、

「なに。大丈夫だ。みんなついていてくれるしな」

と、あえて軽い口調で明るく答えてみせた。

「はい。信じてお帰りをお待ちしておりますわ」

とエリーも明るく答えてくれるが、その表情はどこか心配そうに見える。

私はそんなエリーに、もう一度、

「大丈夫だ。さっさと片づけて帰ってくるから、安心して待っていてくれ」

と今度はやや力強い言葉で安心してくれるようにと言った。

それでも心配そうなエリーに、今度はベル先生が、

「なに。私もついておるんじゃ、心配はいらんぞ」

と声を掛け宥める。

その言葉を受けて、エリーは、

「ええ。そうですわね。私ったら、余計な心配をしてしまいましたわ」

と少し作ったような笑顔でそう答えてくれた。


(魔獣なんて無縁の場所で生活してきたんだ。心配するのも無理はないな…)

と思いつつ、夕食の鹿肉のステーキを口に運ぶ。

エリーもまだどこか不安そうな表情をしながらも、小さなひと口で同じくステーキを口に運んだ。

その姿を見てなぜか、

(是が非でも無事に帰って来なければな…)

という思いが強くなる。

私はそんな自分の気持ちを不思議に思いつつ、

「きゃん!」(お替り!)

と元気な声を上げるコユキに、自分の皿からステーキを一切れ分けてやった。


その晩。

部屋で一人になり、ほんの少し、気付けのつもりで酒を飲む。

ちびりとひと口やり、

「ふぅ…」

と息を吐くと、知らず知らずのうちに感じていた緊張感がほんの少しほぐれたような気がした。

ベッドの上で幸せそうに眠るコユキに目を移す。

「きゃふぅ…」

と何やら寝言を言うコユキを見ていると、また

(守らねばな…)

という思いが強く湧いてきた。


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