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第53話みんなで調査に行こう01

田植えが一段落した頃。

(そろそろ茶摘みが始まる頃だな…)

と思いながらいつものように夕食後の緑茶をすする。

そこへ同じように緑茶をすすっていた、ベル先生が、

「近々また調査に入りたいと思っているが、どうじゃ?」

と思い出したかのようにそう聞いてきた。

「ああ。是非同行させてほしい」

と迷わず願い出る。

そして、ついでと言ってはなんだが、

「ああ、ついでにジェイさんたちも誘わないか?」

と言って、ジェイさんたち3人も誘わないかと提案してみた。

「ん?まぁ、よかろう。荷物持ちは多いに越したことはないからな」

と言って、ベル先生が軽く了承してくれる。

私はその言葉を少しの苦笑いで受け止めると、

「じゃぁ、明日にも都合を聞いてくるよ」

と言って、その日はやや早めに床に就いた。


翌日。

さっそくジェイさんたちを訪ねて都合を聞いてみる。

「ああ、そうだな。そろそろ新しい苗木やらなんやらを採取したいと思っていたところだ。ちょうどいい。一緒に行かせてもらおう」

というジェイさんと、3日後の出発でどうだろうか?と言い日程を調整する。

そして、その日程が決まると、私はさっそく屋敷へ戻ってそのことをベル先生に伝えた。


そして、当日。

みんなが屋敷の前に揃ったところでさっそく出発する。

今回は長くなるかもしれないというとエリーは心配そうな顔をしたが、

「なに。これだけ人数がいるんじゃ。心配なんぞ何もないわい」

というベル先生の言葉を聞いて少しだけ安心したのか、ややぎこちなさを残しつつもいつも通り柔らかく微笑み、

「いってらっしゃいまし」

と言って私たちを気持ちよく送り出してくれた。


今回参加するのは私、ミーニャ、ベル先生にジェイさんたち3人を加えた6人。

やや大所帯だが、一列になって村のあぜ道を進んで行く。

そして、その日のうちに森の浅い所にある野営場所に辿り着くと、さっそくミーニャに頼んで夕食にすることにした。

設営をしながら、いつものようにいい香りがしてきたのに気づきミーニャの方を振り返る。

すると、そこにはミーニャの手元を食い入るように見つめるドワーフ3人の姿があった。

「おいおい。どうした?」

と私も近寄りつつ訊ねてみる。

すると、アインさんが振り返って、

「なぁ、ルークの旦那。こいつはなんだ?」

と鍋を指さしながら、聞いてきた。

私は一応鍋を覗き込み、中身を確認してから、

「ああ。カレーだが…。もしかして、初めてだったか?」

と訊ねる。

すると今度はジェイさんが、

「ああ。こんな匂い今まで嗅いだことがねぇ…。しかし、わかるぜ。こいつぁ美味い」

と、なんとも真剣な表情で私に向かってそう言ってきた。


そんなジェイさんたちの表情にしてやったりと思いながらも、

「ああ。うちのカレーは特に美味いぞ。なにせ香辛料の配合がいいからな。期待していてくれ」

と笑顔で答える。

そんな笑顔にジェイさん、アインさん、それにノバエフさんまでもが真剣な表情で重々しくうなずいて、またカレーが煮込まれている鍋の方へ真剣な眼差しを送り始めた。

そんな様子を苦笑いで見守る。

ミーニャはなんだかやりにくそうにしていたが、それでもいつものようにカレーを作り、やがて、

「できましたよ。ご飯をよそってもってきてくださいね」

と言い、炊きあがったご飯をそれぞれついでもってくるよう私たちに指示を出した。

「よっ。待ってました!」

と言って、ジェイさんたちが我先にとご飯のもとへ向かう。

私とベル先生もそれに続いて、ご飯をつぐ列に加わった。

そして、訪れたジェイさんたちにとっては運命の時。

恐る恐るカレーをひと口食べたジェイさんたちがそれぞれに、

「美味い!」

「ああ。ちょいと辛いのが癖になるぜ!」

「………(コクコクコク)」

とうい声を上げ、私の方にいかにも「なんだこれは!?」という視線を向けてくる。

私はその視線をやはりしてやったりという表情で受け止めると、

「サッシャ…うちではターメリックと呼んでいるが、そんな香辛料があってな。それを使ったこの領独自の食べ物だ。まぁ、侯爵様にもそのレシピは送っておいたから、今頃侯爵領でも流行ってると思うがな」

