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第57話初めての土魔法02

屋敷に戻りとりあえずお茶を飲む。

しかし、体のだるさは抜けきらず、その日私は仕事を休むことにした。

(なるほど、土魔法を使うならもっと効率良く魔力を操作できるようにならないといけないということか…)

とぼんやり考えつつ、リビングのソファにゆっくりと体を預けて静かにお茶をすする。

するとそこへコユキがやって来て、

「きゃん!」(ルーク。遊ぼう!)

と言い、私に期待するような目を向けてきた。


(世の父親というのはこんなにも大変なものなのか…)

と若干ずれたことを考えて苦笑いを浮かべつつ、「よっこらしょ」と言って立ち上がる。

そして、嬉しそうに、

「きゃん、きゃん!」

と鳴くコユキを抱き上げ、撫でてやりながら、

「どうせだし、外の原っぱにでもいってみんなで遊ぶか」

と提案してみた。

「きゃん!」(やったー!)

とコユキが嬉しそうな声を上げる。

そんなコユキの無邪気さを微笑ましく思いつつ、まずは台所に向かった。


「すまん。今日は外の原っぱでコユキやライカと遊んでくる。良かったら後で弁当を届けに来てくれないか?」

とミーニャに声を掛ける。

すると、ミーニャの横で何やら楽しそうに野菜の皮を剥いていたエリーが、

「まぁ、楽しそうですわね」

とどこか羨ましそうな表情でそう言ってきた。

苦笑いしつつ、

「なんなら一緒に行くか?」

と誘いをかける。

その誘いにエリーは、パッと表情を明るくし、

「まぁ!いいんですの?」

といかにも嬉しそうな声でそう言ってきた。

「ああ。もちろんだ」

と答えてエリーに微笑みかける。

するとエリーは、はしゃいでいたのが少し恥ずかしかったんだろう、やや顔を伏せ、

「ではあとでミーニャちゃんと一緒にお弁当を持って伺いますね」

と言ってはにかんだ。


さっそくライカのもとへ行き、

「今日は原っぱで遊ぼう」

と声を掛ける。

ライカは当然喜んで、

「ひひん!」(やった!)

と楽しげな声を上げた。

3人で連れ立って屋敷から出てすぐの原っぱへいく。

(この辺の土地の有効活用を考えてもいいかもしれんな…。将来役場でも作るか?)

と考えつつも、まずはコユキが好きなボールを取り出し、投げたり転がしたりして適当に遊び始めた。


「きゃん!」(もっと!)

というコユキの求めに応じてボールを転がす。

すると、コユキはボールの方へトテトテ走って行って、それにじゃれつきながら楽しそうに、

「きゃん、きゃん!」

と鳴いた。

ライカと私がそれを見守る。

そして、ひとしきりコユキが満足すると、今度はライカに乗って原っぱを軽く駆け回った。

今度は、ライカが、

「ひひん!」

と楽しそうな声を上げる。

コユキも私の胸元で、

「きゃん!」(速い、速い!)

と楽しそうな声を上げた。

「はっはっは」

と私もつられて無邪気に笑う。

そうしてみんな笑いながら原っぱを無邪気に駆けまわっていると、向こうから、

「お弁当持ってきましたよー!」

と手を振りながらミーニャとエリーがこちらに近づいてきた。

(もうそんな時間になっていたのか…)

と思いつつ、

「ああ。ありがとう!」

と返して、こちらも2人へ近づいていく。

そして、ちょうど原っぱの真ん中あたりで合流すると、さっそくそこに敷物を敷き、みんなでそこに座った。


「きゃん!」(今日のご飯なぁに?)

とワクワクしながら聞くコユキに、ミーニャが、

「今日はキッシュとサラダ、あとお肉もありますよ」

と、にこやかなに答えつつ、弁当を広げる。

「きゃん!」(お肉!)

