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第48話エルフが村にやってきた02

翌日。

朝の日課を終え、飯を食うとさっそくミーニャを伴ってエルフ3姉妹のもとを訪れる。

するとそこにはすでに職人の棟梁がやって来ていて、なにやら3人と話し込んでいた。

「おはよう。ちょうど良かった、今日紹介に行こうと思っていたんだ」

と言いつつ近寄る私に、

「おはようごぜえやす」

「「「おはようございます」」」

と挨拶が返ってくる。

「どうだ。上手くいきそうか?」

と端的に訊ねてみると、4人はそれぞれうなずいて、

「ええ、このくらいのもんだったら10日もありゃぁできるでしょう」

「はい。広さも十分に確保してもらいました」

と、棟梁とアリアが問題無いと返してきてくれた。

「そうか。良かった」

と言って、棟梁と握手を交わし、私はその場を辞する。

ミーニャにはあとで荷物の整理やら村の案内なんかの仕事を頼んだ。

ちなみに、昼はナポリタンを作って振舞うつもりだという。

私はそれをほんの少しだけ羨ましく思いつつ、そのまま村長宅を訪ねた。

今年の作付け状況や今後のことについて打ち合わせをする。

どうやら今年もこのまま天気に異変が無ければ例年並みの収穫があるだろうとのこと。

もちろん、米や綿花は順調に数量を増やす予定だから楽しみだと村長もニコニコしながらそう言っていた。

そして、村長宅で昼をいただき、再び屋敷へと戻って行く。

(やはり、ケチャップの開発は革命をもたらしたな…。次はマヨネーズだろうが、あれは健康のことを考えるとなぁ…)

と思いつつも、から揚げにたっぷりとマヨネーズをつけたり、お好み焼きにこれでもかとマヨネーズをかけたものを想像してしまった。

(うん。やはり開発、というより発表しなくてはな)

と決心を固めつつ屋敷に戻る。

そして、真っ直ぐ離れに向かうと、

「エリー。新しい料理の可能性を思いついたんだが、一緒に作ってみないか?」

と言ってエリーを我が家の台所に誘った。


エリーと一緒に台所で試行錯誤すること、数回。

どうやら卵は全卵ではなく黄身のみを使うと上手くできるということを発見する。

そして、なんとかマヨネーズらしきものが完成した。

さっそく適当な野菜につけて食ってみる。

それはまさしく私の記憶にあるマヨネーズそのものだった。

「すっごく美味しいですわ!」

とびっくりしたような顔を見せるエリーに、

「ああ。だが、知っての通り、油の塊を食っているようなものだからな。とり過ぎには注意が必要だ」

と一応注意をしておく。

「そうですわね…。そこは注意しませんと…」

とエリーはやや残念そうな顔でそう言った。

(そうか。エリーはマヨラーだったか…)

とどうでもいいことを思いつつ、さっそく夕食の席にマヨネーズを出す。

するとひと口食べたベル先生が、

「なんじゃ、この魅惑の味は!まさにケチャップと双璧…、いや、どちらかと言えばこちらの方が汎用性が高いと見た。となれば、あの究極だと思っていた調味料ケチャップを超える逸品ということになる…。うーむ…。ルークよ、そなた本当に何者じゃ?」

と、さっそくその味の美味しさとこれから広がる可能性の広さに気が付いて驚きの声を上げた。

そんなベル先生に、

「ああ。肉にも合うし、野菜にも合う。それに料理の仕方によっては様々な可能性が広がるだろう。だが、気をつけてくれ。なにせ、油の塊だからな。…あんまり食べ過ぎるとぽっちゃりになってしまうぞ」

と、また一応の注意を与える。

すると、ベル先生もまた、

「うーむ…」

と唸って、なんだか残念そうな顔になった。


「きゃん!」(これ、もっと!)

というコユキにも、

「おっと。これは食べ過ぎるといけないから、今日はここまでだぞ?」

と言って注意を与える。

すると、コユキは目に見えてしょんぼりし、私に、

「くぅーん…」

と鳴いて甘えてきた。

おそらくおねだりのつもりなのだろう。

私は仕方なく、

「ひと口だけな?」

と言って、野菜にマヨネーズをつけて食べさせてやる。

すると、コユキは、

「きゃん!」(おいしい!)

と言って、私に頭をぐりぐりと擦り付けてきた。

そんな光景を見てみんなの笑顔が食卓にこぼれる。

そしてやはり我が家の食堂は温かい空気に包まれた。


~エルフのアリア視点~

「クララベル様、お可愛らしかったわねぇ」

という私つぶやきに、クララとミリエラが「うんうん」とうなずく。

クララベル・フラン・イルベルシオート様と言えば、エルフの国、イリスフィア王国を代表する知性のひとりだ。

あの可愛らしさと高貴な身分であらせられながらも飾らない人柄が相まって、庶民の間では絶大な人気を誇っていた。

「同じテーブルで同じお茶を飲んだなんて言ったらみんなに羨ましがられるわね」

と言ってクララが微笑む。

「あはは。そうだよね。さっそく手紙でみんなに自慢しなくっちゃ」

とミリエラもそれに続いて嬉しそうに笑った。

「来るまでは不安だったけど、なんとかなりそうね」

と言う私に、クララが、

「ええ。お食事もお家も思ったよりは普通だったし、これなら何年かいられそうね」

といつものように優しく微笑みながら返す。

ミリエラも、

「うんうん。あの領主様いい人っぽかったし、安心だね」

と明るい声でそう言って同調してくれた。

「さぁ、どうなるかわからないけど、今日はゆっくり休みましょう。きっと明日からは大変よ」

と言って、みんなに寝るよう促す。

その言葉に2人が、

「「はーい」」

と声をそろえて答えたのを聞いて私は枕元にあったランプの灯りをそっと消した。


翌朝。

窓から差し込む明るい陽射しで目を覚ます。

どうやら寝過ごしてしまったらしい。

慌てて、クララとミリエラを起こし、昨日の晩もらったシチューを温め直す。

するとそこへ「コンコン」と軽くドアを叩く音がした。

「はーい。どちら様?」

と、少し訝しんで聞く。

すると、その問いに、

「衛兵隊のハンスっす。棟梁が打ち合わせをしたいってんで連れてきたっす」

という明るい声が返ってきた。

ハンスというのは確か、私たちをご領主様の屋敷まで案内してくれた軽い感じの若者だ。

(ああ、あの人か…)

