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第42話迎え入れられた令嬢02

そして、その日の夕方。

ウキウキとした気持ちでドレスを選ぶ。

(あまり派手なものはないけれど、少し色があった方がいいかしら?)

とも思ったが、そこでふと、今も苦しい思いをしてらっしゃるお父様やお母様の顔が浮かび、私は持ってきている中で一番地味な色のドレスを選んでしまった。

(私ひとり浮かれてバカみたい…)

という思いが込み上げてくる。

しかし、そんな私にマーサは微笑んで、

「楽しんできてくださいまし」

と言って優しく送り出してくれた。

嬉しい気持ちと申し訳ない気持ちでお屋敷に向かう。

そして、おとないを告げると、すぐに執事さんが応対に出てくれて、私を食堂へと案内してくれた。


「ようこそおいでくださった」

と言ってくださる男爵様に

「本日はお招きありがとうございます」

と言って礼を取る。

そして、

「今日は精一杯の料理を用意させてもらった。…決して豪華な料理ではないがそこは勘弁してほしい」

と謙遜される男爵様に、

「とんでもございません。ご厄介になる身として、お招きいただいただけでも光栄です」

と答えてまた礼を取った。

そんな私に男爵様が、

「うちの家族を紹介しよう」

と言って、まずはお父上のバルガス・クルシュテット様を紹介してくださった。

「バルガス・クルシュテットだ。もう隠居の身だから時間がある。暇なときには話し相手になってやってくだされ」

と優しく微笑んでくださる、バルガス様に、

「こちらこそ、よろしくお願いいたしますわ」

と緊張しつつもなるべくにこやかにお返事を返す。

そして、メイドのエマさん、ミーニャさん、執事のバルガスさんを紹介されると、次に私が最も気になっていたエルフの女の子を、

「理由合って、我が家に居候してもらっている、クララベル・フラン・イルベルシオート先生だ。我々は気軽にベル先生と呼ばせてもらっている」

と言って紹介してくださった。

私はそのあまりの可愛らしさに心を奪われつつ、

「まぁ、お可愛らしいお方。おいくつなの?」

となるべく相手を怖がらせないように優しく聞く。

すると、男爵様が慌てて何かを言おうとした。

それをそのベル先生と呼ばれた女の子が手で制す。

そしてそのベル先生は、

「はっはっは。いつものことじゃ。気にしとらんわい」

と、どこか老成したような言い方でそう言った。

私はそこでハッとして、

「ご無礼仕りました」

と言って礼を取る。

(男爵様が先生とおっしゃっていたからきっと偉い方に違いないし、それにエルフの人は長寿だから…)

と思って恐縮する私を、ベル先生は、

「いやいや、この見た目じゃ仕方あるまい。それより私もミリアルド殿からエレノア嬢のことを頼むと言われておるからの。後日、お茶でも頂戴しにまいろう」

と、気さくに言って軽く許してくださった。

「ありがとう存じます」

と言いつつ人を見た目だけで判断してしまった自分を恥じる。


そんな私に男爵様は、続いてペットらしいワンちゃんを紹介してくれた。

「コユキ。ご挨拶できるか?」

とワンちゃんに向かって話掛ける男爵様を可愛らしく思いつつのそのコユキと呼ばれたワンちゃんの方を見ると、そのワンちゃんは、

「きゃん!」(コユキだよ!)

と言って、私に元気よく挨拶をしてくれた。

「…え?」

と思わず変な声を出してしまう。

(えっと、ワンちゃんが…。え?)

と混乱する私に、男爵様は笑いながら、

「はっはっは。うちのペットのコユキだ。ご覧の通り見た目は子犬だが、れっきとしたフェンリルの子でな。こうして話ができる。と言ってもまだほんの小さな子供だから、失礼があったらそこは勘弁してやってくれ」

と、その種明かしをしてくれた。

「…まぁ…」

と言葉を失ってそのワンちゃんを見る。

すると、そのワンちゃん、コユキちゃんは、

「きゃん!」(よろしくね!)