と、かなりのドヤ顔でそう教えてやった。


「サッシャってあのサッシャか?」

と驚きの表情で言ってくるジェイさんに、

「ああ。あの苦いお茶か染料にしかならないと思われていたあのサッシャだ」

と、またどこか自慢げに答える。

その答えにジェイさんはまた驚いて、

「あれが、こうなるとはなぁ…」

と言うと、またおもむろにカレーをひと口食った。

「美味ぇですね。旦那」

というアインさんの言葉にジェイさんがうなずき、

「こいつぁ驚いた」

と素直に感心した様子を見せる。

そして、またカレーをひと口食べると、

「こいつも研究し甲斐がありそうだ…」

とつぶやき、黙々とカレーを味わい始めた。

やがて、

「お替りじゃ!」

というベル先生の声が響く。

「もう。野営中なんですから、ほんのちょっとですよ?」

とミーニャが少し呆れたようなことを言って、ベル先生にから空になった皿を受け取ると、ほんの小盛のカレーをよそって差し出した。

それを見ていたジェイさん、アインさん、ノバエフさんも、

「わしにもたのむ」

「あ、俺にも」

「………」

と言ってそれぞれ皿を差し出す。

その声にミーニャは苦笑いを浮かべつつも、

「残り少ないからちょっとずつですよ」

と言ってカレーをよそってやっていた。


やがて、ある意味衝撃的な夕食が終わり、ジェイさんと軽くカレー談議を交わす。

「あのカレー、もっといろんな味にできるんじゃないか?」

というジェイさんに、

「ああ。香辛料の配合を変えれば辛くも出来るし、ある程度甘口にも出来る。それに、具材も工夫次第で色々あるぞ。ちなみにうちの一番人気はカツカレーだな」

と自慢げにそう言うと、ジェイさんは当然、

「カツ、カレー?」

と単純な疑問を投げかけてきた。

「ああ。肉にパン粉をつけてあげた料理をカツと名付けた。それをご飯に乗せて、そこにカレーを掛けるんだ。トッピングと言うが、乗せるのはハンバーグでもから揚げでもなんでも構わんぞ」

と、カレーにはトッピングという幅の広げ方もあるということを教えてやる。

すると、ジェイさんは、

「帰ったら詳しく教えてくれ!」

と言って、私に真剣な目を向けてきた。

そんな真剣な眼差しを、私は快く受け止め、

「ああ。私はあくまでも基本を生み出しただけだから、詳しくはないが、うちにいるご令嬢が香辛料の配合やら何やらをかなり詳しく研究しているから今度教えてもらえるようお願いしてみよう」

と言って、そのうちカレー講習会を開くと約束する。

すると横から、ベル先生が、

「ふっふっふ。エリーのカレーは日々進化しておるから楽しみにしておくがよい。なにせ私もその研究に協力しておるからのう。可能性は無限大じゃ」

と言って楽しそうな表情を浮かべた。


そんな話で楽しく夜が更けていく。

その日は、まだ森の浅い部分ということで、みんなそれぞれがやや気楽な気持ちでゆっくりと体を休めた。


翌朝。

普通のスープで簡単に朝食を済ませ、さっそく出発する。

まずは、領域を通らせてもらうのだから、ということでフェンリルに挨拶に向かうことにした。


例の滝に到着し、フェンリルの到着を待つ。

するとしばらく経ってフェンリルがいつものように音もなく現れ、

「久しぶりね。ルーカス」

と私の後から声を掛けてきた。

「久しぶりだな。今日はこの先にあるブドウなんかの生育状況の観察と苗木の採取に来た。それで、ここにいるドワーフの人たちもいるから一応挨拶にと思って寄らせてもらった」