と思いつつ玄関を開ける。

「朝からすみませんね。棟梁が作業小屋の件で打ち合わせしたいってんで連れてきたっすけど、大丈夫っすか?」

というハンスさんに、

「ええ。今お食事を済ませてしまいますから、ちょっと待っていてください」

と伝えて中に入ってもらうように促す。

しかし、ハンスさんは、

「いえ、自分は仕事があるっすから、これで失礼します。あとは棟梁と話してください」

と言って、棟梁をひとり置いて帰っていってしまった。


「とりあえずどうぞ」

と棟梁を中に招き入れる。

しかし、棟梁も、

「いや、朝飯中にすまねぇ。外で軽く測量してるから、飯が終わったら出て来てくれ」

と言って、さっさと外で仕事を始めてしまった。

仕方なく急いで朝食を済ませ、3人そろって外に出る。

するとそこへ、

「おはよう。ちょうど良かった、今日紹介に行こうと思っていたんだ」

と言いつつ、ご領主様のルーカス様がやって来た。

「おはようごぜえやす」

「「「おはようございます」」」

と挨拶を交わす。

その挨拶にルーカス様はうなずいて、

「どうだ。上手くいきそうか?」

と短く聞いてきた。

私たちはそれぞれにうなずいて、

「ええ、このくらいのもんだったら10日もありゃぁできるでしょう」

「はい。広さも十分に確保してもらいました」

と答える。

その答えに、ルーカス様は満足した様子で、

「そうか。良かった」

と言って、棟梁と握手を交わしていた。

その後、

「当面の間は大変だろう。このミーニャに食事の世話やら、村の案内を頼んでおいたからまた後で来させる。苦労を掛けるがよろしく頼んだぞ」

と言ってルーカス様は帰って行かれた。


それからしばらくは簡単な測量と希望する広さなんかの打ち合わせをして詳細を詰める。

そして、昼前には打ち合わせが終わった。

「じゃぁ、明日からさっそく作業に入るから、ちょいと騒がしくしちまうぜ」

という棟梁に、

「こちらこそよろしくお願いします」

と言って握手を交わす。

すると、そこへルーカス様のメイドであろう獣人の女の子がお昼を作りに戻って来た。

「お昼を作りにきました!」

と明るい声で言ってくれるそのメイド、ミーニャちゃんとも挨拶を交わし、さっそく家に招き入れる。

そして、さっそく台所に通し、料理を作ってくれるようお願いした。

やがて、台所から妙にいい香りがしてくる。

(何かしら?)

と思って期待していると、ミーニャちゃんが出してきてくれたのは、妙に赤いパスタだった。

「我が家の名物ナポリタンです!どうぞ」

と言って出してくれたものを恐る恐る口に運ぶ。

しかし口に入れた瞬間、

「んーっ!」

と半ば叫んでしまった。

私の横でクララとミリエラも、

「あら…」

「おいひい!」

と叫んでいる。

「どうです?お口に合いましたか?」

というミーニャちゃんに私たちは全員揃ってブンブンと首を大きく縦に振った。

「良かったです。食べ終わったら、村の中を案内しますね。あ、基本的にお野菜は物々交換なんですけど、今回は隣の農家さんに頼んでおきましたから大丈夫ですよ」

と笑顔で言ってくれるミーニャちゃんの言葉がなんとなくしか入って来ないほどその「ナポリタン」という珍妙な名前のパスタは美味しかった。


その後、村の中を案内されつつナポリタンのことを聞く。

すると、そのナポリタンを作るには「ケチャップ」という特別な調味料が必要とのことだった。

その言葉に私は一瞬絶望しかけたが、

「あれってまだ試作品が出来たばっかりだからあんまり量がないんですよね…。ああ、でも今年の夏になってトマトがたくさん生ったら村のみんなにも作り方を教えて大量に作ろうって話になってますから、そしたら、ナポリタンもたくさん作れるようになりますよ」

と言ってくれるミーニャちゃんの言葉に安堵する。

「ナポリタン」に「ケチャップ」。

それらは私たち姉妹を一瞬で虜にしてしまった。

(もしかして新種の綿花の発見より、重大なんじゃないかしら?)

と心の中で冗談を言う。

そして、そんな自分の冗談を自分で笑いながら、私たちの前を楽しそうに歩くミーニャちゃんの姿を見た。

ミーニャちゃんの尻尾が楽しそうに揺れている。

「あれは共用の井戸です」

とか、

「あのお家のダイコンは絶品ですよ」

と説明してくれるミーニャちゃんの表情は実に楽しそうだ。

私はそんなミーニャちゃんの様子を見て、

(素敵な村なのね)

と直感した。

(楽しい生活になりそう…)

と思って心の中で微笑む。

私の横で、クララが、

「楽しそうな村ね」

と言って微笑んだ。

「ええ。楽しみだわ」

と答える。

「あはは。思い切って応募して良かったね」

とミリエラが楽しそうにそう言った。

私たちの新しい生活がここで楽しく始まる。

そう思うと、私の胸は自然と高鳴った。


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