とまた元気に挨拶をしてくれた。

私はまだ驚きつつも、

「え、ええ。こちらこそよろしくね。私のことはエリーって呼んでね」

と、なるべくにこやかに答えて、軽く撫でてあげる。

そんな私を見て男爵様は、

「ははは。家には馬…ユニコーンもいる。ライカというんだがそちらも同じように話ができるから、そちらは明日改めて紹介しよう」

と、まるでお父様のように優しく微笑みながら、そうおっしゃった。

「まぁ…。おしゃべりするワンちゃんと…お馬さん?がいるなんて、辺境とはすごい所なんですのね…」

と、素直に感心してしまう。

すると、男爵様は、

「ああ。そうかもしれんな」

と言って、さもおかしそうに微笑んだ。

さっそくお食事が始まる。

私は先ほどの驚きで、緊張を忘れ、和やかな気持ちで辺境風だというお料理をいただいた。

(このお肉は鹿のお肉っておっしゃってましたわね…。少しクセはあるけど、美味しいわ。…欲を言えばもう少し香辛料を足して、低温でじっくり焼くと良いかも。あ、このジャム、美味しい。なんていう果物のジャムなのかしら…)

と考えながら美味しくいただく。

すると、男爵様が気を遣って、

「王都ではない味だろうから慣れるまでに時間がかかるかもしれないが、そこは我慢してくれ」

とおっしゃってくださった。

私は素直に、

「いいえ。とても興味深いお味ですわ。美味しいです」

と答える。

その答えに男爵様はまた優しく微笑んで、

「そうか。それは良かった」

とひと言おっしゃってくださった。


それから辺境のことやお互いの趣味の話になる。

男爵様は、

「私から剣術と食べることを取ったらあとは仕事しか残らない」

とおっしゃり私は思わず笑って、

「まるで父のような方ですわね」

と気軽な言葉を言ってしまった。

言ってしまってハッとしたが、男爵様は気にする様子もなく笑っている。

そして、その気さくな笑顔のまま今度は私に趣味を聞いてきた。

私は、その気さくな微笑みについ照れてしまって、

「昔からお料理やお裁縫が好きでしたの…」

となぜか伏し目がちに答えてしまう。

そんな私に男爵様は、

「なるほど。それはいいご趣味だ。最近うちで開発したカレーと言う新しい料理があるから今度食べてみるといい。気に入ったら作ってみるのもいいかもしれんな。カレーはいろんな香辛料を混ぜて作る料理何だが、入れる香辛料の種類や量によっていろいろと味が変わるから、研究し甲斐があるぞ?」

と、新しい料理があるから研究してみてはどうか?ということを提案してきてくださった。

おそらく私に気を遣ってくださったのだろう。

私がその言葉に感動していると、横から、ベル先生が、

「うむ。あれの可能性は薄々感じていたが、いろんな種類のカレーができるなら私も協力しよう。なに香辛料のことは心配ない。侯爵殿に言ってたんまりと送らせるからな」

と笑顔で話しに加わってくる。

きっとベル先生もまた私に気を遣って明るい話題をふってくれているのだろうと思うと嬉しくて思わず涙が溢れそうになってしまった。

「…ありがとう存じます」

となるべく微笑みながら答える。

その精一杯の微笑みを男爵様もみなさんも優しい微笑みで受け止めてくださって、その場になんとも言えない優しい空気が流れた。

思わず、

「うふふ」

と微笑んでしまう。

そんな私に男爵様は、

「さて、食事を続けよう」

と明るくおっしゃってくださった。

「きゃん!」

と鳴いて、コユキちゃんがミートボールにかじりつく。

私はその光景を心の底から微笑ましく思いつつ、その温かい食事を堪能させてもらった。


やがて、楽しい食事が終わりお屋敷を辞する。

送ってくれたメイドのエマさんにお礼を言って離れに入ると、少しだけ心配そうな顔でマーサが出迎えてくれた。

「うふふ。大丈夫。とっても楽しいお食事会だったわ」

と言ってマーサを安心させる。

そして、私は、

「ねぇ、知ってる?辺境のワンちゃんやお馬さんはおしゃべりするのよ」

と言って、ぽかんとするマーサに今晩あったことを楽しくお話した。

やがて、安からな気持ちで床に就く。

(良かった…)

という言葉が心の底から溢れてきた。

そして、同時に父上や母上のことを思う。

(私、大丈夫ですわ)

と心の中で父上と母上にそう声を掛けた。

寂しさが募る。

しかし、同時に今日のあの優しい食卓を思い出して、嬉しいような気持ちにもなった。

(なんだか不思議…)

と自分で自分の気持ちをおかしく思いながら目を閉じる。

そして、その日私はようやく心から落ち着いて熟睡することが出来た。


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