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第49話ドワーフも村にやってきた01

アリア、クララ、ミリエラの3姉妹がやって来てからおおよそ1か月。

麗らかな陽気に照らされた村のあぜ道には色とりどりの花が揺れている。

そんな長閑な道をガタゴトと音を立ててやや大きめの馬車がこちらに向かって来るのが見えた。

(あの大きさじゃ、山越えの道はギリギリだっただろうな…)

と思いつつ農作業の手伝いの手を止めて見る。

すると、その馬車を先導していたハンスが、

「あ、ルーク様。お客さんっすよ!」

と、こちらに声を掛けてきた。

「おう!先に屋敷にお連れしてくれ。すぐに行く!」

と大きめの声でそう返す。

そして、私は近くにいた農家のおっちゃんに、

「すまん。客のようだから先に上がらせてもらうぞ」

と断りを入れると、さっそく近くで遊んでいたコユキとライカに声を掛け、急いで屋敷へと戻っていった。


屋敷に戻ると、急いで汗を拭き、着替えを済ませる。

そして、リビングに入ると、そこにはベル先生と3人の客と思しき人物が何やら話をしている所だった。

「お待たせした。当家の主、ルーカス・クルシュテットだ」

と言って、客人に右手を差し出す。

すると、その明らかにドワーフと思しき客人たちが立ち上がり、私の右手を握り返しながら、

「ジェイコブスだ。ジェイでいい。よろしく頼む」

と短く割と気さくに挨拶をしてきた。

そこへベル先生が、

「ほれ。例の手紙を出したドワーフの知り合いじゃよ。…まさか当の本人がやってくるとは思わんかったがな…」

とやや嘆息気味にそう言って注釈を加えてくれた。

「ああ。なるほど。それは遠路はるばるご苦労だったな。何もない村だが、遠慮なくくつろいでいってくれ」

とまずは社交辞令で返す。

そんな私にそのジェイさんは、

「ああ、後ろの2人は手伝いのアインとノバエフだ。それぞれ醸造と鍛冶の専門家だが、土魔法と火魔法が使えるから開拓の役にも立つぞ」

と他の2人を手短に紹介し、

「で。新しい穀物ってのは?」

と、いきなり本題を切り出してきた。

私はそんなジェイさんを、

「いやいや。まずは握手くらいさせてくれ」

と苦笑いでいったん制し、アイン、ノバエフと紹介された人物とそれぞれ握手を交わす。

アインさんは、

「酒もそうだが、味噌と醤油も任せてくれ。必ず美味いもんを作ってみせるぜ」

と笑顔でそう言ってくれたが、ノバエフさんは、

「鍛冶。できる…」

とややぼそぼそとひと言だけ言って、サッとジェイさんの後に下がってしまった。

どうやら相当無口な人らしい。

私はそんな2人に、

「期待している。よろしく頼む」

と礼をいい頭を下げる。

そして、先ほどからウズウズしているジェイさんに向かって、

「新しい穀物の話だったな」

と苦笑い気味に話しかけ、本筋の話題に入った。


「とりあえず、現物を見てもらった方がいいだろう」

と言って、ミーニャにひと掴み持ってきてもらうようにお願いする。

すぐに戻って来たミーニャから米を受け取り、

「これがそうだ」

と言って、ジェイさんに手渡した。

ジェイさんたち3人がしげしげと米を見つめる。

そして、ジェイさんは生のままの米を一つまみ口に入れた。

「おいおい。食べるならちゃんと炊かせるぞ?」

と言う私をジェイさんが軽く手で制し、

「なるほどな…」

とひと言そう言った。

「どうだ?」

とやや緊張しながら聞く。

すると、ジェイさんはうなずいて、

「可能性はあるな…」

と、やや重々しい感じの口調でそう言った。

「それは良かった」

と、ほっと胸を撫で下ろす。

自分自身に前世の知識はあるものの、それだけで、全てのことが実現可能なわけじゃない。

やはり、その道の専門家の力は必要だ。

その専門家が一応可能性はあると言ってくれたことにほっとして、私は、

「すまん。米を炊いてきてくれ」

と横にいたミーニャにお願いをした。


炊けるのを待つ間。

村の農業の状況や新種のブドウ、それからリンゴなんかの話になる。

ジェイさんは当然、新種のブドウの話に食いついてきた。

「手紙で読んだが、そんなに甘いのか?」

とやや訝しそうに聞いてくるジェイさんに、ベル先生が、

「ああ。これまで経験したことのない甘さだったぞ」

と、どこかドヤ顔でそう答える。

その表情を見て、ジェイさんが、

「ほう。西の賢者殿がそう言うなら間違いなさそうだな。はっはっは。こいつぁ思ったより楽しくなりそうだ」

と言って、豪快に笑った。