と言って嬉しそうな顔をするコユキの横から覗き込むと、たしかにそこには色とりどりのおかずが詰まった美味しそうな弁当箱があった。

思わず、

「うまそうだな」

と言葉に出す。

そんな言葉を聞いたエリーが、

「よかったです」

と嬉しそうな笑顔を見せた。

その笑顔に少し照れつつ、

「さて、さっそくいただこうか」

と言って「いただきます」の声をそろえる。

そして、そこからちょっとしたピクニックが始まった。


「きゃん!」(楽しくて美味しいね!)

「ひひん!」(うん。美味しいね!)

と言ってコユキとライカが楽しそうにそれぞれ肉とニンジンにかじりついている。

私たちはその様子をなんとも微笑ましく思いながら、それぞれに好きな物を口に運んだ。

「うん。この鹿肉のローストは美味いな。ソースがいい」

と感想を述べる私に、

「はい!エリー様が作られたんですよ!」

と、なぜかミーニャが自慢げに答える。

その答えに私は感心して、

「ほう。前から思っていたが、エリーは本当に料理が上手だな」

と言い、エリーに視線を向けると、エリーは、

「そんな…。ただ好きなだけですから…」

と言って、恥ずかしそうに微笑みながらややうつむき加減に視線を逸らした。

「うふふ。最近じゃ私もエマさんもすっかりエリー先生のお弟子さんです」

と言うミーニャの言葉に、

「まぁ、先生だなんて…。恥ずかしいわ」

と言って、エリーがますます顔を赤くする。

そんな様子を見て私はなんとも微笑ましい気持ちになり、

「はっはっは。いいじゃないか。先生。みんなも楽しいだろうし、我が家の飯もどんどん美味くなる。いいことずくめだ」

と言って、再びエリーに微笑みかけた。

「まぁ、ルーク様まで…」

と言って、エリーが少しむくれたような表情になる。

その子供のような表情に私はなんとも言えない微笑ましさを感じ、また、

「ははは。すまん、すまん」

と、笑いながら、ベーコンとホウレンソウが入ったキッシュを思いっきり頬張った。


楽しい食事が終わりお茶の時間になる。

コユキとライカはお茶よりも遊びたいらしいので、2人のことはミーニャにお願いした。

私とエリーはお茶を飲みながらその幸せな光景を微笑ましく眺める。

「うふふ。楽しそうですわね」

と言って目を細めるエリーに、私も、

「ああ。いつも元気いっぱいだ」

と微笑みながらそう言う。

そんな言葉にエリーは、

「うふふ。羨ましいですわ」

と言って、少し遠くを見るような目をした。

「小さい頃、エリーもああやって外で遊ばなかったのか?」

と、何気なく聞いてみる。

するとエリーは、

「はい。私運動は得意じゃなくって…。小さい頃は体も小さかったですし…」

と少し恥ずかしそうにそう答えた。

そんなエリーに、

(あまりいい質問じゃなかったな…)

と思い少し恥じ入りつつ、

「そうか。じゃぁ、小さいころはどんな遊びをしてたんだ?」

となるべく優しい口調でそう聞く。

そんな質問にエリーは「うふふ」と微笑みながら、

「毎日のようにおままごとや刺繍の真似事をしていましたわ」

と懐かしそうにそう答えた。


私はその答えになんとも朗らかな気分になり、

「本当に小さい頃から大好きだったんだな」

と笑顔で聞き返す。

しかし、エリーは少し困ったような笑顔で、

「ええ。とっても楽しい思い出ですわ…」

と寂しそうにそう答えた。

(しまった。ご両親のことを思い出させてしまったか…)

と自分のうかつさに呆れる。

そしてその失点を取り返すような感じで、

「大丈夫さ」

と、ひと言だけ伝えた。

「ええ…」

と言ってエリーがうつむく。

私はまた、

(いくらなんでも、言い方が軽すぎたか…)

と反省し、心の中で狼狽しつつ言葉を探す。

そして、

「侯爵様も動かれている。今はそれを信じよう」

と言い、

(何を陳腐な…)