と、今回の来訪の目的を告げる。

そして、ジェイさんたちの方に視線を向けると、ジェイさんたちは慌てて跪き、

「私はジェイコブス、エルダーを束ねるものだ。後ろに控えているのはアインとノバエフ。それぞれ村の仕事を手伝わせている」

と、かしこまってそう答えた。

「村の発展は私の願い。上手くやりなさい」

とフェンリルが声を掛ける。

その声に、ジェイさんたちは、

「はっ」

と短く返事をすると、頭を下げ了承の意をフェンリルに示した。


私の胸の中でコユキが、

「きゃん!」

と鳴いたので地面に降ろしてフェンリルのもとに向かわせる。

そして、コユキがいつものようにフェンリルの胸の毛の中に入ると、フェンリルが途端に母親の顔を見せた。

「ふふっ。昨日のご飯も美味しかったのね…」

とつぶやくフェンリルの優しい表情を見て、こちらも微笑ましい気持ちになる。

そして、しばらく親子の触れ合いの時間を楽しんだところで、フェンリルが、

「エルダーの者なら、かなり魔法が使えますね?」

とジェイさんに質問を向けた。

「ええ。使えます」

と短く、しかし、かしこまってジェイさんが答える。

すると、フェンリルは満足げに、「うん」とうなずき、

「そこのルーカスに教えてやって欲しいの。お願いできる?」

と言った。

「は。造作も無いこと」

とジェイさんがまたかしこまって答える。

その答えにフェンリルは満足そうにうなずき、今度は私に向かって、

「ルーカスの魔力なら問題なく使いこなせるはずです。期待してるわよ」

と、どこか嬉しそうな表情でそう言った。

「どこまでできるかわからんがやってみよう」

と少し苦笑いで答える。

その私の答えを聞いてフェンリルは、

「うふふ。これからが楽しみね」

と微笑みながらそう言い、

「また近いうちにコユキを連れてきなさい」

と言って、コユキを胸の中から出すと、

「引き続き頼みましたよ」

と言って私に引き渡し、自身はまた音もなくスッと姿を消した。


「まったく。すげぇ村だぜ…」

とアインさんがつぶやく。

私はそのつぶやきに、

「ああ。自慢の領地だ」

と答えて笑うと、ジェイさんたちに向けて、

「そういう訳だから、これからもよろしく頼む」

と言って頭を下げた。

「へっ。頭を下げられるほど、たいしたことじゃねぇさ」

と言ってジェイさんが右手を出してくる。

私は笑顔で、その手を握り返し、帰ったらそのうち土魔法と火魔法を教えてもらうことを約束した。


そこから進むことしばし。

ちょうどいい水場を見つけたので、さっそく昼にする。

昼は簡単なサンドイッチで手早く済ませた。

その後、少し移動して、例のブドウが群生している地点の端に着く。

そして、その日はそこでいったん野営の準備に取り掛かった。

「明日が楽しみだぜ」

というジェイさんたちに、

「一応、採るのは苗になりそうな若木だけにしてくれよ」

と念のため注意を促す。

すると、そんな私の懸念を払しょくするようにアインさんが、

「ああ。もちろんだ。このブドウがなくなっちまったら、美味い酒ともおさらばってことだからな」

と笑顔で答え、その横でベル先生も、

「安心しろ。その辺りはわきまえた連中ばかりじゃ」

と太鼓判を押してくれた。

その答えに安心して夕食にする。

その日の夕食はなんの変哲もない辺境風のスープだったが、きっと、明日への期待があるからだろう。

みんなどこか高揚したような気持ちでいつもよりずっと美味しく感じながら、楽しく食べた。


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