そこからは、旧知の仲らしいベル先生とジェイさんを中心に話が進んで行く。

「おそらくだが、この領…いや、あの森は飽きんぞ」

というベル先生に、ジェイさんが、なにやら真剣な顔で、

「ほう。そんなにか?」

と聞き返した。

「ああ。ほんの浅いところでこの騒ぎじゃ。奥に行けば何があるやら…」

とややあきれたような表情で言うベル先生の言葉に、ジェイさんが、

「確かにな…」

と言ってうなずく。

そんなジェイさんに向かってベル先生は、やや真剣な表情になると、

「おそらくじゃが、魔獣もこんなものでは済まんぞ」

と恐ろしいことを付け加えた。

「まぁ、そうだろうな…」

と言って、ジェイさんがまたうなずく。

私はその話に領主として興味深くも恐ろしい思いで耳を傾けた。


「で、今のところはどんなのが出とるんだ?」

と聞くジェイさんに、ベル先生が、

「ん?今のところはオーク程度じゃな。グレートウルフ辺りもおるらしいが、なにせフェンリルのお膝元じゃ。そのおかげでその程度で済んどるんじゃろうて」

と、何気なく答える。

すると、ジェイさんがまた豪快に笑いながら、

「はっはっは。じゃぁ、奥に行ったら邪竜の一匹くらい出てくるかもしれんなぁ」

と、笑えない冗談を言った。

「はっはっは。そいつは一大事じゃな。そんなものが出てきたらこの世界がひっくり返るわい」

と言ってベル先生も笑う。

そんな2人の会話を聞いて私はただただ苦笑いを浮かべるしかなかった。


そこへ、

「お米が炊けましたよ」

と言いながらミーニャが入ってくる。

その声を聞いて、ジェイさんが、

「お。待ってました」

と嬉しそうな声を上げた。

客人3人それぞれに塩むすびが乗った皿が配られる。

ジェイさんは受け取った皿を掲げてしげしげと塩むすびを見ながら、

「ほう。炊くとこうなるか…」

と興味深そうにひと言そう言った。

「とりあえず一番簡単な料理にしてみた。この米そのものの味を味わってくれ」

と言って、さっそく勧める。

その声にジェイさんが、

「うむ。いただこう」

とやや大仰な感じで言って、さっそくなんの変哲もない塩むすびを口に運んだ。


「…うーむ」

とジェイさんが唸る。

私はそれをどっちだろうかと思いながら、じっと見つめた。

ひと口食べ終え、ジェイさんが、

「なるほどな。これは期待できるわい」

とつぶやく。

私はそのつぶやきにほっとして、

「それは良かった。是非心行くまで研究してやってくれ」

と笑顔でそう応じた。


やがて、塩むすびを食べ終え、住居の話になる。

「実は、家の客間は2つしか空きが無くてな…。すまんが3人で無理やり使うか、ひとりは出来たばかりの長屋に移ってもらうことになるがかまわんだろうか?」

という私の遠慮がちな問いかけに、ジェイさんは、

「なに。全員その長屋で構わん。ああ、今晩くらいは泊めてもらえると嬉しいがの」

と笑いながら答えてくれた。

「はっはっは。相変わらず細かいことを気にせん男じゃのう」

と言ってベル先生が笑う。

「なに。これも性分ってやつさ」

と言って、ジェイさんがまた笑い、その場が明るい雰囲気に包まれた。


そこへ、

「きゃん!」(ルーク、遊んで!)

と言って、コユキが入って来る。

すると当然、

「な。念話じゃと!?」

と言って、ジェイさん一行が驚きの表情を浮かべた。

「ああ。そのうち紹介するつもりだったんだが、訳あってうちで預かっているフェンリルの子だ。名はコユキという。まぁ、うちのペットだと思って気軽に接してやってくれ」

と言って苦笑いでコユキを紹介する。

すると、コユキが、

「きゃん!」(コユキだよ!)

と元気に明るく挨拶をした。


「あ、ああ…。ジェイコブスだ。ジェイでいいぞ」

とやや戸惑いつつも、ジェイさんが自己紹介をする。

それに続いて、アインさんとノバエフさんも、

「アインだ。よろしくな」

「…ノバエフ」

と自己紹介をしてくれた。

「きゃん!」(よろしくね!)

と言って、コユキが私の足元にすり寄って来る。

私はそれを抱き上げて撫でてやると、

「ああ。ついでにうちにはユニコーンもいるから後で紹介させてくれ」

と言って、苦笑いを浮かべた。

「ははは。こりゃ予想以上に面白い所にきちまったみたいだな…」

と言って、ジェイさんも苦笑いを浮かべる。

その後ろでアインさんとノバエフさんもどこか乾いたような笑みを浮かべていた。


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