と自分で自分の言葉を批判した。


「ありがとう存じます」

と言ってエリーが軽く頭を下げる。

「いや…」

としか言葉が出てこなかった。

(…不器用にもほどがあるぞ)

と自分を情けなく思いつつ、エリーから目を逸らし楽しそうに遊ぶコユキやライカの方に目を向ける。

再びエリーが、

「楽しそうですわね…」

と微笑ましいような悲しいような顔でそうつぶやいた。


私はそこでひとつ深呼吸をすると、少し気を取り直して、

「今は目の前の幸せを感じよう。辺境にいる私にできることは少ないが、せめて毎日エリーが笑って暮らせるように尽力させてもらう」

とエリーの方を振り返ってそう伝える。

その言葉にエリーは一瞬驚いたような顔を見せたが、すぐいつものように微笑んで、

「ありがとう存じます」

と言い軽く頭を下げてきた。

私は自分の正直すぎる言葉にやや照れてしまい、

「大丈夫。きっと明日も楽しい一日になるさ」

と、どこか照れ隠しにあえて軽い感じでそんなことを言う。

すると、エリーは少し困ったような感じで微笑み、

「ええ。きっとそうですわね」

と朗らかな様子でそう答えてくれた。


気が付けば、日は西に傾きつつある。

私はそれに気が付くと、

「さて。そろそろお開きの時間だな」

と言って立ち上がった。

「もう、時間なんですのね…」

と少し寂しそうなエリーのつぶやきが聞こえる。

私はそのつぶやきに、少し苦笑いを浮かべると、

「なに。またいつでも来られるさ」

と、またあえて軽い口調でそう言った。

「そうですわね」

と言ってエリーが微笑む。

その微笑みはどこか無理をしているように感じたが、私は、

(とりあえず、笑ってくれて良かった…)

と思い直して、エリーに手を差し伸べた。

その手をエリーが取って立ち上がる。

「うふふ。今日は楽しかったですわ」

と笑顔でいうエリーに、

「ああ、明日もきっと楽しいさ」

と微笑みながらそう返した。

しばし見つめ合い、少し照れくさい空気が流れる。

私はその空気を軽く払うように、

「さて。そろそろ3人を呼んでくるかな」

と言って、

「おーい。そろそろ時間だぞ!」

と声を掛けながら、コユキとライカのもとへ歩み寄っていった。


その日の夜。

久しぶりに自室で酒を飲む。

(やはりドワーフの酒は美味いな)

と思いながら、その酒精の強い酒をちびちびと舐めるように味わった。

小さなバルコニーに出て夜風に当たる。

夏のやや温い風だったが、酒で火照った顔にはなんとも心地よく感じられた。

ふと見ると、庭の片隅にある離れから灯りがこぼれている。

(エリーもまだ寝付けずにいるのだろうか…)

そう思うと、少し申し訳ないような気持ちが湧いてきた。

(私にできることがあればいいが…)

と思い少し落ち込む。

そんな気分を変えようと、またちびりと酒をやり、

「ふぅ…」

と息を吐いて、空を見上げた。

(やはり辺境の星は美しいな…)

と思いながら、そのたおやかな美しさに心癒される。

(明日も楽しい一日にしなければな…)

という思いと、

(きっと明日も楽しい一日になるさ…)

という思いが混ざり合って湧き上がってきた。

もうひと口酒を飲み、また、

「ふぅ…」

と息を吐く。

そして、もう一度だけ微笑みながら星空を見上げると、私は部屋の中へと戻っていった。


「きゃふぅ…」

と寝言を言いつつ幸せそうな寝顔を浮かべるコユキを軽く撫でてから布団に入る。

そして、いつものように静かに目を閉じると、ゆっくりとした眠気が降りてきた。

今日という日が終わる。

私はそのことに少しの寂しさを感じつつも、やはり明日への希望という感情を大きくしながら、ゆったりとした気持ちでそのまま眠気に身をまかせた。


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