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第37話ベル先生と一緒に調査に行こう03

翌日。

いよいよ本格的な調査に入る。

ここからはいつ魔獣が出て来てもおかしくない。

そう思うと、自然と体に力が入った。

そんな私に、

「大丈夫です。ルーク様は絶対にお守りします!」

とミーニャが明るく声を掛けてくれる。

私は、

(なんとも情けないな…)

と思いつつも、笑顔で、

「ああ。頼んだぞ」

と、苦笑いでそう返した。


しばらく順調に進み、昼前。

急にライカが足を止める。

そして、

「ぶるる…」(遠くになにかいるよ…)

と、つぶやくようにそう言った。

「ミーニャ」

と先頭を行っていたミーニャに声を掛ける。

すると、ミーニャは、

「はい!」

と答えて馬から降りた。

私とベル先生も馬から降り、慎重に歩を進める。

すると、しばらくして、何やら獣道のようなものを見つけた。

「…オークですね」

とミーニャがつぶやく。

そして、

「3、4匹ってところじゃな」

と、さらにベル先生がつぶやいた。

それらの言葉を聞いて緊張が走る。

しかし、2人は慣れた様子で、

「なに、安心せい。たかが豚じゃ」

「はい。食べられませんが、ただの豚です」

と、まるで日常茶飯事のようにそう言ってくる。

私は、初めて遭遇するであろうオークという魔獣に戦々恐々としながらも、2人の余裕の表情に助けられ、

「わかった。私も前に出る。落ち着いて対処しよう」

と言うと、自分の中でそれなりの覚悟を決めた。


再び馬に跨りミーニャを先頭にして慎重に痕跡を追っていく。

徐々に濃くなっていく痕跡を追っていくと、やがて広い草原に出た。

痕跡は草原の奥の方へと続いている。

「ここからは慎重にいきましょう」

というミーニャの言葉にうなずいて馬から降りる。

そして、ライカに、

「コユキのことを頼んだぞ」

と言うと、コユキをライカの鬣の辺りに乗せ、私たちは慎重に草原の奥を目指して進んでいった。


進むことしばし。

遠くに黒い影が見えてくる。

「いましたね…」

とミーニャがつぶやいた。

「どうする?」

と聞いてくるベル先生に、私は、

「前衛は私とミーニャに任せてくれ。後からの援護と馬たちを頼む」

と言って前に出る。

そして、私とミーニャは互いにうなずき合うと、オークの方に向かって素早く駆けだしていった。


後から魔法の気配がして矢が飛んでいく。

そして、その矢は見事に命中したらしく、

「ブギャァ!」

という醜い声が上がった。

その声に反応して4つの影が動く。

(全部で5匹か…。予想よりも多いな…)

と意外にも冷静にその場の状況を見つつ、私はそのオークたちに向かって真っすぐ進んでいった。

3メートルはあろうかという気味の悪い二足歩行の豚の姿が徐々にはっきりとしてくる。

私はそれに怖気を感じつつも、

(この地で生きていくには必要な勇気だ…)

と自分を鼓舞するように言い聞かせながら、迷わず突っ込んでいった。


また矢が飛んでくる。

今度も過たずオークに命中した。

1匹のオークが悶絶して倒れる。

すると、残りの3匹が怒り狂ったようにドシドシと音を立てながらこちらに突っ込んできた。

その様子を見て、覚悟を決める。

そして、私はいつもの訓練の時のように、体の中で魔力を循環させていった。


また矢が飛んでくる。

それが突っ込んできたオークの肩に当たり、オークの足が一瞬止まった。

その隙に素早く懐に飛び込み足を斬る。

すると、嘘みたいにスパッとオークの足が両断された。

斬られたオークがドシンという音を立てて倒れる。

私は残身をとり、油断なく構えると、次の敵に目を移した。

先程よりもやや大きなオークがこちらに突っ込んでくる。

そして、その大きな拳を私めがけて振り下ろしてきた。

飛び退さって避ける。

するとそこへまた矢が飛んできた。

頬の辺りに矢が刺さりオークが、

「ブギャァ!」

と醜く吠える。

私はまたその隙を突いて今度は刀を横に一閃し風の魔法を放った。

オークが両断され、転がる。

そして、また油断なく残身をとるが、どうやら戦いはそこで終わったようだった。


「さすがです、ルーク様!」

と言いながらミーニャが嬉しそうにこちらにやって来る。

私はそんなミーニャの言葉に照れながら、軽くハイタッチを交わした。


そんな私たちのもとにコユキを乗せたライカが駆け寄って来る。

私の側に着くなり、

「きゃん!」(やったね!)

「ひひん!」(ルークすごい!)

と言って甘えてくるコユキとライカを撫でてやっていると、そこへベル先生も馬に乗ってやって来た。

「まずはご苦労じゃったな」

と言うベル先生にこちらも、

「いや。ずいぶん助けられた。ありがとう」

と言って、軽く握手を交わす。

すると、そんな私にベル先生は、

「お主何者じゃ?」

と、単刀直入に聞いてきた。


「何者もなにも、私はルーカス・クルシュテットだ。それ以上でもそれ以下でもない」

と苦笑いで答える。

しかし、そんな私にベル先生は、なおも、

「ほう。あの魔力、あの技…。どちらをとっても一流というにふさわしいと見たが、今までどうやってそれを誤魔化してきた?」

と聞いてきた。

(…さて、どう説明したものか…)

と逡巡する。

すると、そこへミーニャがやって来て、

「ルーク様は、目覚め、選ばれたのです!」

と、胸を張って、若干意味不明なことを言った。

「は?」

とベル先生が、やや素っ頓狂な声を上げる。

私はそのやり取りをなんだかおかしく思い、

「とりあえず、詳しい話は昼を食いながらにしよう」

と苦笑いでそう言った。


「ふっ。了解じゃ。では私はオークを片付けてやるから飯は頼んだぞ」

と言ってベル先生がオークのもとへ向かう。

私は手伝おうと申し出たが、

「なに、一瞬じゃ。見ておれ」

と言って、ベル先生は炎の魔法を使って瞬く間にオークを灰に変えてしまった。

「相変わらずコヤツらはよう燃えるのう」

と呑気に言いつつ、次々とオークを燃やしていくベル先生を唖然として眺める。

そして、

(この人は丁重にもてなさなければ…)

と思った。

そんな光景を経て昼食となる。

献立はいつもと変わらない辺境風のマッシュポテトだったが、一戦を終えた後だからだろうか?やけに美味しく感じられた。

「で、どういう訳なんじゃ?」

とベル先生が可愛らしい容姿とは裏腹に鋭い質問を直球で投げ込んでくる。

私は、

「うーん…実は私にも訳がわからんことばかりなんだが…」

と言いつつもこれまでのことを、もちろん前世の記憶云々は伏せたうえで後は正直に話した。


私が話を終え、お茶になる。

ベル先生は相変わらず緑茶を美味しそうに飲みながら、

「聞けば聞くほど信じられん話じゃな…」

と、こちらがあらかた予想した通りの答えを返してきた。

「ああ。自分でも何がなんだか…。今でも信じられん思いでいるよ」

と苦笑いで答える。

しかしベル先生はそんな私に真剣でまっすぐな目を向けてくると、

「しかし、フェンリルの教えを受けられたのは良かったのう。でなければ、その膨大な魔力の暴走で命を落としておっても不思議じゃなかったはずじゃ」

と、恐ろしいことを言ってきた。

「そうだったのか?」

と驚いて聞き返す。

すると、ベル先生は、

「ああ。それほどの魔力だ。きちんと使い方を学ばねば暴走して体を蝕むのは必然だろうな。これからも、朝の訓練だったか?それを続けるといい。なに、そこ何年かすれば徐々に魔力が体になじんでくるじゃろうて」

と何気なく答えて、また美味しそうに緑茶をすすった。


しばし沈黙が流れる。

私は、

(私は知らぬ間に恐ろしい状態に置かれていたんだな…。今度フェンリルに感謝を伝えに行かなければ…)

と思いつつ、ベル先生と同じように緑茶をすする。

するとそこへ、

「きゃん!」(だっこ!)

と言って、コユキが甘えてきた。

私の周りで張り詰めていた空気が一気に和む。

私はその綿毛のような小さな体を抱き寄せると、

「ははは。ありがとうな」

と言って、コユキを優しく撫でてやった。

やがて、

「ぶるる…」

と鳴いて、ライカも遠慮がちに甘えてくる。

私もそれも優しく受け止めると、改めて2人に、

「ありがとう。側にいてくれて良かった」

とお礼を言った。

「きゃん!」(よくわかんないけど、私もありがとう!)

「ひひん!」(うん。こちらこそだよね!)

と2人が嬉しそうにそう言ってさらに甘えてくる。

私は戦いの緊張も、先ほどの話の深刻さも一瞬忘れて、穏やかな気持ちでまた2人を心ゆくまで撫でてやった。


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